[特集]

次世代スマートメーターシステムの最新動向

― 電力DX/GXを加速! 標準仕様や新設IoTルートで新ビジネスが展開へ ―
2022/02/05
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

2014年から導入が開始された現行スマートメーターが、まもなく「検定期間10年(期限は2024年まで)」(注1)を迎える。一方、電力分野では2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の大量導入による脱炭素化への動きも加速している。
2020年9月以降、10年ぶりに再開された政府の「次世代スマートメーター制度検討会」では、再エネの主力電源化時代に向けた次世代のスマートメーター仕様の改訂作業が大詰めを迎えている。
ここでは、大阪大学大学院 工学研究科 招聘教授(ビジネスエンジニアリング専攻)/関西電力株式会社 ソリューション本部 シニアリサーチャーで、次世代スマートメーター制度検討会の委員でもある西村 陽(にしむら きよし)氏に取材した内容をもとに、現状のスマートメーター導入状況や、次世代スマートメーターシステムの新しい標準仕様の全体像を見ていく。さらに、今後想定される新しいビジネスモデルなどについても紹介していく。
次世代スマートメーターは、電力システムの「デジタル化」「脱炭素化」、すなわちDX・GX(注2)推進のキー・インフラとしても注目したい。

次世代スマートメーター登場の背景

〔1〕現行のスマートメーターの普及状況

 現行スマートメーターは、一般家庭等における30分ごとの電力使用量を計測でき、かつ検針員を介さずに遠隔からメーター情報を取得することが可能となっている。現行スマートメーターは、2014年4月から一般家庭に本格的に導入が開始された(表1)。現在の一般送配電事業者(旧電力会社10社)のスマートメーターの設置台数は、合計6,917万台であり、設置予定台数(合計8,070万台)の85.7%に達している(2021年3月末時点、図1参照)。

表1 主なスマートメーター関連および電力システムに関する動き

表1 主なスマートメーター関連および電力システムに関する動き

※「排出を全体としてゼロ」:二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの「排出量」(人為的)から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること。
出所 各種資料をもとに編集部で作成

図1 各電力会社のスマートメーター導入計画と設置台数(2021年3月末時点)

図1 各電力会社のスマートメーター導入計画と設置台数(2021年3月末時点)

出所 送配電網協会「【知っトク!送配電】電力データの活用の取り組み」(2021年10月1日)をもとに編集部で作成

 また、図1に示す、工場などの高圧部門におけるスマートメーターは、すでに2016年度までに全て導入を完了している。家庭などの低圧部門においては、東京電力管内で2020年度末に完了し、日本全体では2024年度までに導入が完了する計画となっている。

〔2〕計測データは電力事業の基盤

 図2に示すように、現行スマートメーターは、順潮流・逆潮流(後述)という双方向の計量機能を備えている。スマートメーターが計測する電力料金の精算に必要となるデータは、小売電気事業者が電気を販売する際の「30分値・計画値同時同量」注3や「インバランス料金の精算」注4など、電力事業の基盤としても活用されている。

図2 双方向の計量(順潮流・逆潮流)機能付きスマートメーターの仕組み

図2 双方向の計量(順潮流・逆潮流)機能付きスマートメーターの仕組み

変流器:主回路に流れる大電流を計器が扱いやすい小電流に変換する部品のことで、CT(Current Transformer)ともいわれる。
順潮流:電力会社から一般住宅(電気負荷:エアコン照明等)へ供給する際の電力の流れ
逆潮流:一般住宅(太陽光発電)から電力会社へ売電する際の電力の流れ
出所 https://www.kansai-td.co.jp/corporate/information/pdf/souhouko_smartmeter.pdf

 この計測データは一般送配電事業者が保有しているが、そのデータ内容は大きく設備情報(位置情報など)と電力量情報(潮流区分など)注5となっている(図2の下表を参照)。

〔3〕「電力DX」と「電力GX」を同時に推進

 計量法では、スマートメーターの検定期間は10年と定められている。このため、2014年から導入された現行スマートメーターは、10年後となる2024年度にその検定期間が終了し、順次、新たなスマートメーターへの交換が必要となる。このような背景から、電力やその周辺ビジネスの将来像に対応できる新しい仕様とするため、次世代スマートメーター制度検討会が再開された。

 西村氏は、「3.11(2011年3月11日)の東日本大震災以降、AIやIoT、クラウドなどのIT技術の普及を背景にして、電力データの分析や処理技術、セキュリティ(暗号化技術など)のデジタル技術が急速に進展しました。このため、電力業界でもIoTを駆使するDXが急速に進んできました。同時に、CO2排出量ゼロの太陽光や風力などの再エネ大量導入時代を迎え、これらの再エネを電力系統システム全体でどのように受け止め、どのように従来の電力(化石燃料による火力発電など)とバランスをとっていくかが、重要となってきました」と分析した。

 さらに、「太陽光発電は、雲の動きも含め5分程度のスピードで発電出力が変動するのに、需要家のスマートメーターで30分単位でデータ(有効電力量)注6を計っていたのでは、発電電力量と消費電力量のバランスが取れない可能性が出てきています。そのため検討した結果、図3の下表に示すように、スマートメーターの計測粒度(計測の細かさ)を、1分値、5分値、15分値、30分値と細かくして有効電力を取得することとし、その保存期間も決められました」と続けた。

図3 次世代スマートメーターシステム(低圧)の標準機能(決定事項)

図3 次世代スマートメーターシステム(低圧)の標準機能(決定事項)

マルチホップ通信:隣接した家庭のスマートメーター同士がバケツリレーをしてコンセントレータ(集約装置)までの通信を行う方式。1台のコンセントレータでの通信範囲が拡大できるため、多数のスマートメーターのデータを収集できる。
出所 資源エネルギー庁「本日の論点について」、7回 次世代スマートメーター制度検討会「資料2」をもとに編集部で加筆して作成

 このように、次世代のスマートメーターは、再エネの本格的な主力電源化に向けて、

  1. デジタル化を推進する「電力DX」の中核的な標準機能を搭載しながら、
  2. 2050年カーボンニュートラル(CO2排出ゼロ)の実現に向けたグリーン化を目指す「電力GX」とも協調して、

新たな展開を促進する中心的なデバイスとして期待されている。


▼ 注1
【計量法施行令】別表第三(第十二条、第十八条関係):特定電力計の有効期間のうち電力量計を参照。

▼ 注2
DX(Digital Transformation)は、デジタル技術によって企業や社会を変革すること。
一方のGX(Green Transformation)は、CO2などの温室効果ガスを排出する化石燃料から再エネへ転換し、社会・経済を変革すること。

▼ 注3
30分値・計画値同時同量:系統電力の需給バランスを保つため、小売電気事業者(または発電契約者)が、30分ごとに需要計画(または発電計画)と需要実績(または発電実績)を一致させるよう調整を行う制度。

▼ 注4
インバランス料金:小売電気事業者などが計画した電力の需要量と実際の需要量の差分(インバランス)のこと。差分(例:不足)が生じた場合、小売電気事業者は一般送配電事業者から差分の調整用電力(調整力)を調達し、一般送配電事業者の送配電網を経由して需要家に送電する。小売電気事業者はこの調整用の電力料金を電気料金請求の中に含めて需要家(一般家庭)から徴収し、送配電網の利用料も含めて一般送配電事業者に支払う。

▼ 注5
一般住宅では、従来は電力会社から電気を買電(購入)するだけ(順潮流という)であったが、自宅の太陽光発電などの再エネを電力会社に売電するケース(逆潮流という)もあるため、順潮流と逆潮流の双方向の電気の流れを計量できるようになっている。

▼ 注6
有効電力と無効電力:電気には直流(DC)と交流(AC)があるが、直流の場合の電力は電圧と電流に時間的なズレがないので「電力=有効電力(=電圧×電流)」となる。しかし交流の場合には、電圧と電流にズレが生じるため無効電力が発生し、「電力=有効電力+無効電力」となる。現行スマートメーターで計測される電力は有効電量(電気料金算出の基礎)のみとなっているが、交流の電力系統では、無効電力を制御することによって、系統電圧を調整するなどに使用されている。
参考サイト

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