[特別レポート]

ジュニパーネットワークスの次世代ルーティング戦略(後編)

2008/10/06
(月)
SmartGridニューズレター編集部

国際的なネットワーク関連機器のリーディング企業であるジュニパーネットワークスは、革新的なエッジ・ルータやコア・ルータおよび仮想化技術をベースにした製品や、新しいアーキテクチャなどを相次いで発表している。このほど新製品『「SRX」ダイナミック・サービス・ゲートウェイ』の発表に当たって、プレス・セミナーを開催(2008年9月13日)。動画配信時代に急増するインターネットのトラフィックに対し、プロバイダはどうネットワークの価値を引き出し、どう収益を向上させるか。あるいはNGN(次世代ネットワーク)や間近に迫った本格的なモバイル・ブロードバンド時代にどう対処すべきか。トラフィックが急増するアジア太平洋地域(APAC)でのビジネス展開を紹介しながら、同社の講師陣がジュニパーネットワークスの次世代ルーティング戦略を熱く語った。
後編では、〔講演3〕電力効率のよいネットワーク・システムの実現や、〔講演4〕新製品「SRX」ダイナミック・サービス・ゲートウェイ「SRX 5600」と「SRX 5800」、を中心にレポートする。

ジュニパーネットワークスの次世代ルーティング戦略(後編) =仮想化技術をベースに『シンプル、省電力、簡易操作』を目指す=
写真3 佐宗 大介氏(ジュニパーネットワークス マーケティングマネージャー)
写真3 佐宗 大介氏
(ジュニパーネットワークス
マーケティングマネージャー)

講演3  電力効率のよいネットワーク・システムの実現
=グリーン・ネットワーク・ソリューションへの潮流=
ジュニパーネットワークス マーケティングマネージャー
佐宗 大介

≪1≫最も重要な課題:ネットワーク機器の電力消費の解決

具体論に入る前にコロン氏は、国際的なインターネットのトラフィックが、年平均成長率が1.88倍ずつ増大していることを挙げながら、これに対応してこれらを支えているネットワーク機器の電力消費(=コスト)もあがっていることを指摘し次のように述べた。

ジュニパーは、過去5年間にわたってこの電力消費問題に大変な努力をして取り組んでききているが、データ・センターのラック当たりのコストの構造は図9を示すようになっている。


図9 データ・センターのラック当たりのコスト構造(クリックで拡大)


図9に示すように、右下に示すグレーの部分はどんな機器であれかかってくるコスト(約40%。インストールや保守など)、真ん中の15%は機器を設置するスペースのコスト、残りの約半数の44%は電力コスト(内訳:冷却電力、機器駆動用電力、電力装置用電力)となっている。現在、ルータにおいて電力や冷却の問題が最も大きな問題となってきており、米国では消費電力の10%近く(9.4%)がインターネット関連の電力となってきている。このため、グーグルをはじめコンテンツ・プロバイダなどは、自社で発電設備を設置するほどになってきている。

具体的には、図10に示す電力消費の予測(2005年〜2025年)のように、ネットワークの規模がどんどん大きくなっていく中で、サーバ業界は、先駆的に仮想化(バーチャライゼーション)などによって、電力消費を大幅に改善させてきた。

一方、このようなサーバの改善に比べて、明らかにネットワーク機器は電力消費への対応が遅れていたため、ジュニパーはこの5年間、グリーンに貢献するため大変など努力を重ね、その成果が実り始めてきた。


図10 急増するネットワーク機器の電力消費(予測)(クリックで拡大)


≪2≫電力効率で40%以上、ラック設置面積で50%以上も改善

このコロン氏の講演を受けて、マーケティング マネージャーの佐宗氏は、同社の製品ラインナップとして、図11の示すコア製品のT 1600シリーズ、イーサネット関連製品のMXシリーズ、エッジ関連製品のMシリーズ、サービス・プロバイダ向けのアグリゲーションやデータ・センター関連製品のEXシリーズなどの製品を紹介しながら、同社の電力効率の改善の取り組みについて次のように述べた。


図11 ジュニパーの4分野の新製品のラインナップ(クリックで拡大)


図12に示すように、当社の最上位機種のT 1600シリーズ(図12の左側)とほぼ同性能の他社製品(図12の右側)を比較した場合、電力効率で40%以上を改善し、ラックスペースでは50%以上も小さくて済む。具体的には、半分のラックの大きさで、スループットとして1.6テラビットを実現している。

とくに電力を考慮した場合、最近は電力消費の指標としてEER(Energy Ffficiency Rate、エネルギー効率比)つまり1kW当たりのスループット(GBps/1kW)が注目されるようになってきており、サービス・プロバイダでは、このようなトラフィックの効率が重視されている。具体的には、音声の場合は「1呼当たり」のコストはいくらか、SNSの場合は「1メッセージ当たり」のコストはいくらか、と言うような具合である。


図12 大幅に消費電力とラックスペースの削減に成功したジュニパーのコア・ルータ「T1600」(クリックで拡大)


このようなことは、T 1600シリーズのような大型の製品ばかりではなく、3スロット程度の小型のEXシリーズでも、電力効率を上げることに成功している。このEXシリーズでは、バーチャル・シャーシ(仮想化シャーシ)技術が大きな特長となっている。この仮想化技術は、大きく分けて、

(1)アグリゲーション:いくつかのものを統合して1に見せる技術
(2)パティショニング:1つのものをバラバラにして見せる技術
(3)エミュレーション:VPNやオーバーレイさせるような技術

の3つがあるが、EXシリーズはアグリゲーション型の仮想化技術を採用している。

さらに図13を示し、ジュニパーは、

(1)ネットワークをシンプルにすること(ネットワーク・レイヤ)
(2)電力効率を良くすること(環境 レイヤ)
(3)オペレーションを簡単にすること(マネージメント・レイヤ)

の3点を重視している。これに関するジュニパーの具体例として、次に大規模なキャリアのネットワークの場合と、データ・センターの場合を紹介する。


図13 複雑さを解消しシンプルに向かうジュニパーのネットワーク(クリックで拡大)


≪3≫典型的なTier-1キャリアの例:4つレイヤでシンプル化

図14は、典型的なTier-1キャリア(例:NTTコミュニケーションズのような国際的に通信サービスを提供する通信事業者のこと)のHUB(ある拠点:東京)の構成例(Plane A/Plane B:メイン用/バックアップ用、あるいはロードバランシング用)である。

HUBは、上から、(1)スーパー・コア部(例:東京-ロサンゼルス間の通信を担当)、(2)コア部(例:東京-横浜間を担当)、(3)エッジ(サービス・リクワイアメント部。例:10Gbps、図14のオレンジの線)、(4)アグリゲーション部(ユーザーからのトラフィックを収集。多くのスイッチで構成)の4レイヤで構成される。例えばスーパー・コア部では、ラインカード当たり超高速の40Gbps(OC-768)のトラフィック(図14の青い線)が流せるように対応している。


図14 典型的なTier-1キャリアのHUBデザイン(クリックで拡大)


〔1〕まずEXシリーズとMXシリーズでシンプル化

図14の、最下位に位置するアグリゲーション部は、多数のスイッチで構成されているが、ここは今後トラフィックの増加につれて、さらに多くのスイッチの増設が予測される。そこで、ここに、バーチャル・シャーシを採用したEXシリーズ(EX 4200)を図15のように導入し、機器の数を大幅に減少させることができ、仮想的にひとつに見せることで障害の発見がしやすくなるなどオペレーションも容易になり、コスト効率を向上させ、プロバイダが収益率を高くできるようになる。


図15 バーチャル・シャーシを採用したEXシリーズ(EX 4200)の導入(クリックで拡大)


さらに、次のステップとして、エッジ部にMXシリーズあるいはMシリーズを導入する(図16)ことによって、コア部からMPLSのドメインを下位にも拡張できるようになるとともに、機器の数を減らすことによって電力効率の向上、スペースも確保できオペレーションもシンプルになる。

〔2〕コア部にT-640、スーパー・コア部にT1600を導入

また、図16を示すように、スーパー・コア部に前述したT1600(将来的に100Gbpsに対応)などを導入することによって、機器やインタフェースの集約効率を上げることができ、結果的にスペースやインタフェースを減少できる。また、その下のコア部分にT1600の兄弟製品であるT640を配置し、JCS(Juniper Control System、ジュニパー制御システム)を用いた仮想化によって、当社の異なるバージョンのOS(JUNOS)を走らせることが可能となる。


図16 エッジ部にMX/Mシリーズ、コア部にT640、スーパー・コア部にT1600を導入(クリックで拡大)


≪4≫データ・センターのシンプル化

また、現在、データ・センターには、新しく登場したYouTube(ユーチューブ)やmixi(ミクシィ)などのリッチ・コンテンツへのアクセスが増大しているが、同時にコンテンツから出るセッション数も多くなっている。例えば、Googleマップに1人のユーザーがアクセスすると、セッション数は20〜50くらい必要とするほどに増大しており、これは従来のようなアプリケーションにはなかった現象である。

さらに、最近はダウンロードによる下りのコンテンツだけではなく、SNSやブログなどのようなコンテンツのアップロードも急増している。同時に、セキュリティへの十分な配慮も必要となってきている。このような背景から、データ・センターのシステムは複雑になってきており、シンプル化が求められている。このシンプル化を実現するため、ユーザーからのアクセス部に、前述したバーチャル・シャーシ(EX-4200)を導入し、アグリゲーション部にMXシリーズを導入するなどによって、これらの課題を解決できるようになった。

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