[特集]

VPP・マイクログリッドで実現する「東松島市スマート防災エコタウン」

― CEMSで街の電力を最適制御し地産地消を実現 ―
2016/12/13
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

復興に向けた東松島市のエネルギー政策

〔1〕電力マネジメントシステムの稼働

 このような背景のもとに、復興に向けてエネルギー政策の面から、東松島市は「復興まちづくり計画」を策定した。この復興事業と合わせて、国が推進する「環境未来都市」注3として採択(2011年12月、全国11団体の1つ)され、「東松島市スマート防災エコタウン 電力マネジメントシステム構築事業」注4の取り組みが、積水ハウスの協力のもとに開始された(図1)。

図1 宮城県東松島市と「東松島市スマート防災エコタウン」の位置

図1 宮城県東松島市と「東松島市スマート防災エコタウン」の位置

出所 「再エネを地域で活かし使う〜東松島市の挑戦〜」東松島市復興政策部復興政策課/一般社団法人東松島みらいとし機構、2016.11.21

 この「東松島市スマート防災エコタウン 電力マネジメントシステム」は、2016年6月に稼働を開始した。日本で初めてマイクログリッド注5を利用して、再生可能エネルギー(以下、再エネ)で地産地消を実現し、年間256トンもCO2ガスの排出量を削減するシステムとなっている。

 次に、同電力マネジメントシステムの内容を紹介しよう。

〔2〕市内における再エネの導入状況

 システムを説明する前に、まず市内の再エネの導入状況を見てみると、図2に示すような推移をしている。

図2 東松島市における再生可能エネルギーの導入状況(市内発電量:1万5,300kW=15.3MW)

図2 東松島市における再生可能エネルギーの導入状況(市内発電量:1万5,300kW=15.3MW)

出所 「再エネを地域で活かし使う〜東松島市の挑戦〜」東松島市復興政策部復興政策課/一般社団法人東松島みらいとし機構、2016.11.21

 図2から、震災前(2011年以前)の再エネ(太陽光発電)は800kWであったが、震災以降は年々増加し、平成27(2015)年度には、20倍近くの1万5,300kW(15.3MW)にも達しており、新築住宅の70%は太陽光パネルを設置するようになっている。これらを見ると、震災時に発生した停電などで苦労した経験から、住民がエネルギー問題に関心か高くなっていることがわかる。

 東松島市では、今後は、災害時にも安心・安全に暮らせるまちづくりをかかげ、災害時・非常時においても最低限のエネルギーの確保ができる仕組みを目指すとともに、図3に示すように、電力の地産地消によって地域外への富の流出を防ぎ、雇用を創出する方針を策定した。

図3 電力の地産地消による地域経済循環と雇用創出の仕組み

図3 電力の地産地消による地域経済循環と雇用創出の仕組み

出所 「再エネを地域で活かし使う〜東松島市の挑戦〜」東松島市復興政策部復興政策課/一般社団法人東松島みらいとし機構、2016.11.21

 同市では、これまで東北電力から電力を購入していたが、市内に新電力会社を立ち上げ、市内で電力を作って供給する(消費する)ようにすれば、地域内で経済循環できるのはないかということから、2012年10月に設立した「一般社団法人東松島みらいとし機構」(以下、HOPE注6)を新電力として経済産業省に申請し、2016年4月から新電力としても活動を開始した。東松島市スマート防災エコタウンではすべて、このHOPEから電力を購入している。


▼ 注3
環境未来都市:日本政府が進めている、今後世界的に進む都市化を見据え、環境や高齢化対応などの課題に対応しつつ、持続可能な経済社会システムを持った都市・地域づくりを目指す「環境未来都市」構想。
http://future-city.jp/http://future-city.jp/torikumi/

▼ 注4
環境省の補助金を受けて、一般社団法人低炭素社会創出促進協会が実施している「自立・分散型低炭素エネルギー社会構築推進事業」の取り組み。

▼ 注5
マイクログリッド:既存の発電所からの電力にほとんど依存しない、太陽光発電などの再エネによるエネルギー供給源と消費施設をもつ小規模なエネルギー・ネットワークシステム。

▼ 注6
HOPE:Higashimatsushima Organization for Progress and E(economy education enargy)、一般社団法人東松島みらいとし機構。震災からの創造的復興をめざして、現存するあらゆる資源(産・学・官・民)を取り込み、かつ復興に特化した専門組織。地域の新電力事業者でもある。

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