最近の動向:2015年は過去最高を記録、2020年には1.6GW/年の導入へ
米国における電力貯蔵は、これまで累計で400MW、300MWhが導入されている(2015年12月末時点、図1)。2015年は221MW(前年比243%)、161MWh(前年比88%)が導入され、過去最大を記録し、この1年間だけで過去の総導入量を上回る規模となった。GTM Research社は2020年には単年で1.66GWが増加すると予測しており(図1)、これは2015年の8倍の量であり、市場規模は約2,700億円に達する。このような背景により2015年の電力貯蔵ベンダ(蓄電池メーカー、ソフトウェアメーカー、システムインテグレータなど)への投資額は365億ドルと、すでに巨額の資金が動いている。
図1 米国の電力貯蔵の導入量:実績(2012〜2015年)と予測(2016〜2020年)
出所 Source: Source: GTM Research/ESA U.S. Energy Storage Monitor、 https://www.greentechmedia.com/research/subscription/u.s.-energy-storage-monitor
また、2015年に導入された電力貯蔵の種別では、リチウムイオン電池が96%を占めた。2013年から採用された蓄電池の種別を調査してみると、ナトリウム系、鉛系、フローバッテリー系(バナジウム系、亜鉛系)が四半期単位で20〜40%程度を変動的に占めていたが、2015年はリチウムイオン電池の一人勝ちの状況となった(図2)。米国の電力貯蔵ビジネスではリチウムイオン電池が頭一つ抜け出したが、この理由として技術的な完成度と価格の逓減が挙げられるだろう。
図2 米国の電力貯蔵用蓄電池
出所 Source: Source: GTM Research/ESA U.S. Energy Storage Monitor、 https://www.greentechmedia.com/research/subscription/u.s.-energy-storage-monitor
Front-of-MeterとBehind-the-Meter:米国北東部は主に周波数調整市場
電力貯蔵の設置場所は、主に
- Front-of-Meterと
- Behind-the-Meterの
2つに分類される。これは、電力メーターを境に系統側(Front)か需要家側(Behind)かを示す。両者の違いをわかりやすく述べるとFront-of-Meterは電力会社の変電所などに、Behind-the-Meterは需要家(ビル、学校、スーパーマーケット、家庭など)に蓄電池を設置することになる。
Front-of-Meterはグリッドスケールとも呼ばれ、数MW超の規模感になり、Behind-the-Meterは需要家の種別によっても異なるが数kW〜数百kWとなる。これまではFront-of-Meterの電力貯蔵、すなわち変電所などに設置される大型のプロジェクトが電力貯蔵市場を牽引してきたが、今後は需要家に蓄電池を設置するBehind-the-Meterの存在感は増し、2020年時には5:5の割合になると予想されている。
すでに2015年のBehind-the-Meterは、前年比405%増の35MWとなり、注目を集めている。2015年に米・電気自動車大手のテスラ社(本社:カリフォルニア州)が販売を開始したパワーウォール注1もこのカテゴリーに分類される。
Front-of-Meterの電力貯蔵の用途は系統安定化である。電力の需要量と供給量を一致させて周波数を一定に保つために、現在は主にガス火力で供給量を調整しているが、出力変動の大きい再生可能エネルギーの普及により、ガス火力よりも即応性の優れた蓄電池が併せて用いられるようになってきている。この調整サービスはアンシラリーサービス(周波数調整サービス)と呼ばれるが、米国で最も取り扱われているのがPJM(系統運用機関)注2の管轄する北東部地域で、600〜700MWの容量となっている。よって、2015年に導入されたFront-of-Meterの電力貯蔵は同地域に集中し、その割合は80%に達する。
▼ 注1
家庭向け蓄電池。https://www.teslamotors.com/powerwall
▼ 注2
7つの系統運用機関の1つ。ペンシルバニア、ニュージャージー、メリーランドなど14州を管轄。http://www.pjm.com/