[特集]

Q&Aで学ぶデジタル放送(16):ビデオ・オン・デマンドとは?

2008/09/09
(火)
亀山 渉

このコーナーでは、最新のICT(情報通信技術)のキーワードをQ&A形式でわかりやすく解説していきます。
現在、地上デジタル放送から、BSデジタル放送、CSデジタル、CS110°デジタル放送に至るまで、さまざまなデジタル放送が利用でき、多彩な放送を受信できるようになりました。ここでは、これらのデジタル放送と、今までのアナログ放送やインターネットとの相違点から、デジタル放送時代の法制度までを解説していきます
今回は、ビデオ・オン・デマンドについて説明します

Q&Aで学ぶデジタル放送(16):ビデオ・オン・デマンドとは?
Q16

Q16:ビデオ・オン・デマンドとは?

ビデオ・オン・デマンド(VoD:Video on Demand)というサービスがあると聞きますが、デジタル放送とどのように違うのですか?

A16

いつでも好きな時に好きな番組を見たいというのは、テレビに対する基本的な要求だと考えられており、いくつか消費者の調査でもそれを裏づける結果が得られています。それでは、技術的にこれを実現するには、どうしたらよいのでしょうか。

≪1≫ビデオ・オン・デマンドとは?

このような要求条件を満たすために、1990年代始めからビデオ・オン・デマンド(Video on Demand、VoDとも略される)と呼ばれるサービスの実現に向けた世界的な技術開発競争が湧き起こりました。

ビデオ・オン・デマンドとは、文字通り、「要求のあった時に好きな番組をビデオ・サーバと呼ばれる番組の蓄積装置から呼び出し、いつでも好きな時にその番組を視聴できる」というサービスです。いつでも好きな時に好きな番組を見たいという要求条件を完全に満たすサービスとして、これ以上のものはないでしょう。レンタル・ビデオ店に出向く必要はありませんし、見たいものが貸し出し中という残念な思いをしないで済むわけです。

ビデオ・オン・デマンドに関する技術開発は、1994年にDAVIC(Digital Audio Visual Council)という国際的な標準化組織が設立されるに至って、1990年代半ばに競争のピークを迎えることになりました。しかし、DAVICの活動が進むに連れて、レンタル・ビデオと同様なコストでこのシステムを実現することが不可能であることが次第にわかり、1999年にDAVICの活動が終了するとともに、研究開発競争も下火になってしまいました。一体、何が問題だったのでしょうか。

≪2≫高くついたネットワークとサーバのコスト

もちろん、さまざまな原因がありますが、大きなものとして、ネットワークとサーバのコストが高かったということが挙げられます。

まず、ネットワークのコストですが、ビデオを送るためにQoSが保証された安い値段の通信回線は結局実現しませんでした。品質の良いビデオを伝送するためには、最低でも6Mbpsの回線が必要ですし、インターネットのようにQoSを保証できないものは使用できません。DAVICの活動当初には、ATM(Asynchronous Transfer Mode、非同期転送モード)と呼ばれるネットワークが21世紀には普及しているとの予測がありましたが、コスト的な問題で現在でも一般には普及していません。

また、実際のサービスを行うことを考えると、新作ビデオなどはアクセスが集中するために、何万人もの要求をほぼ同時に処理することのできるビデオ・サーバが必要になります。しかし、これはとても高価なものになり、結局、この価格も1本のビデオの視聴にかかる価格に反映せざるを得ません。このような理由から、レンタル・ビデオの価格を何倍も上回る価格設定にせざるを得ず、ビジネスとしての実現が難しいことが判明したのです。

≪3≫ビデオ・オン・デマンドから蓄積型放送/サーバー型放送へ

それでは、ビデオ・オン・デマンドは実現不可能な夢のサービスなのでしょうか? いいえ、そうではありません。Q15で述べた、蓄積型放送あるいはサーバー型放送と呼ばれるものがその回答になります。大容量の蓄積装置は、いわば巨大なバッファ(蓄積メモリ)が受信端末にあるのと同じことになるため、ネットワークはQoSを考慮する必要がありません。ユーザーの要求は、ビデオ・サーバに対してなされるのではなく、家庭にあるローカルの蓄積装置に対してなされるのです(図1-2)。

このような仕組みにすれば、QoSを保証し伝送容量も十分ですが、その代わりコストがかかるネットワークを使用する必要はありません。つまり、現状のインターネットを、そのままビデオ配信ネットワークとしても使用できるということなのです。また、高負荷に耐えられる高価なビデオ・サーバを用意する必要もありません。

蓄積型放送あるいはサーバー型放送で問題となるのは、本当に見たいビデオがハードディスクに蓄積されているかどうかだけとなります。これは、効率的なメタデータの配信を行うことによって十分に解決できます。

このようにして、ユーザー本来の要求を満足させるビデオ・オン・デマンドは、形を変え、デジタル放送における蓄積型放送あるいはサーバー型放送として、私達の生活に入ってくることになるでしょう。

ところで、近年、種々のインターネット・プロバイダが、ビデオ・オン・デマンド(VoD)・サービスと称して、FTTHなどのブロードバンド回線を利用した映画やドラマなどのコンテンツ配信を始めています。また、QoSを保障する新しいネットワーク(NGN:次世代ネットワーク)も登場しており、ブロードバンド・ネットワークで高品質なビデオ・オン・デマンド・サービスが受けられる時代を迎えています。


図1-2 ビデオ・オン・デマンド(VoD)と蓄積型放送/サーバー型放送の違い(クリックで拡大)


※この「Q&Aで学ぶ基礎技術:デジタル放送編」は、著者の承諾を得て、好評発売中の「改訂版 デジタル放送教科書(下)」の第1章に最新情報を加えて一部修正し、転載したものです。ご了承ください。

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