[特別レポート]

ジュニパーネットワークスの次世代ルーティング戦略(前編)

=仮想化技術をベースに『シンプル、省電力、簡易操作』を目指す=
2008/10/01
(水)
SmartGridニューズレター編集部
写真2 リチャード・ベイリス氏(ジュニパーネットワークス エンジニア)
写真2 リチャード・ベイリス氏
(ジュニパーネットワークス
エンジニア)

講演2 オープン・ガーデン・フレーム・サービス
=重要なサービス指向型アーキテクチャ(SOA)とIPsphere=
ジュニパーネットワークス エンジニア
リチャード・ベイリス(Richard Bayliss)

次に、ジュニパーネットワークス エンジニアのリチャード・ベイリス(Richard Bayliss)氏は、「オープン・ガーデン・フレーム・サービス」と題して、図5を示しながら、現在、いろいろなサービス・プロバイダから提供されているいろいろなサービスを、どのように融合し、サービスを拡張させ収益を上げていくことができるか、について講演した。まず図5の例を示して、無線サービス・プロバイダと有線サービス・プロバイダの現状の解説からスタートした。


図5 無線ブロードバンドと有線ブロードバンドのトラフィックと収入の傾向(クリックで拡大)


≪1≫求められるサービス指向型アーキテクチャ(SOA)

図5に示すように、初期の段階では、音声中心のサービスであったため、トラフィックの増加と売り上げは比例関係にあってとくに問題はなかったが、本格的な無線ブロードバンド時代を迎え、音声よりもデータ・サービスの提供のほうが支配的になってきた今日、トラフィックの急増に比べて、売り上げは頭打ちになってきている。これは、図5の右に示すように、有線ブロードバンドの過去5年の例をみても、加入者のトラフィックの増大(青い線)に比べて、ARPUは同様に横ばいになってきている一方、サービス・プロバイダのオペレーション・コストの割合はどんどん増大しているため、収益を大きく圧迫するようになってきている。


図6 現在の典型的なサービス・プロバイダ(SP)が提供するサービス(クリックで拡大)


また、図6を示しながら、今日の典型的なサービス・プロバイダからは、

(1)プロバイダによってポリシー制御されている「Walled Garden Service」(契約した加入者に提供される限定サービス)
(2)インターネットから提供される「Over-the-top Services」(オープンなサービス)

の2つの形態のサービスが提供されている。これらのサービス形態を効率化し収益を増大させるためには、サービス指向型のアーキテクチャ(SOA)が求められている。

具体的には、いろいろなアプリケーションに対して既存のネットワークの各要素を再利用すること、新しいサービスを素早くしかも容易に作り出せるようにすること、無線・有線・衛星などの技術柔軟に連携させたネットワーク構成とすること、サービス・プロバイダ内のビジネス・チームとネットワーク・チームの責任分担を明確にすることが利益の向上に結びつくことになる。

≪2≫重要となってきたIPsphereの2つの役割

これを実現するために、IPsphere(IPによって実現される世界という意味)が重要である。IPsphereとは、通信事業者や大企業のネットワーク・システムな構築するためのSOA(Service Oriented Architecture)に基いて体系化された、IPサービス利用・構築のためのモデル。2003年にジュニパーネットワークスの提唱によって設立された「インフラネット構想推進協議会」が、2005年に「IPsphereフォーラム」(www.ipsphere.org)へと発展(2005年設立。2008年9月現在:28社)し、米国・欧州・アジアにおける通信事業者や通信ベンダがコンテンツ・プロバイダと協力しながら、信頼性の高い通信環境の実現にむけて活動を展開している。

具体的には、

(1)サービス開発の短縮化
(2)サービスを提供するためのプラットフォームの共通化

の2つを実現し、運用コストを削減して収益の増加を目指している。

さらに、図7に示すように、単独のサービス・プロバイダだけではなく、複数のサービス・プロバイダ間をIPsphereによって連携させることによって、図7左端に示すユーザーが、右端に示すコンテンツ・ツプロバイダが提供するサービスを、複数のサービス・プロバイダを経由しても快適に利用できる環境となる。


図7 IPsphereによる複数のサービス・プロバイダ間の連携(クリックで拡大)


従来、ユーザーはコンテンツの利用料をコンテンツ・ツプロバイダにだけ支払い、サービス・プロバイダは「コンテンツを無料で運ぶ」のみで収益につながらないことが多かったが、IPsphereによってコンテンツ・プロバイダとも連携し、コンテンツをSLA(Service Level Agreementサービス・プロバイダがユーザーにサービスの品質を保証する制度)によって保証されたよい品質で提供し、しかも最適ルートの選択やトラブル時の検出も行い、さらの課金のシステムの構築などをコンサルテーションすることによって収益が見込めるようになる。

≪3≫IPsphereフォーラム

ここでIPsphereフォーラムの歴史を要約すると図8を示すようになるが、このIPsphereフォーラム は、2008年9月にTMフォーラム(TeleManagement Forum)と統合し、新しいフェーズを迎えることになった。この通信事業者ネットワークの運用・管理の標準化推進する国際的な業界団体であるTM Forum(TeleManagement Forum)は、OSI/Network Management(1988年設立)からNMF(Network Management Forum(1992年)へ、さらにTM Forum(1998年)と名称を変更して今日に至っており、2008年9月現在700社以上が参加し、この分野では最大のフォーラムとなっている。IPsphereフォーラムはTMフォーラムと統合することによって、活躍の場が拡大されることになった。


図8 IPsphereフォーラムの歴史とTMフォーラムとの統合(クリックで拡大)


現在、2008年に行うIPsphereフォーラムのメンバーのよる世界的なフィールド・トライアル(実証実験)の準備を進めているところで、このフィールド・トライアルでは、VoDにおけるエンド・ツー・エンドのサービス品質の確認などを行う予定である。今後のどのようなキラー・アプリケーションが必要かを考えているが、キラー・アプリケーションとは、どのようなサービスであっても安定したクオリティ・オブ・エクスペリエンス(ユーザーが品質の良いコンテンツを体感できること)を提供することではないかと思っている。

このフィールド・トライアルは、

(1)IPsphereのフレームワークがサービス・プロバイダにとって、メリットがあることを実証すること
(2)コンテンツ・プロバイダと柔軟なパートナーシップを組んでいけることを実証すること、そしてその呼びかけのきっかけをつくること

の2つがポイントとなる。

――「後編」へつづく――

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