[注目される「水素」技術と最新利用技術]

注目される「水素」技術と最新利用技術≪第2回≫ 20カ所以上の商用水素ステーションが稼働へ

― 水素ビジネス参入企業の最新動向 ―
2015/05/01
(金)
SmartGridニューズレター編集部

水素の製造に携わる企業動向

 1つ目の領域となる水素の製造については、

  1. 苛性ソーダや鉄鋼などの製造プロセスで生まれる「副生水素」を利用する方法
  2. アンモニアなどの化学物質を製造するための設備にある水素製造装置を用いて製造する「既設設備での目的生産」
  3. 水素を製造することを目的とした設備を新設する「新規設備での目的生産」

などがある。

 水素製造に携わる主な企業の例として、新日鐵住金は、2001年度から、製鉄プロセスを活用した水素製造技術を開発している。また、三菱化工機は、2013年に小型水素製造装置「HyGeia-A」(ハイジェイア-エイ)を製品化し、「Dr.Drive神の倉店」(愛知県名古屋市)、「ENEOS Dr.Drive岡崎羽根店」(愛知県岡崎市)の水素ステーションへ導入している。

水素の運輸・貯蔵に携わる企業動向

 2つ目の領域となる水素の運輸・貯蔵技術については、連載第1回で述べたような「高圧で水素ガスを貯める」「低音の液化水素として貯める」「別の物質(水素キャリア注1)と結合させて、安定的な化学物質として貯蔵する」という3つの方法と、「パイプライン注2を構築する」方法がある。

 水素の貯蔵・運輸に取り組んでいる主な企業の例として、千代田化工建設は、2010年にトルエンと水素を結合させて生成されるメチルシクロヘキサン(MCH、常温常圧で液体)の状態で水素を輸送する「SPERA注3水素技術」を開発した。また、同技術を用いて、再エネ賦存量が多い地域からクリーンなエネルギーを日本へ輸送する水素サプライチェーンの構築を提唱している。

 また、川崎重工業は、2014年11月に、産業用では初となる純国産独自技術の水素液化システムを開発した。同システムは水素液化機、液化水素貯蔵タンクなどで構成されており、1日あたり約5トンの水素を液化する能力をもっている。

 フレイン・エナジー(札幌市)は、水素をトルエンなどと触媒反応させて有機ハイドライド注4に変換することで、高密度な水素貯蔵を可能にする高密度水素貯蔵装置を2010年から販売している。

 水素の将来的な輸送・貯蔵技術としては、水素キャリアとしてメチルシクロヘキサン(MCH)やアンモニアを活用することや、合金に水素原子を吸蔵させることで水素を輸送・貯蔵する「水素吸蔵合金」の開発が行われているほか、水素を二酸化炭素と反応させることでメタン(CH4)に変化させ、そのまま都市ガス導管に流したり、燃料として用いたりする取り組みも検討されている。

家庭用燃料電池(エネファーム)と燃料電池自動車(FCV)

 3つ目の領域となる水素の利用は、主に、

  1. 家庭で水素を利用する家庭用燃料電池(エネファーム)への展開
  2. 水素を燃料として利用する燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)の開発
  3. 燃料電池自動車に水素の供給を行う水素ステーションの建設/運営

の3つに分けられる。まずは、家庭用燃料電池(エネファーム)と燃料電池自動車(FCV)について見ていく。

〔1〕家庭用燃料電池(エネファーム)関連の動向

 経済産業省の水素・燃料電池の戦略ロードマップでは、民生用燃料電池(エネファーム)の導入支援補助について、平成26(2014)年度の補正予算でも222億円と大きな予算がついている。設置者に対し導入費用の補助を行うことで早期に自立的な市場を確立し、2020年に140万台、2030年に530万台の普及目標としている。

 導入台数の現況としては、2014年9月には、東芝燃料電池システムがエネファームの累計販売台数が5万台を達成したと発表し、東京ガスは、2015年1月に、エネファームの累計販売台数が4万台に達したと発表している。

 エネファーム販売を行っている各社は、販売価格や宅内リモートコントローラとの連動、各種ガスへの対応モデルなどによって他社との差別化を図っている。主な企業の取り組みを表2に示す。

表2 エネファーム開発/販売に取り組む主な企業と動向(2015年4月24日現在、アルファベット/五十音順)

表2 エネファーム開発/販売に取り組む主な企業と動向(2015年4月24日現在、アルファベット/五十音順)

〔出所 各社サイト、プレスリリースをもとに編集部作成〕

〔2〕燃料電池自動車の動向

 トヨタ自動車は、2014年12月15日、水素を燃料とした燃料電池自動車(FCV)「MIRAI」を販売開始した。FCVについては、2002年12月にトヨタ自動車や本田技研工業が世界で初めてFCVを省庁向けにリース販売するなど、国主導、各企業主導で取り組みが行われてきた。また、国内の各自動車メーカーは、海外メーカーとの連携を行い、FCVや燃料電池に関する技術開発も行っている。

 燃料電池自動車の開発に関係する主な企業について、その最新動向を表3にまとめた。

表3 燃料電池自動車開発に携わる主な企業の動向(2015年4月24日現在、五十音順)

表3 燃料電池自動車開発に携わる主な企業の動向(2015年4月24日現在、五十音順)

〔出所 各社プレスリリースをもとに編集部作成〕


▼ 注1
水素キャリア:水素を貯める物質。水素を水素意のままの形ではなく、安全に大量に効率よく貯めて運ぶ媒体(化学的物質)のこと。詳しくは本誌2015年4月号参照。

▼ 注2
パイプライン:石油や天然ガス、水素ガスなどを運ぶために設置した管路。

▼ 注3
SPERA:スペラ、ラテン語で「希望せよ」という意味。

▼ 注4
有機ハイドライド:水素化物。C(炭素)とH(水素)が化合したもの。

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