写真1 気候変動イニシアティブ(JCI)設立記者会見の登壇者(敬称略)
写真左から、山岸 尚之(司会)、末吉 竹二郎(代表)、加藤 茂夫、鈴木 悌介、岡田 憲和、二村 睦子、大野 輝之、森澤 充世の各氏(表1参照)
出所 編集部撮影
表1 「気候変動イニシアティブ」設立記者会見:登壇者一覧(敬称略、順不同)
※ イクレイ(ICLEI):持続可能性を目指す地方自治体による国際的な組織。1990年9月国際連合本部で行われた「持続可能な未来のための自治体世界会議」で、国際環境自治体協議会(International Council for Local Environmental Initiatives)が設立され、2003年に現在の名称「ICLEI」に変更された。イクレイ日本は、1990年に発足したイクレイ(旧称:国際環境自治体協議会)の日本事務所として、1993年に開設された。
世界は、脱炭素化の方向に大きく動き出した
〔1〕重要度を増すノンステートアクターズの役割
2015年に、国連のSDGs(持続可能な開発目標、後出の表4のキーワード参照)に続いて、世界196カ国・地域が全会一致で採択したパリ協定は、2016年11月に発効され、2020年から始動するなど、世界は脱炭素化の方向に大きく動き出した。
これらの活動の中で、国家・政府以外の企業・自治体・NGOなど、いわゆるノンステートアクターズ(Non-State Actors、政府以外の組織)と呼ばれる、多様な主体の活動が大きく注目されている。
米国では、トランプ政権がパリ協定離脱(2017年6月1日)の方針を明確にしたことに対して、地球温暖化などによる気候変動に危惧する米国の企業や地方自治体・州政府・大学・市民団体・NGOなどの政府以外の組織が立ち上がり、「We Are Still In」(我々はまだパリ協定の中にいる)を設立し、「American’s Pledge(アメリカの約束)」の報告書(国際宣言)を公表するなど、米国全体を盛り上げている。
今回設立された、日本の気候変動イニシアティブ(JCI、表2)もWe Are Still Inと同様に、日本全体の気候変動や温暖化対策への取り組みを盛り上げることを目的としている。
表2 JCI(気候変動イニシアティブ)のプロフィール(敬称略)
※ Non-state Actors:非国家アクター(政府以外の組織)。地方自治体や大学、企業、市民団体などを指す。
出所 「気候変動イニシアティブ」設立記者会見資料(2018年7月6日)をもとに編集部作成
表3 JCI(気候変動イニシアティブ)参加団体一覧(各グループ別に50音順):※はRE100加盟企業〔2018年7月6日現在〕
JCIの設立宣言注1に賛同し参加した日本の105団体(企業、自治体、その他のグループ)は、いよいよ脱炭素化の世界のトップランナーをめざして、本格的な活動をスタートさせた(表3)。
〔2〕日本からRE100へ10社が加盟
一方、最近注目すべきことは、日本企業の温室効果ガスのゼロエミッションをめざす国際組織への加盟が加速し始めていることだ。例えば、事業運営を100%再生エネルギーで調達することを目標とする「RE100」(Renewable Energy 100)には、すでに10社が参加している(2018年7月20日現在)。このうち、表3の※印で示すように7社がJCIに参加している。さらに、STB(企業版2℃目標)への参加企業20社のうち15社がJCIに参加している。
加えてスマートシティなどを推進し、温室効果ガスのゼロエミッションを目標とする各自治体などの経験を共有しながら、JCIはノンステートアクターズの実践を支援していく。
日本は世界のトレンドに遅れてはならない
JCIの記者会見では、前出の写真1、表1に示す多彩な団体の代表から熱いメッセージが寄せられたが、ここでは、JCIの代表呼びかけ人である、国連環境計画・金融イニシアティブ 特別顧問の末吉 竹二郎 氏のメッセージ「3つの思い」を要約して紹介する。末吉氏は、異常気象によって記録的な豪雨の被害を受けている西日本の人々へのお見舞などを述べた後、次のように語った。
〔1〕世界のトレンドに遅れてはならない
第1は、日本は世界のトレンドに遅れてはならないことである。
世界の地球温暖化対応では、ノンステートアクターズが主役の1人として大きく台頭してきた。COP21(後出の表4参照)では、世界の多くの優良企業が参加し活動している「We Mean Business」(我々は本気でビジネスの問題としてパリ協定を考えている)というグループ注2が、パリ協定が掲げる目標の実現に向けて、強く後押しした。
すなわち、「気候変動だから自然を守ろう」という環境からの視点ではなく、ビジネスを存続させる視点から、「気候変動問題」はビジネスにとって避けられない重要なテーマとなっているのだ。このような、「We Mean Business」、「We Are Still In」などの動きを見ていると、日本のノンステートアクターズも、パリ協定の実現に向けて、その存在感をもっとアピールすべきではないか、これがJCI設立の思いである。
〔2〕海外から見えにくい日本の活動
第2は、日本のノンステートアクターズは、熱心にパリ協定の実現に取り組んでいるが、海外から正当に評価されていないのではないかという課題である。
これは、日本では伝統的に国家や政府の政策を中心に推進する傾向が強く、さらに企業なども所属する業界団体の発言や方針に頼りがちのところがある。
このような背景から、日本のノンステートアクターズは過小評価されがちである。そこで、現状を打破して、その取り組みについて世界に正しく認識されるようにという願いから、その発信の「プラットフォーム」としてJCIを設立した。
〔3〕国内の低調な空気を活性化したい
第3は、温暖化問題に対して、このところ低調に思える国内の空気を活性化したい。
すでに温暖化については、温暖化問題を飛び越えて、ビジネスや産業、経済さらにライフスタイル、ひいては国や社会全体のあり方を大きく転換させる、世界的な潮流が生み出されている。
このことは、世界がパリ協定やSDGsが牽引する21世紀の新しい国際競争の時代に突入したことを意味する。日本はこの潮流に負けるわけにはいかない。
そこで、JCIに参加されている皆様に国内の機運を盛り上げていただき、パリ協定の実現に向けて、アジアはもとより世界をリードしていただきたい。
現在、JCIへの参加が100団体を超えたとはいえ、日本全国の規模から見るとまだまだこれからである。まだアカデミズム(大学など)はJCIに参加していない。地球温暖化との戦いは国を挙げての総力戦であるので、幅広い団体の力が求められる。
* * *
末吉氏は、最後に、「今日のJCI設立の発表を機会に、より多くの日本のノンステートアクターズの方々に、JCIの趣旨をご理解いただき、多くの方々が参加されることを願っています」とアピールし、締めくくった。
なお、参考のために、表4に本記事に登場する主なキーワードを解説した。
表4 本記事に登場する主なキーワード解説
出所 各種資料をもとに編集部作成
▼ 注2
https://japan-clp.jp/index.php/news2015/76-we-mean-business
https://www.wemeanbusinesscoalition.org/about/