[特別レポート]

ヤンマーの脱炭素化へ向けたエネルギーソリューション事業

― バイオマス発電などで5年後に100億円規模のビジネスへ ―
2019/09/11
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

再エネソリューションの事例

 ここで、先に述べた3つのエネルギーソリューションのうち、再エネソリューションの例を紹介する。

〔1〕バイオマス発電(再エネ)でCO2を削減

 政府が2018年7月、再エネを主電源化とすることを明記した「第5次エネルギー基本計画」注5を発表したこともあり、再エネソリューションへの関心が高まっている。また、2019年11月から卒FIT電源として、住宅用太陽光発電(再エネ)が市場に登場することが注目されている。

 図3に、同社の具体的なバイオマス関連発電システムの導入事例を示す。

図3 バイオマス関連発電システムの導入事例

図3 バイオマス関連発電システムの導入事例

出所 ヤンマーエネルギーソリューション事業説明会資料(2019年8月8日)

 バイオマス発電(再エネ)は、これまで廃棄処理にコストがかかっていたバイオガスや廃食油、食品残渣、もみ殻、畜産廃棄物などを有効活用して、CO2削減に貢献したいという顧客の要望を実現できる発電システムである。これを、バイオディーゼルコージェネによる熱電併給で廃棄物処理をして課題解決をし、CO2削減を実現した例である。

 これらの例では、ヤンマー(YES)からは小規模分散型のバイオマス発電システムが提供され、同社の全国のメンテナンス網を活用して、発電システムの保守・運用支援も行われる。実際には、下水汚泥や食品廃棄物、畜産廃棄物などの有機廃棄物から発生したバイオガスを有効活用し、コージェネでエネルギー変換(電力・熱へ変換)が行われている。

 すでに国内の下水処理場を中心に、2008〜2019年3月までに全国150機場(150カ所)で696台のヤンマー(YES)バイオガスコージェネシステムが導入され稼働するなど、実績も豊富だ。

〔2〕FIT発電事業のビジネスモデル例

 図4は、栃木県大岩藤(おおいわふじ)浄化センターおよび、思川(おもいがわ)浄化センター事業の発電事業者として2019年3月に選定された、ヤンマーエネルギーシステム(発電事業者)のビジネスモデル例である。

図4 ヤンマー(YES)のFIT発電事業

図4 ヤンマー(YES)のFIT発電事業

出所 ヤンマーエネルギーソリューション事業説明会資料(2019年8月8日)

 図4では、施主(例:自治体の下水処理場)と電力会社の間に、ヤンマー(YES)が発電事業者となってFIT事業(売電単価:39円/kWh)を展開している。

①施主(自治体)は、バイオガスをヤンマー(YES)に売却する。

②ヤンマー(YES)は、購入したバイオガスで発電し電力会社に売電する。

③ヤンマー(YES)は、売電収入によってシステムの償却・運営費をまかなう。

④ヤンマー(YES)は、施主(自治体)に、土地使用料やガス買取費用を支払う。

 この結果、施主(自治体)は、事業収益として年間約500万円を得ることが可能となる。なお、両浄化センター合算の可能発電電力量は57万3,000kWh/年となり、104世帯分の年間電力をまかなうことできる。

 発電事業の開始は、2020年4月からで、事業期間は20年間の予定である注6

 ヤンマー(YES)は、本案件の事例を皮切りに、今後、未導入の自治体や民間施設に対して積極的な提案を推進していく。

今後の展開:もみ殻ガス化発電の実証

写真1 「もみ殻」(左)と「くん炭」(右)の様子

写真1 「もみ殻」(左)と「くん炭」(右)の様子

出所 編集部撮影

 現在、稲穂の脱穀後に毎年大量に発生する「もみ殻」(もみがら。お米の一番外の皮)は、大気汚染が発生するため野焼きが禁止されていることから、もみ殻処理は農家の大きな課題の1つになっている。

 ヤンマー(YES)では、もみ殻をガス化して発電する「もみ殻ガス化発電」の実証実験を行っており、2020年中に商品化する予定である。

 ヤンマー(YES)のガス化技術は、発がん性物質が発生しない。また、ガス化発電によって煙や臭いも出ない。さらに、もみ殻の燃焼後に発生する「くん炭」(写真1を参照)は無害であり、安全に農地に還元できることが実証されている。このガス化技術によってもみ殻処理の課題が解決できると、農家や農業団体から大きな期待が寄せられている。


▼ 注5
第5次エネルギー基本計画

▼ 注6
栃木県、2019年3月26日発表。

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