[再生可能エネルギーと電力システム技術]

再生可能エネルギーと電力システム技術

─第1回 不安定な太陽光や風力発電に欠かせない電力調整─
2013/02/01
(金)

3.11の大震災を契機に、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーへの期待が高まっている。しかし電力システムでは、発生した電力はネットワーク(送電線/配電線等)を通じて、「同時同量の原則」のもとで供給される必要がある。このとき、再生可能エネルギーの出力変動に対応するために、「運用」「制御」「計画」などの諸技術において、多くの課題が生じる。そこで本連載では、電力の安定供給を実現するための課題や、その解決に向けたスマートグリッド技術について、今後の展望を考えていく。第1 回と次号の第2 回は、電力の需給調整について解説する。

再生可能エネルギー時代の電力需給バランスとは?

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの登場と急速な普及に伴い、電力の安定供給を維持するため、既存の電力会社が提供する火力や水力、原子力発電などとの“電力需給バランス”の問題が広く議論されるようになってきた。

よく「電力は貯蔵できないため、消費電力(需要)と発電(供給)のバランスは、瞬時に(常に)、一致させなければならない」という説明がなされる。しかし、この表現はさまざまな誤解を招く可能性がある。

まず、一般家庭などにおける「電力の需要」と電力会社から供給される電力供給の問題は、次の2つに大別できる。

  1. 電力供給力の総量
  2. 電力供給量の調整

前者の「電力供給力の総量」とは電力会社から供給される電力の総量のことで、後者の「電力供給量の調整」とは電力の供給力が変動する場合の変動量の調整力のことである。

原子力発電の停止によって電力供給力の総量が不足してしまうケースは前者に相当し、一方、再生可能エネルギー電源(例:太陽光発電)のように、晴天や曇りなどの天候に左右され発電電力量が増減する場合に、電力供給力の調整がうまくいかない(追従できない)問題は後者のことを指している。

前者は、将来におけるエネルギーのベストミックス注2の在り方を考える問題となりやすいが、後者は電力の需要と供給を一致させる(調整する)という、より技術的な側面から語られる場合が大きい。

ここでは、とくに後者の電力需給の調整力の問題に焦点を当てて解説する。

今後、再生可能エネルギーの導入量が増加していく場合に、電力の需給バランスをどう維持していくべきだろうか。またそれは電力の安定供給にどのように影響を及ぼすのだろうか。

電力システムにおける周波数変動の仕組み

〔1〕機械的入力と電気的出力の関係

電力の供給バランスの問題を考えるうえでは、発電所における発電の仕組みを知っておくことが重要である。

発電所で用いられている発電機(同期発電機注3)には、図1に示すように、

  1. 機械的入力(タービン注4で発電機を回転させる)
  2. 電気的出力(発電機で発電し電力を出力する)

という2つのエネルギーの出入り(入力と出力)がある。

前者の機械的入力とは、発生させた水蒸気などによって発電機用のタービンを回転させる駆動力のことであり、後者の電気的出力とは発電所から送り出される出力、すなわち電力そのものを指している。

図1 発電機の電気的出力と電力需要バランスのイメージ

図1  発電機の電気的出力と電力需要バランスのイメージ

〔2〕“需要と供給を一致させる”とは?

ここまで、予備知識として発電の仕組みをみてきたが、電力システムにおいて、よく「電力の需要と供給を一致させる」と言われる。しかし、それは果たして簡単にできることなのだろうか。あるいは難しいことなのだろうか。その本質を見ていく。

図1に示すように、「電力の需要と供給(需給)を一致させる」ということは、一般に、「電気的出力と電力需要を一致させること」として理解されやすい。しかし、電力システムにおいて数十分程度以内の電力需給の変動を考える場合、「発電機を回転させる機械的入力(すなわちタービン)と電力需要をどう一致させるか注5」が重要となる。

このことを理解するために、機械的入力と電力需要が一致しない場合に起こる現象を考えてみよう。

〔3〕機械的入力と電力需要が一致しない場合:電力需要の変動に対する発電機のズレ

例えば、火力発電所における燃料の燃焼量(ボイラーを焚いて発生する蒸気の量)が、電力需要に対して不足する場合は、直ちに停電が発生するというイメージで説明されることもある。

しかし、実際はそう簡単には電力の供給に支障(いわゆる停電)は生じないのである。

一般家庭や会社における電力需要は常に変動し続けている。例えば朝、昼、晩、夜中による変動だけでなく、秒、分などの短い時間の間でも、常に細かい変動がある。しかし、このような変動に対して、発電所側は即座に燃料の燃焼量を増減させることができない。すなわち、発電所の機械的入力注6は、このような常に変化する電力需要に対して、即座に対応するのではなく、少し時間が経ってから(ズレて)応答している。しかしそれでも需要に応じた電力は供給されているのである。

〔4〕機械的入力と電力需要が一致しない場合:クルマはすぐには止まれない!

そのズレ(差分)はどこからくるのだろうか。その答えは発電機がもっている慣性力にある。

慣性力とは、身近な例として、例えば走行している自動車に蓄えられた運動エネルギーのことを指している。すなわち、時速60kmで走行している自動車が急ブレーキをかけても、慣性力(自動車に蓄えられた運動エネルギー)があるため、すぐには自動車は止まれず、数メートル先で停止するような現象が起こる。これと同じような現象が、発電機にも起こるのである。

発電機(同期発電機)は、東日本の50Hzの場合、1分間に3000回転(50Hz、2極機の場合)という速度で回転し続けているが、このとき発電機には、運動エネルギー(回転エネルギー)が蓄積されている。そこで電力需要が、機械的入力よりも大きい(すなわち、発電機の出力よりも大きい)場合は、発電機は蓄積した運動エネルギーを電気エネルギーに変換して放出することによって、不足する電力を補っているのである。

その代償として発電機の運動エネルギーは失われ、結果的に発電機の回転数はやや減少する。これが電力システムの周波数を低下させる原因となっているのである。このことは、東日本(例:東京電力や東北電力等)の場合、50Hzを規定値(定格)とする周波数が、例えば49.9Hzへと低下することを意味する。電力需要が少ない場合は、上記と逆の現象(例えば50.1Hzと上昇する)が生じる。

このように、発電機の慣性力は、結果として、発電機の運動エネルギーを増減させながら電力需給の不平衡分(アンバランス)を補償し続ける役割を担っているのである。


▼ 注1
同時同量の原則:発電電力と消費電力が常に同じ量であること。この原則が必要なのは、電気を貯める蓄電池がない場合、発電した電力と消費する電力が一致しないと、周波数の変動などの電気的なトラブルが発生してしまうためである。

▼ 注2
ベストミックス:地球温暖化問題やコストなども考慮に入れて、火力、水力、原子力、太陽光や風力発電などの各電源を、最適なバランスで組み合わせて使用すること。

▼ 注3
同期発電機:交流電圧の位相差を電源間で同期させながら、商用周波数の電力を生み出す交流発電機。

▼ 注4
タービン(羽根車):石油などを燃やして水蒸気を作り、その水蒸気を吹き付けて回転させ動力を得る機関。このタービンの軸を介して発電機を接続し回転させ、電力を発生させるものが、火力発電機などの発電機である。また、ダムの水を利用してタービンを回転させて発電する場合は水力発電と言う。

▼ 注5
発電時のロス分については考慮しない。

▼ 注6
発電所の機械的入力:電力需要が変動したときは、発電機を回転させるために必要なトルク(回転力)が変わるイメージである。このため、理想的にはタービンを回すパワーを増加させて、同じ回転数で回すことになる。

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