[クローズアップ]

電力会社の自由な選択を容易にする広域機関(OCCTO)の「スイッチング支援システム」

― 効率化される需要者の「電力契約」切り替えの仕組み ―
2016/05/09
(月)
SmartGridニューズレター編集部

スイッチング支援システムの3つのフェーズ

 次に、2016年3月1日に運用開始した、スイッチング支援システムの具体的な運用について、図3に示す①「契約前」、②「契約手続き」、③「契約後」という3つのフェーズに分けて、需要者(例:一般家庭)、小売電気事業者、広域機関、一般送配電事業者との関係を見てみよう。

〔1〕フェーズ1:契約前

 まず、図3に示すように、需要者は新規電気事業者と契約するにあたって、契約候補(複数の場合もある)の小売電気事業者に設備情報照会(現在の契約電力、自動検針の可否、次回の検針日などのこと)や、使用量情報の照会(需要者の過去13カ月の電力使用量のこと)を行う。

 これに対して小売電気事業者は、スイッチング支援システムを経由してそれらの情報を一般送配電事業者に問い合わせ、同システム経由で一般送配電事業者から、設備情報や使用量情報の回答を得る。

図3 「契約前」「契約手続き」「契約後」とスイッチング支援システムの役割

図3 「契約前」「契約手続き」「契約後」とスイッチング支援システムの役割

出所 電力広域的運営推進機関「スイッチング支援システム小売電気事業者向け説明会」、2015年10月

〔2〕フェーズ2:契約手続き

 需要者は、小売電気事業者からの情報をもとに検討し、新しく選択した小売電気事業者に、電力の供給契約の申し込みなどを行う。小売電気事業者はこれを受けて、スイッチング支援システム経由で、次のような手続きを行う。

①需要者が小売電気事業者の情報をもとに選択し、申し込む。

②新しく契約する変更後の小売電気事業者Bは、現在契約している従前の小売電気事業者Aに「廃止取次」を実施し、契約廃止の了解を得る。

③小売電気事業者Bは一般送配電事業者にスイッチング開始を申し込む。並行して小売電気事業者Aも一般送配電事業者にスイッチング廃止を申し込む。

④一般送配電事業者は両方の申込みをマッチングして、問題がなければ託送契約の切り替えが成立する。

 図4に、以上のスイッチング支援システムについて、それぞれのフローを示す。

  1. 従来の特高・高圧需要者に限定されていた手続き(図4の上部の黒線部分)
  2. 2016年4月1日からの電力小売全面自由化の開始に伴って追加された、低圧需要者(一般家庭など、契約数8,500万件)向けの手続き(図4の青線部分)。

 実際には①〜④については需要者は実施せず、新しく契約する小売電気事業者Bが現在契約している小売電気事業者Aに代理で「廃止取次」を実施する。

 つまり需要者にとっては、小売電気事業者Bとのみ手続きすればスイッチングできる、ワンストップサービスとなっている。

〔3〕フェーズ3:契約後

 フェーズ2の契約手続きが完了すると、 図5上の表に示す各種業務(例:30分電力量提供、確定使用量の通知注7)などのデータは、前出の図3の右および図5の下部に示すように、スイッチング支援システムを介さず、インターネット網経由で、小売電気事業者(Webクライアント)が直接各一般送配電事業者のWebサーバ(託送ホームページ)にアクセスしてデータを取得し、需要者に提供できるようになっている。

 このとき、小売電気事業者と一般送配電事業者間の情報連携(メッセージのやり取り)は、XML電文やCSVファイルの様式で行われる注8


▼ 注1
OCCTO:Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN、電力広域的運営推進機関。設立は2015年4月1日。
https://www.occto.or.jp/

▼ 注2
日本の電力需要者(需要家)は大きく、①特高・高圧大口(契約電力500kW以上。特高の場合は2,000kW以上、2万V以上で受電)、②高圧小口(契約電力50kW以上500kW未満、6,000Vで受電)、③低圧(50kW未満、一般家庭・商店・コンビニなどが該当。100V・200Vで受電)に分けられている。このうち低圧需要者は、一般家庭7,800万件、商店・コンビニなど720万件、合計約8,500万件となり、金額で年間約8兆円規模の市場(全体の電力市場は約18兆円)となっている。
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/002_s01_01_03.pdf
http://www.emsc.meti.go.jp/info/session/pdf/002.pdf

▼ 注3
登録小売電気事業者:2016年年4月18日現在、計286社
http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/retailers_list/

▼ 注4
一般送配電事業者:旧一般電気事業者10社の送配電部門の送配電設備をそのまま使用して行っている送配電事業者のこと。これとは別に、六本木エネルギーサービスやエネットなどの特定電気事業者が、自前の送配電設備のある地域に限定して供給しているが、このような事業者は「特定送配電事業者」と呼ばれ、計16事業者ある(2016年4月7日現在)。

▼ 注5
2016年3月までの制度では、旧電力会社10社は、「一般電気事業者」と呼ばれていたが、4月からは、これら10社の各部門は、「発電事業者」「一般送配電事業者」「小売電気事業者」と分けて呼ばれるようになった。

▼ 注6
経済産業省の改正電気事業法等に基づき認可した「託送供給等約款」に基づく(実施時期:2016年4月1日)http://sgforum.impress.co.jp/article/1988

▼ 注7
30分(値):スマートメーターによって30分単位に計量した電力使用量の積算値。刻々と変わる家庭などで使用した電力使用量を、スマートメーターによって30分単位(0.5時間単位)に計量した積算値(24時間÷0.5=48回/日)。
スマートメーターから電力会社へ出ていく方向(順方向)とスマートメーターに入ってくる方向(逆方向)を考えると、計測回数はその倍の96回/日となる。30分値は、経済産業省「スマートメーター制度検討会」で決定された。

▼ 注8
XML:Extensible Markup Language、拡張可能マークアップ(記述)言語。インターネットの標準としてW3Cより勧告され広く普及している記述言語。
CSV:Comma Separated Values、各項目のデータをカンマ(",")で区切ったテキスト形式のファイル。

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...