[スペシャルインタビュー]

ジュニパーネットワークスのNGN戦略を聞く:コア・ルータ、エッジ・ルータ向けなどに特化

2007/12/25
(火)
SmartGridニューズレター編集部

ハイエンド・エンタープライズ・ルータ、コア・ルータ、エッジ・ルータなどの各種ルータ、セキュリティ・ソリューション、アプリケーション・アクセラレータを提供しているジュニパーネットワークスは、Interop Tokyo 2007における「Best of Show Award」プロダクト・アワード部門にてインフラ構築製品のグランプリを受賞するなど、製品に対する国内・海外における高い評価と、パートナー満足度の高さなどで知られています。そこで、ジュニパーネットワークス(以下、ジュニパー)のNGNに対する取り組みについて、代表取締役である大須賀雅憲(おおすが・まさのり)氏に語っていただきました(本文中:敬称略)。
聞き手:インプレスR&D 標準技術編集部 / ランドッグ・オーグ 平野正喜

インプレスR&D 標準技術編集部 / ランドッグ・オーグ 平野正喜

ジュニパーネットワークスのNGN製品戦略を聞く

≪1≫ジュニパーの製品戦略

ジュニパーのNGNに対する取り組みから教えてください。

大須賀 日本におけるNGNと欧米におけるNGNでは、持ち味が違うと感じています。しかし、どの通信事業者においても、NGNがなんらかの形で課題になっていることに、違いはありません。このことがジュニパーのビジネスチャンスになっています。具体的には、世界の通信事業者の設備投資額における上位25社が、なんらかの形でNGNにアプローチしており、ジュニパーはこの25社すべてになんらかの形で貢献しています。

ジュニパーのNGNに関する製品戦略はどのようなものですか?

大須賀 なにもかもを提供しようという間口の広い戦略ではなく、ジュニパーが持っているコア・ルータ、エッジ・ルータなどへ特化した戦略を採っています。この戦略に則って、パフォーマンスが高い「良い製品」を送り出そうというのがポリシーです。

ジュニパーは通信事業者のNGNへの取り組みにどう関わっていきますか?

大須賀 NGNに対する見方は、通信事業者によって異なりますが、どの事業者も基幹となるネットワークにおいて、古いテクノロジーを使おうとは思っていません。やはり、全てをIPにしようという動きになっています。ジュニパーの製品は全てIPを基盤としていますので、そこに深く関わっていけると思います。

また、ジュニパーは創業以来ハイエンドの大型機器を提供していますので、基幹において使われる製品を担っています。これをNGNにおいて活用していただくために、用途に合わせたチューニングをしていきます。

≪2≫ジュニパーの製品体系

では、次にジュニパーの製品体系の概略について説明してください。

大須賀 図1に示すとおり、企業のネットワーク利用は大きく本社、支社、データセンタ、自宅がそれぞれ接続するコアネットワークと、ここに必要な認証・管理端末から成り立っています。

ジュニパーの製品としては、図1のコアネットワークにおいて使っていただくものと、企業ユーザ向けの広帯域に対応したセキュリティ製品などがあります。

図1 ジュニパー製品一覧

図1 ジュニパー製品一覧(クリックで拡大)

企業内部におけるNGNへの取り組みにはどう関わっていますか?

大須賀 お客様によって異なりますが、まず通信事業者についてお話しますと、例えば英国・BT社の場合、電話網のNGNへの置換えが中心ですが、一方でビジネス・ユーザ向きのソリューションも考えています。これはNTTも同じなのではと私は考えています。これに対して、アメリカでは状況が異なります。例えば、米・ベライゾン・コミュニケーションズ社の場合は、本格的な展開はまだではないかと思います。

これはどこでも共通だと思うのですが、まず、一般ユーザ向けの新しいインフラを構築 し、それから企業ユーザ向けのサービスを展開していくという流れが、ほとんどだと思います。もちろん、広帯域をどう活用するかについて、ビジネス・ユース におけるいろいろな可能性が論じられていくでしょう。

NGNに関するジュニパーの製品体系を示してください。

大須賀 ジュニパーの製品群は、以下の11のジャンルに分類できます。

(1)コア・ルータ
(2)エッジ・ルータ
(3)セキュリティとファイアウォール関連製品
(4)ロードバランサ
(5)圧縮
(6)侵入検知
(7)アクセス・コントロール
(8)SSL
(9)認証
(10)ポリシーマネジメント
(11)UTM(統合型脅威管理)

なお、コア・ルータについて厳密に言えば、純粋なコア・ルータと、イーサネット・アグリゲーションに分けることができます。よってルータについては、超巨大と言われるものから、小型タイプまでそろえています。

では、ジュニパー製品の具体的な使われ方について教えてください。

大須賀 まず、NGNの根幹となる基幹コア・ルータがあります。そして、管理機能が充実したエッジ・ルータも活用されています。また、加入者管理のような機能は、コア・ルータで行おうという考え方が一般的になっています。コア・ルータとエッジ・ルータの役割分担が明確になっています。コア・ルータの導入にあたっては、一般的には複数のベンダから購入する形態がとられています。利用側のリスクを分散するためのマルチベンダ化です。しかし、一方でエッジ・ルータの場合は、コア・ルータと比べると、単独ベンダーから購入することが多いように感じます。いずれにしても、その両分野において、ジュニパーは大きな国内シェア を獲得しています。

≪3≫ルータに対する要求を満たすジュニパー

コア・ルータに要求される能力や要素を整理すると、どのようになりますか?

大須賀 コア・ルータは大量のIPパケットを正確に、しかも高速にルーティングしなければなりません。これは相当な負荷になります。ジュニパーの従来製品でいえば、640Gbpsの処理能力がありますが、新製品で最大ルーティング容量を1.6Tbpsまで伸ばしました。

これだけ高い処理能力が要求されると、電力、スペース、重量の問題がでてきます。お客様からは「これ以上場所を取らないで」「消費電力を少なく」「これ以上重いと困る」というような声が上がっています。そこで、ジュニパーでは、1世代前つまり640Gbpsのルータと同じ大きさと重量で、消費電力を大幅に削減する製品を開発しました。これを市場における従来製品と1.6Tbpsにおけるスループットにおいて換算で比較したのが、図2です。容積でマイナス60%、消費電力で約半分、重量に至っては約3分の1になっています。

しかも、これまでのフラグシップモデルのT640からの無停止でのアップグレードをサポートしていますので、基本的に同じ筐体を利用して、より高スループットなコアルータにアップグレードする事が可能です。つまり、産業廃棄物の削減にも貢献しているわけです。

図2 1.6Tbpsスループット時における比較

図2 1.6Tbpsスループット時における比較(クリックで拡大)

具体的な製品で比較するとどうなりますか?

大須賀 Interop Tokyo 2007でグランプリを取ったジュニパーT1600を、競合他社の同等製品と比較すると図3のようになります。

T1600は最大ルーティング容量1.6Tbpsで、かつ、標準ラック幅でありながら、非標準ラック幅で最大容量1.28Tbpsの他社製品の半分のラックしか占有しないのです。しかも、100GEのインタフェースへの対応準備が整っています。

図3 T1600 ジュニパー・フラグシップモデルと市場における従来製品の比較

図3 T1600 ジュニパー・フラグシップモデルと市場における従来製品の比較(クリックで拡大)

このように、他社にないメリットを追求すると、かなりの研究開発コストがかかるのではありませんか?

大須賀 コア・ルータのためだけではありませんが、研究開発に売上高の20%以上のコストをかけています。実は最もコストがかかるのが、ASICです。ジュニパーではほとんどの製品でASICを実装しており、ある特定のCPUに処理を集中していません。このASICが低消費電力の実現に大きく寄与している事は間違いないでしょう。 ASICの開発には長い時間と莫大な費用がかかりますが、この設計開発を自前でできるのがジュニパーの強みです。すべてを内製するわけではありませんが、製品の最も重要な部分を内製することで、他社には真似のできないソリューションを提供できるわけです。

実際に、今後、コア・ルータに求められる能力はどの程度まで上がるとお考えですか?

大須賀 いろいろな数字がでているようですし、マルチキャストかユニキャストかによっても違うと思いますが、近い将来には、平均1.5M/秒程度のの通信量が当然になり、3000 万から4000万の加入者数ではバックボーンのトラフィックは20~25Tbpsではないかという数字があるようです。ジュニパーでは、トラフィックの予測をしながら、来るべき時期にどういうテクノロジーが必要かを常に頭において研究開発しています。

IPTVなどによるトラフィックの急激な上昇が懸念されていますが、どの程度の上昇率を念頭においていますか?

大須賀 調査機関などの数字ですが、ブロードバンド加入者やブロードバンド市場規模の伸びは7%程度です。これに対して、主要IPにおけるトラフィック量は77%、 国内主要ISPのバックボーン容量に至っては、86%もの勢いで伸びてきました。この伸び今後も支える技術を提供していく必要があるわけです。

≪4≫ルータのセキュリティ

ルータやその周辺に要求されるセキュリティについては、どのように考えていますか

大須賀 安心、安全には二種類の面があると思います。まず、単体での信頼性が高いこと、バグがなく、落ちないことですね。そしてもう一つは、利用者が脅威にさらされないことだと考えます。

コア・ルータとエッジ・ルータに関してはどういうポイントがありますか?

大須賀 コア・ルータについては、いくら高機能でダウンしづらい製品を提供したとしても、お客様は冗長構成を求められます。しかし、冗長化すれば万事OKというわけではありません。ここにもインサービス・ソフトウェア・アップグレード(ISSU)、ノンストップ・ルーティングを可能とする、ジュニパー製品の強みがあります。

そして、エッジ・ルータについては、加入者管理をすることもあり、可用性に加えて加入者やサービス毎のQoSを提供する必要性、さらにはセキュリティを確実に守っていく必要があります。セキュリティをネットワーク側で実現するには、今後も検討すべきことがたくさんあると思います。

≪5≫ジュニパーのアドバンテージ

コア・ルータ、エッジ・ルータにおけるジュニパーの優位(アドバンテージ)をまとめるとどのように表現されますか?

大須賀 まず、コア・ルータにおいて、シングル・シャーシではNo.1の容量と高機能があります。またコア・ルータに求められる全ての機能を提供しています。にもかかわらず、省電力、省スペース、軽量なのがポイントです。トラフィックの伸びに対して、安定して稼動し続けるためにも省電力は必須であり、同時に、省スペースで軽量であることは、お客様の大きなメリットになります。

省電力と省スペースは、実際にどの程度のコスト差になりますか?

大須賀 図4は、ジュニパーのT1600ルータで、10年間を鑑みた場合のコストの差を、電力とラック・スペースで数値化したものです。ご覧の通り、どちらもジュニパーが半分程度であり、電力消費量で1億8300万ドル、ラック・スペースで1億400万ドルもの差になることがわかります。

図4 ジュニパーT1600ルータと市場製品で比較する10年間のコストの差

図4 ジュニパーT1600ルータと市場製品で比較する10年間のコストの差(クリックで拡大)

ジュニパーの他製品についてはどうなのですか?

大須賀 イーサネット・プラットフォームなどでも、低消費電力というエコロジーを実現しています。例えば、MXシリーズの場合、ルーティング容量480Gbpsに換算した電力消費量は、他社製品では 8100ワットになりますが、ジュニパーのMXシリーズでは2800ワットしかありません。この差に国内のボックス型L3スイッチの出荷ポート数を掛け合 わせますと、2005-2007年の3年間で、約44万kWになります(図5)。つまり、理論上ですが、ジュニパーのMXシリーズに換えることで、国内の超大型水力発電所に換算すると約1.4個分に相当する電力削減ができることになります。

やや、オーバーな表現に見られるかもしれませんが、NGNが普及していく中で、電力消費の増大を放置しておくと、大変なことになるということは、わかっていただけると思います。

図5 低消費電力のMXシリーズでエコロジーを実現

図5 低消費電力のMXシリーズでエコロジーを実現(クリックで拡大)〔※1 出典 : 2007年 富士キメラ総研〕

エコロジーにも貢献しているということですね

大須賀 その通りです。高性能や高機能は当たり前のことですが、それだけではなく、環境への取り組みを評価する国や自治体が世界的に増えています。しかも、世界的には電力消費が逼迫している場面がいくらでもあります。ジュニパーがお客様からの「こういう製品を作って欲しい」という声に応えつつ進めてきたことが、そのままアドバンテージになっているわけです。

NGNで培ってきた技術を企業のエンタープライズ・システムに活かすことについては、どうお考えですか?

大須賀 ジュニパーは最近新たに「ハイ・パフォーマンス・ネットワーキング・フォー・ハイパフォーマンス・ビジネス」というメッセージを提示しました。今日の企業ネットワークにおいてもアベイラビリティが求められています。ジュニパーのコア・ビジネスである通信事業者で高く評価されているアベイラビリティを持つ製品を、一般企業にも提供していこうというものです。実際に、エンタープライズ市場でも、キャリア・グレードのパフォーマンス をもつネットワーク機器を求める声が高くなっています。いわば「ノン・テレコム」なお客様にもハイレベルな技術を提供していくということです。

≪6≫ジュニパー の販売戦略とNGN

ジュニパーのパートナー戦略について教えてください。

大須賀 海外では直接販売を行っていますが、日本では間接販売のみとしています。よってパートナー戦略は非常に大事な要素です。多くのパートナーに恵まれていますが、例えば、NECを例にとるとわかるように、ジュニパー製品がパートナーの製品とコンフリクトすることはあまりありません。補完的な関係になっているからです。これも、ジュニパーが特化した製品構成を取っていることが、功を奏しているといえるでしょう。パートナーに脅威を与えるような製品構成の拡大は考えていません。

国ごとの戦略は本社が決めるのですか?

大須賀 各国にあわせた戦略を各国において立てることが任されています。アメリカ本社から具体的なパートナー戦略が命じられることはありません。

世界的な状況を踏まえて、NGNの現状と近い将来の姿はどうなると考えますか?

大須賀 まず、世界的には非常に地域格差が大きいです。いわゆる「ネットワーク後進国」では、通信インフラに予算を割けませんし、政治的理由により高速ネットワークやNGNの提供が難しい場合もあるようです。 NGNを展開する国とこれから展開する国の間でさらなる情報格差が生まれてしまう懸念があります。

では、最後に今後のジュニパーの戦略について教えてください。

大須賀 ジュニパーの強みは技術ですので、この技術に磨きをかけていくことが最優先のテーマです。NGNの進展により世界中の電話回線がすべてIPになるには、まだまだ時間がかかると思います。新しいテクノロジーへの取り組みは欠かせませんが、既存技術をきちんと伸ばしていきます。

ありがとうございました。

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