認証だけでADRがうまく実施できるのか?
ところで、今回のADRインセンティブプログラムではOpenADR 2.0プロトコルを採用している。
OpenADR 1.0ができ上がった当時は、OpenADRの認証機関がなかったので、たとえOpenADR 1.0対応製品と称するDRクライアントであっても、PG&EのDRサーバ注4と接続できる保証はなかった。今回は、DRサーバ(DRAS)注5、DRクライアントともに、OpenADRアライアンスの認証を受けたものになるので、後はインターネット接続されれば、DRAS側からのDRイベントを受けてADRがつつがなく実施される…だろうか?
写真2 PG&EのDRASログイン画面イメージ
実は、ここが問題である。OpenADRアライアンスの認証を受けたDRサーバとDRクライアント間で、アプリケーションレベルの通信プロトコル上うまくDRイベント情報および関連情報の受け渡しが行えても、DRクライアントからBEMSや、スマートサーモスタットに情報がうまく伝わらなければならない。仮に、そこまではうまく情報が伝わったとしても、DRプログラムで想定した負荷削減が行えるような事前設定注6が行われていなければ、「DRイベント通知による負荷削減」が実現しない。
この一連の流れの確認と、それに先立つDRクライアント環境の構築や、DRサーバとの間の疎通確認など、必要な手続きすべてをPG&Eが実施しているのかというと、そうではない。
PG&EのADR実運用に当たってのキーパーソン:DCT
PG&Eには、別の会社がPG&Eに成り代わってさまざまなサポートをする、(海外では、アクセンチュア以外でこの用語を聞いたことがないが)日本流にいうと、BPO(Business Process Outsourcing)に近い仕組みができあがっているのである。
すなわち、この組織は、ADRインセンティブプログラムの説明会(今回のワークショップ)や、参加の受け付け、事前にうまくADRが実施されるかの確認テストはもちろんのこと、ユーザーの設備機器から見てどのDRプログラムがよさそうか、そもそもDRプログラムに参加すべきかどうかの相談にも乗る。
また必要とあれば、OpenADR 2.0のプロトコルで通信してADRを実施するために必要な施工業者や、製品ベンダを紹介して、ADRクライアントシステムとしてエンドツーエンドで機能するまでの面倒を見る役割も求められる。
PG&Eは、この役割を果たす組織をDCT(DRAS Client Technician)と呼んでいる。
このDCTは、その役割を遂行するためのノウハウをもつコンサルタント企業であるかもしれないし、ADRの実施にかかわるハード/ソフト/サービスベンダが、自らの製品やサービス販売の一環として実施することも考えられる。
* * *
今回、PG&EのADRインセンティブプログラムのワークショップに参加する機会を得て、カリフォルニア州が10年以上ADRの実証を重ねてきた歴史とともに、そのなかで単にICT技術やDRイベントに関するプロトコルを洗練してきただけでなく、ADRが実ビジネスとしてうまく回るためにビジネスモデルとしても、「1日(以上)の長」があること痛感した。
日本でも、早稲田大学EMS新宿実証センターにて、今年度ADRの技術実証を行おうとしている。また、平成25(2013)年度次世代エネルギー・社会システム実証事業費補助金の一環で、「次世代エネルギー社会システムにおけるDR経済効果調査事業」というテーマの公募が7月に行われた。
しかし、ADRを本格的に導入するには、DCTのような役割を担う組織が育たなければならないだろう。
Profile
新谷 隆之(しんたに たかゆき)
インターテックリサーチ株式会社
1974年3月、大阪大学工学部産業機械工学科卒業。1974年4月、日本ユニバック(現日本ユニシス)入社。基本ソフト/ミドルソフトの開発・保守を経て、電力業務関連システムの調査・評価を担当。2009年5月、スマートグリッド関連のリサーチを行うインターテックリサーチ株式会社を起業し、現在に至る。OpenADRアライアンス会員。
▼ 注4
PG&Eの場合は、Honeywell、旧AkuacomのDRサーバ(DRAS:Demand Response Automation Server)。写真2参照。
▼ 注5
DRAS:Demend Response Automation Server
▼ 注6
例えばDBPの場合、100kW負荷削減する入札をしていたなら、建物内の設備1と設備2の電源を切ることで、いつでも100kW負荷削減できるようなBEMSへの指令を作成しておき、事前に思惑通り100kW負荷が削減できるか確認しておく、という設定。