[クローズアップ]

電力会社の自由な選択を容易にする広域機関(OCCTO)の「スイッチング支援システム」

― 効率化される需要者の「電力契約」切り替えの仕組み ―
2016/05/09
(月)
SmartGridニューズレター編集部

スイッチング支援システムにおける手続きの流れ

 次に、前出の図4に示したスイッチング支援システムにおける手続きの流れをもう少し詳しく見ていく。

 図4に示す上部(黒線部分)は、従来、大工場や大企業などの特高・高圧需要者で行われている手続きである。従来は、図4上部に示す「①供給契約解除の申込〜⑧(託送契約)申込の応諾」の手続きを行い、それぞれがOK(承諾)ならば、はじめてスイッチングが可能であった。

 2016年4月1日からは、電力小売全面自由化に伴って、小売電気事業者、一般送配電事業者の業務として、図4の下部に示す低圧需要者(一般家庭など)向けの手続き(青線部分)が新たに加わった。

 低圧需要者の数は、一般家庭や商店、コンビニなどを含めると合計約8,500万件にものぼり、従来の特高・高圧需要者約80万件に比べて2桁も多い数となっており注9、スイッチング支援システムは、その膨大な業務の事務処理に関する負担を緩和し、支援するのが目的である。同システムは、需要者の膨大な申し込みに対して、これまで煩雑とされていた「従来の託送契約を解除し、新しい託送契約を効率的に支援してくれる」ところが、目玉の1つとなっている。

〔1〕スイッチング支援システムへの接続環境

 従来、一般電気事業者であった東京電力や関西電力などの場合は、需要者は自社顧客でありしかも自社設備であったため、顧客に契約内容やメニューなどを容易に説明できた。しかし、新規参入事業者はそのような情報をもっていないので、スイッチング支援システムが一般送配電事業者(東京電力など10社)から情報を得て、同様な説明ができるように支援するのである。

 前述したように、同システムは、「託送契約」の業務を支援(電力供給契約は行わない)しているが、小売電気事業者がこのシステムを利用する場合には、

  1. Web画面接続の環境:パソコン上のWebブラウザによって接続できる環境
  2. API注10接続の環境:「スイッチング支援システム 外部インターフェース仕様書」注11に記載されているSOAP注12通信仕様に従って、リクエスト/レスポンス電文の送受信が可能な環境

などを用意する必要がある注13

〔2〕スイッチングの対象範囲と供給地点特定番号

 また、FIT(固定価格買取制度)電源を電力事業者に売る場合にも、スイッチング支援システムで託送契約の変更手続きをすることが可能となっている。この場合、基本的には一般家庭の屋上の太陽光発電などの低圧のFIT電源に限定されている。

 なお、これらの一連の流れは、電力会社から需要者に付番されている「供給地点特定番号」注14(発電側は「受電地点特定番号」)がわかれば小売電気事業者から照会すると、一般送配電事業者の送配電のデータべースにある設備情報を3〜5秒のレスポンスで見ることができる。スイッチング支援システムでは、個人情報を取り扱うため、場所を特定するためにこの「供給地点特定番号」が重要となる。

〔3〕小売電気事業者と一般送配電事業者の情報連携

(1)ビジネスプロトコル標準規格/EDI共通規格

 フェーズ3で示したWebサーバ(託送ホームページ)へのアクセスには、小売電気事業者は広域機関が指定する「クライアント証明書」注15を取得(有料)し、アクセス先の一般送配電事業者へ登録申請を行う必要がある。

 登録申請後に行われる小売電気事業者と一般送配電事業者の情報連携は、図5上部の表に示すプロトコル(通信手順)を用いて行われる。表中のビジネスプロトコル標準規格/EDI注16共通規格とは、広域機関によって策定され、2015年5月に公表されたプロトコル規格で、次のような正式名称となっている。

  1. 小売電気事業者・一般送配電事業者間EDI共通規格(Ver.3A)
  2. 30分電力量提供業務ビジネスプロトコル標準規格(Ver.3A)
  3. 確定使用量通知業務ビジネスプロトコル標準規格(Ver.3A)

(2)具体的な業務処理の例

 表1に示す「30分電力量提供」「確定使用量の通知」などの業務は、システムに関する共通の規格・ガイドとして広域機関によって策定された、前述の「小売電気事業者・一般送配電事業者間EDI共通規格」注17および「30分電力量提供業務および確定使用量の通知業務システム実装ガイド」注18に基づいたものになっている。

表1 「30分電力量提供」「確定使用量の通知」とそれに対応する規格

表1 「30分電力量提供」「確定使用量の通知」とそれに対応する規格

出所 電力広域的運営推進機関「スイッチング支援システム小売電気事業者向け説明会」、2015年10月


▼ 注9
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/002_s01_01_03.pdf

▼ 注10
API:Application Programming Interface 、アプリケーションプログラミングインタフェース。コンピュータプログラムの機能などを、外部の他のプログラムから呼び出して利用するための手順のこと。

▼ 注11
switching_inquire@occto.or.jpに問い合わせて入手可能。

▼ 注12
Web-API(SOAP):電気事業者が広域機関の「スイッチング支援システム」とシームレスに自動連携するB2Bインテグレーションサーバ。SOAPはSimple Object Access Protocolの略で、異なるコンピュータ上で動作するプログラム同士がネットワーク(インターネット)を介してメッセージを送受信し合い、連携するための通信プロトコル。

▼ 注13
https://www.occto.or.jp/oshirase/kakusfuiinkai/files/swshien_09_04.pdf

▼ 注14
供給地点特定番号:2016年4月1日からの電力小売全面自由化に伴い、電気を使用している需要者の地点を特定するために、全国一律で需要者に付番される22桁の番号のこと。例えば、東京電力の場合、毎月、一般家庭に送られてくる「電気ご使用量のお知らせ」(電気料金の請求書)の左上に書かれている22桁の地点番号「例:03-0X11-1X50-3058-11XX-3X23」のこと。

▼ 注15
広域機関と小売電気事業者、一般送配電事業者とのデータ授受を認証する用途で使用する証明書は「クライアント証明書」と呼ばれる。「クライアント証明書」は、広域機関とジャパンネット(株)で覚書を締結しており、指定のクライアント証明書以外での接続はできない。
クライアント証明書はジャパンネット(株)の「Enterprise Premium電子証明書発行サービス」の運用管理規程(CPS:Certification Practice Statement)に基づいて、電子証明書が発行され、提供される。
サービスURL:http://www.eppcert.jp/occto/occto.html

▼ 注16
EDI:Electronic Data Interchange、電子データ交換。企業間でインターネットなどの通信回線を介して、業務の効率化を図るために、商取引用の伝票や文書を電子データで自動的に交換すること。これらの規格の仕様は、次のURLから取得できる。
https://www.occto.or.jp/koiki/koukai/files/rijikai_9_gijiroku_2.pdf
https://www.occto.or.jp/jigyosha/shisutemurenkei/2016_0331_systemrenkei_kikaku.html

▼ 注17
https://www.occto.or.jp/koiki/koukai/files/rijikai_9_gijiroku_2.pdf

▼ 注18
「30分電力量提供業務および確定使用量の通知業務システム実装ガイド(第1.0版)」。個別開示資料のため、希望する事業者は、下記問い合わせ窓口まで、事業者名、担当者名、連絡先電話番号、メールアドレスを明記のうえ、メールで申し込むと入手できる。問い合わせ先:occto_bp@occto.or.jp

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