[視点]

個人情報保護法改正は何をもたらすのか スマートメーターのデータの取り扱いはどうなる?

2015/03/25
(水)
中尾 真二 フリーランスライター

スマートグリッド・新電力業界への影響

最終的な新しい法律は今後の国会審議次第となる部分はあるが、現状では、ほぼ原案どおり可決される見込みだ。政府の当初の方針では2015年中に新しい個人情報保護法を施行するとしているが、仮に法律が変わったとして、スマートグリッドや新電力分野にはどのような影響があるだろうか。
 
実は、議論の後半に入って、EUと整合しないと現地法人の社員名簿を本社が閲覧できず、個別の契約や合意が必要だと、日本の産業界からもアメリカ方式への異論がでてきた。グローバルでは、すでにグーグルやアップルがプライバシー保護に戦略をシフトしており、際限ないライフログの利用を推し進めると日本がガラパゴス化する可能性もでてきた。
 
さらに、2015年1月に米国ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市International CESではFTC(連邦取引委員会)の議長が「IoTにおいてプライバシー保護の監視は緩めない」と異例の基調講演を行った。なお、個人情報やプライバシーの商業利用に関する個別規制のないアメリカでは、FTCが、不正利用や過度なビジネスに制裁措置を含む規制機能を果たしている。
 

スマートメーターのデータをどのように扱うか

これを踏まえて、スマートメーターなどが収集するデータの扱いに注意する必要がある。本質的な部分では、これまでの個人情報の扱いから大きく変わるものではないが、自由化によって電力小売自由化や、発送電の分離が行われると、そのデータは複数の企業で利用することが前提となる。需要家には収集データの種類とその使用目的、さらには提供・共有先なども明確にしたうえで同意をとる必要があるだろう。
 
特に注意が必要なのは、小売企業が需要家の情報を、サービスプロバイダーやメーカー、広告代理店に販売したり共同で分析、活用したりする場合だ。これらも原則として事前同意が必要だ。なお、デマンドレスポンス(電力需給制御)への需要家データの利用は、世帯や個人を特定する必要がなく、統計的データで処理が可能な範囲なら問題になることは少ないと思われる。
 

データは需要家のもの

新電力における個人情報を考えるうえで、スマートメーターやHEMSシステムが収集するデータが誰のものかという議論もある。グローバルではパーソナルデータは個人のものとするのが一般的である。この点を間違えないようにしたい。
 
消費者は質の悪い広告や不透明なデータ収集・利用には敏感である。透明性の確保はもちろんとして、データの収集や広告展開による消費者のメリットをはっきり伝えた合意形成をビジネスの基本としたい。コストがかかる、面倒だ、という理由で情報公開や合意形成を怠ると、問題になったときのダメージは大きい。長期的には業界のためにもならないので、安易なデータ収集は避けるべきだ。
 
新電力事業といっても、インフラの信頼性だけのビジネスのみを展開するならば、これまでの電力事業を分割しただけでしかない。情報を伴った付加価値ビジネスを考えるなら、セキュリティや個人情報保護は欠かせない。
 
 

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