電力小売全面自由化とDAL社のACMS
企業間商取引関連のEDI注2ソフトウェアを提供する、株式会社データ・アプリケーション(以降、DAL。表1参照)は、電力小売全面自由化を迎え、電力の需要と供給を全国規模で調整する広域機関の仕様に準拠したACMSシリーズ注3を開発した。このACMSシリーズは、広域機関のスイッチング支援システム(後述)とも、セキュアで確実なデータ送受信を実現するEDIソリューションとなっている。
表1 株式会社データ・アプリケーション(DAL)のプロフィール
〔1〕新電力会社に義務づけられていること新電力会社は、
(1)広域機関への加入が必須であること
(2)広域機関へ電力の供給計画、需給計画、発電計画などを提出すること
(3)広域機関の運用するスイッチング支援システムへ対応すること
(4)「顧客への電力供給量」と「新電力会社自身の発電出力と購入電力の合計」が、30分単位で一致するように「同時同量」の仕組みを構築すること
が、電気事業法などによって義務づけられている。
〔2〕「需要家」「新電力会社」「広域機関」「一般送配電事業者」間の連携機能
また、図1に示す「需要家」「新電力会社」「広域機関」「一般送配電事業者」間では、
(1)需要家(一般家庭)と新電力の間での「電力供給契約」の切り替え
【例】従来契約の小売電力事業者Aと、新規契約の小売電力事業者Bの切り替え
(2)新電力会社のシステムとスイッチング支援システムとの連携
(3)広域機関と一般送配電事業者の間では、
- 一般送配電事業者がもつ需要者の情報取得注4
- 一般送配電事業者と新電力会社間での「電力の託送契約」の切り替えの中継などの連携機能が求められる。
図1 ACMSが果たす小売電気事業者(電力会社)と広域機関間の自動データ連携
EDIソフト「ACMSシリーズ」の特徴
電力小売全面自由化の新しい動きに対応して、契約変更などによって発生する膨大な業務(EDI業務)を効率的に処理するため、DALは、2015年9月、「スイッチング支援システム」および「広域機関システム」との連携を効率化するEDIソフト「ACMS」を、電気事業者(新電力など)に向けて提供することを発表した注5。
この「ACMSシリーズ」を導入することによって、電気事業者は、
- 電力託送契約を支援するために広域機関が提供する「スイッチング支援システム」とのシステム連携およびデータ交換
- 供給計画、連系線利用計画、発電計画、需給計画などの各種計画情報を、広域機関に提出する際の広域機関システム連携およびデータ交換などを効率的に行うことが可能となり、この2つの業務を同一システムで統合的に運用することが可能となった。
DALのEDIソリューションには「ACMS E2X/ACMS B2B」がある。このACMS E2X(ACMSイー・ツー・エックス。ACMS Extended Enterprise data eXchange)は、企業間と企業内の双方のデータ連携をシームレスに実現するセキュアなB2Bインテグレーションサーバ注6である。また、ACMS B2Bは、ACMS E2Xの姉妹製品として開発された、1ノード環境で構築するEDI専用サーバで、企業間のデータ連携に特化したB2Bサーバとなっている注7。両製品ともJavaで開発されているため、マルチプラットフォーム対応になっている。
〔1〕ACMS E2X/ACMS B2Bの機能
ACMSシリーズの「ACMS E2X/ACMS B2B」では、次のことが可能となっている。
- 業界で広く普及している一般電気事業者(旧10電力会社)との連絡手順であるJX手順注8を使い、インターネット経由で各種の計画データ(電力供給計画や需給計画など)を広域機関の広域機関システムと送受信することができる。
- さらにWeb-API(SOAP注9)にも対応しているので、広域機関のスイッチング支援システムもあわせてサポートすることができる。
- Webアプリケーションである「同時同量支援システム」には、ACMS WebAgentでブラウザ操作を自動化し、システム連携を実現することができる。
〔2〕2つの連携方法:Web直接入力とWeb-API
今回、広域機関に導入されたのは、前出の図1に示す「新電力会社」と「スイッチング支援システム」のサポート部分〔Web-API(SOAP)〕である。
図1に示す新電力会社と広域機関のスイッチング支援システムとの間には、新電力会社が作成した供給計画や発電計画、需給計画などの各種計画情報をスイッチング支援システムに入力する方法として、Web直接入力とWeb-APIの2つの連携方法が提供されている。
(1)Web直接入力:広域機関で開発されたWebアプリケーションを使用してWeb画面(IEブラウザ)へ各種の計画データを、スイッチング支援システム向けに手動操作で入力する方法(手入力のためミスが発生しやすい)
(2)Web-API:広域機関から提供されるWeb-API仕様に準拠して新電力などが開発したシステムと広域機関のスイッチング支援システムを自動連携させる方式(ミスは発生しにくいが、システム開発費用がかかる)
電力小売全面自由化に伴い、「電力契約切替作業」や「電力託送切替作業」の数は、約8,500万件(一般家庭7,800万件、商店・コンビニなど720万件)が対象となるため、以前と比べ桁違いに多くなり、従来のような手入力(Web方式)では対応しきれない。このため、スイッチング支援システムと自動連携させるWeb-APIが効果的である。
〔3〕ACMS E2X/ACMS B2Bサーバの役割
図2に、需要家と電力供給契約を結ぶ小売電気事業者と広域機関間のシームレスなデータ連携の仕組みを示す。
図2 Web-API(SOAP)によるスイッチング支援システムのサポート
出所 DAL資料「ここがPOINT!! 電力自由化参入への道〜スイッチング支援システムへのデータ連携編〜」より
(1)小売電気事業者は、社内のCIS(顧客管理システム)からの顧客に関するリクエスト(要求)データを、すでにサーバにインストールしてあるACMS E2X/ACMS B2Bで、広域機関のリクエスト用フォーマットであるXML形式へ自動変換し、広域機関へ送信する〔注。広域機関は、必要な情報は一般送配電事業者から収集する〕。
(2)小売電気事業者は、リクエストに対する広域機関からのレスポンス(応答)データを自動受信し、サーバ(ACMS E2X/ACMS B2B)経由で、CISに格納し、需要家からの問い合わせに対応する。
なお、このACMS E2X/ACMS B2Bソフト(パッケージのみの提供)のライセンス料は、サーバ1台当たり50万円〜、年間保守費用が7万5,000円、その実装は販売代理店やユーザー(新電力)側が行う。なお、ACMS E2X/ACMS B2Bソフトは、73社のビジネスパートナー企業から販売されている。
▼ 注1
OCCTO:Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN、電力広域的運営推進機関。略称:広域機関
▼ 注2
EDI:Electronic Data Exchange、電子データ交換。企業間でインターネットなどを介して伝票や文書などを標準的な形式(例:XML)の電子データで自動的にやり取り(交換)すること。
▼ 注3
ACMS:Advanced Communication Management System、DAL社が開発し販売している、EDI(Electronic Data Exchange、電子データ交換)向けのソフトウェア製品のシリーズ名。
▼ 注4
需要者の情報:需要家(一般家庭)の契約電力量(アンペア数)や毎月の電気料金などの情報の取得。新電力は、需要家の問い合わせに対応するため、これまで一般電気事業者(旧10電力会社)がもっていたこれらの情報を、スタート時に一般送配電事業者から取得する。
▼ 注5
ACMSの最新バージョンはV4.4.1、2016年4月14日
http://www.dal.co.jp/pressrel/20150929.html
▼ 注6
http://www.dal.co.jp/products/edi/e2x/outline.html
現在、ACMS E2Xの最新バージョンはACMS E2X V4.4.1となっている(2016年4月14日発表)。http://www.dal.co.jp/products/edi/e2x/release.html
▼ 注7
http://www.dal.co.jp/products/edi/b2b/outline.html
▼ 注8
JX手順:日本独自で開発されたインターネット経由でデータ交換ができるシンプルな通信プロトコル。
▼ 注9
SOAP:Simple Object Access Protocol。異なるコンピュータ上で動作するプログラム同士がネットワークを通じてメッセージを伝え合い、連携して動作するための通信プロトコルの1つ。メッセージの記述にはXMLを、データ伝送には主にHTTPを使用する。