[クローズアップ]

米国のデマンドレスポンス/OpenADR最新事情

2013/02/01
(金)
SmartGridニューズレター編集部

世界的なスマートメーターの導入が活発化するとともに、デマンドレスポンス(Demand Response:DR、電力需給制御)が注目されている。日本においても横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市の4 地域の実証実験では、さまざまな形態でのデマンドレスポンスの実証が行われている。ここでは、OpenADR Alliance のアンバサダーであるJohn Lin 氏(Wireless Glue Networks, CTO&Co-Founder)の「北米におけるデマンドレスポンスの現状とその後の展開について」 をもとに、米国のDR の現状と標準規格「OpenADR」の最新動向を紹介する。

デマンドレスポンス市場の発展度

米国において、デマンドレスポンス(DR)は、大きく次の3種類に分類される(図1)。

(1)経済性・間接誘導管理

(2)キャパシティ管理・デマンド入札

(3)系統安定化管理(アンシラリーサービス注2

米国において一般にDRという場合は、上記3つのすべてが含まれている。この3種類のDRはそれぞれ適用されるシステム規模は異なるが、米国では同時進行している。一方、日本においては(1)の「経済性・間接誘導管理」を主に指す場合が多い。

図1に示す電力需要の制御時間の幅は(1)から(3)に向かうほど小さくなる。つまり、制御時間が1日から数十分程度までというように、だんだんと制御要件が厳しくなってくる。

図1 現在の米国におけるデマンドレスポンスの市場発展性

図1  現在の米国におけるデマンドレスポンスの市場発展性

〔出所:John Lin(Wireless Glue Networks)、「東光電気2012年製品展示会」特別セミナー、2012年11月22日〕

ここで、次世代DRの標準規格のひとつと言われている「OpenADR」の動向もみてみよう。

講演するJohn Lin氏(Wireless Glue Networks, CTO&Co-Founder、OpenADR Alliance, Ambassador)

▲ 講演するJohn Lin氏(Wireless Glue Networks, CTO&Co-Founder、OpenADR Alliance, Ambassador)

現在、米国ではDRについてスケールアップし、より大規模に展開されようとしている。例えば、現在、カリフォルニア州では、300MW(メガワット)の電力を対象にDRが実施されている。規模的に一番大きいのは、南カリフォルニアのサザンカリフォルニアエディスン(SCE)のDRプログラムである。これとは別にもう1つ顕著に表れているのはOpenADR採用の動きである。米国では国のDR標準規格として「OpenADR」が採用されている注3。現在は、OpenADR 1.0からOpenADR 2.0aへ移行しつつある。

現在、実施されている300MWの電力に対するDRはOpenADR 1.0仕様で実現しているが、ここからさらに規模が拡大していくにつれて当然、制御対象機器が増えてくる。そのため、これらのサービスをサポートするための経済的なエコシステムを拡大するためにはOpenADR 2.0の機能が必要になる。このOpenADR 2.0にはa、b、cなどいくつかの仕様がある。

現在、図1の(2)に示すDRは初期段階であるが、OpenADR 2.0b仕様で行われている。カリフォルニア州では、この先2年間まで、大型電力会社各社はDRを推進するための予算を取り、プロジェクトを展開しつつある。2.0aの仕様にはとりあえずピークカット/シフト機能はあるが、電力システムをうまくバランスをとって制御していくという機能はない。これに対して2.0b仕様には「デマンド入札」(ネガワットを売る)など、電力システムで一番重要視されているサービス機能などがあり、さらにその他の細かい機能が追加されている。

最近になってOpenADR AllianceにはいくつかのRTOやISO注4などが加盟した。これらの組織は電力供給側の上流にいるが、米国においてDRによるバーチャル発電やビリング(課金)等は、2.0b仕様の機能でそこそこ実現できると評価されているため、これが現在スタートしている。

最終的に、図1(3)のアンシラリーサービス時にアクティブ制御やダイレクトロードコントロール(直接負荷制御)、周波数の調整等を行うためには、まだPoC(Proof of Concept、概念実証)状態である。これはファストDR(高速DR)と言われるが、これを行うためには短時間に信号を受けて返すという機能が必要となる。このファストDRは大体4秒間の制御と言われているが、ICTインフラとしても非常に高度な技術が必要であるということで、まだPoCの状態となっている。

米国におけるデマンドレスポンスの現状

図2は、現在、米国でRTO/ISOが州ごとに電力システムを管理しているマップである。RTO/ISOは現在、OpenADRを推進しているが、そのうち特にCalifornia ISO、テキサス州のERCOT、PJM注5 Interconnection、New York ISOなどがDRのプロジェクトを積極的に進めている。

図2 2012年時点の米国のDRの進捗状況とRTO/ISOの管理地域図

図2  2012年時点の米国のDRの進捗状況とRTO/ISOの管理地域図

〔出所:John Lin(Wireless Glue Networks)、「東光電気2012年製品展示会」特別セミナー、2012年11月22日〕

〔出所:John Lin(Wireless Glue Networks)、「東光電気2012年製品展示会」特別セミナー、2012年11月22日〕

CAISO系の大型電力会社3社である、PG&E、SCE、サンディエゴガス&エレクトリック(SDG&E)は300MWを対象としている。PJM系は実績ベースで1日のインセンティブの支払額は約230億円に達しているが、これは13州の電力事業者を対象としている。また、NY ISOは2011年に1.7GWをDRしたが、実際には2.2GWが対象であった。

ERCOT系の守備範囲はテキサス州だが、2019年までに18GWのDRを対象可能であるとしている。すでに2012年からパイロット事業をスタートさせていて、2019年までの予算を獲得し具体的に動いている。米国の現状では、ピークカット/ピークシフトが一番多くなっている。

OepnADRへの注目度が高くなってきており、OpenADRを軸としたDR業界が拡大しつつある。米国をはじめ各国でDRの導入が進んでいるが、特に現状では図1に示したように(1)の経済性・間接誘導管理型DRが進んでいる。


▼ 注1
「東光電気2012年製品展示会」特別セミナー、2012年11月22日。

▼ 注2
アンシラリーサービス:電力品質の管理を行うサービス。

▼ 注3
米国のNIST(国立標準技術研究所)が、DR信号を統一するために標準規格として採用した。

▼ 注4
RTO/ISO:Regional Transission Organizations / Independent System Operators、米国の地域送電機関/独立系統運用者。RTOは各電力会社が送電線を個別に系統運用するのではなく、周辺地域と協力して運用する方式。ISOは送電線の系統運用機能を独立的な機関が行う方式。

▼ 注5
Pennsylvania-New Jersey-Maryland

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