ローカルエナジーが実現した地域経済の活性化とその効果
〔1〕実現性と今後の展開
ローカルエナジーの電力事業は、設立1年目(2016年度)で4億円の売上げを見込んでいる。前述したように、地域電力で、分散している電源(分散電源)の大部分をVPPの仕組みで1つの電源として束ねて、賄っているため、電力の市場調達量も少なく、エネルギーの地産地消を実現していると言えよう。また、VPPによって設備投資費用も発生しない。
「需給管理業務もローカルエナジーで行っている(外部に委託していない)ことから、5名の雇用も生まれています。5年後には、ローカルエナジーの電力事業だけで、16億円の資金循環効果があるものと期待しています」と前出の鵜篭氏は語る。
ローカルエナジーでは、今後、次のような内容を展開していく。
(1)中海テレビ放送と連携し、米子市役所(写真6)に設置している蓄電池(200kWhのコンテナ型鉛蓄電池:古河電気工業製)でデマンドコントロールを行う計画(写真7〜写真9)
(2)3〜5年以内に、地域熱供給事業(ガス・コジェネ)の事業化。現在、FS(Feasibility Study、実現可能性調査)のフェーズ。
(1)に関しては、平成25(2013)年に実施された、総務省のICT街づくり推進事業の成果事例から発展している。ケーブルテレビ網を通じた電力制御によって、住宅30戸における電力需要の高まりに合わせて、市役所に設置した蓄電池から放電をすることで、ピーク電力の平準化と同時同量運転を実現したのである。
米子市役所を例にとって見ると、ピーク電力平準化によるコスト削減効果のシミュレーションを実施した結果、最も電力需要が高まる8月期において、ピーク電力消費量を約34%減少させ、年間約160万円のコスト削減効果があることが判明している。
ローカルエナジーの設立理念の1つである地域内資金循環については、同社は図5に示すような目指す地域内の資金調達循環の将来像を展望している。
図5 ローカルエナジーが核となって目指す地域内の資金調達循環の将来像
出所 ローカルエナジー、COMPANY PROFILEより
〔2〕事業拡大に向けた課題と新たな取り組み
今後の事業拡大に向けては、森 真樹(もり まさき)氏(ローカルエナジー 執行役員 統括部長)は次のように語る。
「需要家側でのエネルギー需要調整、いわゆるデマンドレスポンスに取り組んで行く必要があります。
ローカルエナジーの株主構成を見ると、米子市内に自設の光ケーブル網を整備し、放送事業(コミュニティチャンネル)を実施しているCATV事業者、地域内のガス供給を担っているガス卸売・都市ガス事業者、電源熱源への燃料供給を行う廃棄物処理事業者など、地域内における通信やエネルギーのノウハウをもつ企業郡となっているのです。そういった地域企業の強みを活かすことで、ローカルエナジーを米子市のエネルギープラットフォームとして事業拡大を行うことは、出資自治体である米子市も期待している点です」
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ローカルエナジーは、地域内にある資源に着目し、小規模のVPPを構築し、自らの需給管理システムを使うことで小売電気事業での実績を出している。ポイントは、国の資金援助のある実証事業を検証した後で、自治体と地元企業が知恵と資金を出し合って自らがレールを引き、本気で取り組んだということだ。
このコンパクトシティのビジネスモデルは、他の自治体においても大いに参考になる。
◎取材協力(敬称略)
森 真樹(もり まさき) ローカルエナジー株式会社 執行役員 統括部長
鵜篭 博紀(うかご ひろき) 米子市 経済部 経済戦略課 産業開拓室 室長
成相 英世(なりあい ひでよ) 東亜ソフトウェア株式会社 ビジネスサポート部 技術担当部長
木村 宗(きむら そう) 株式会社中海テレビ放送 事業戦略本部 事業企画部 主任