年間10億円超の収益改善を実現
株式会社グリッド(以下、グリッド。東京都港区)は、四国電力株式会社(以下、四国電力)と共同開発した電力需給計画立案システム「ReNom Power」(以下、リノーム パワー)注1の効果検証の結果を11月20日に公開。年間10億円超の収益改善がなされたと発表した注2。
グリッドは、2009年設立のデジタル系ベンチャーで、電力やエネルギーなど社会インフラ領域のイノベーションにつながるサービスやシステムを提供している。
リノーム パワーは、電力の需給状況をデジタルツイン(Digital Twin、後述)やAIなど最新のデジタルテクノロジーによって解析し、需給計画の最適化や自動化を行うシステムで、2022年7月から本格稼働していた。
デジタルツイン、AI最適化技術などを活用
電力需給計画の立案は、電力需要や卸電力市場価格、再生可能エネルギーの発電量など各種の需給データの変動を適切に評価する必要がある。また、電力取引を巡る新たな市場が導入されるなど状況も変化してきた。このため需給計画の策定作業がより複雑となり、事業効率化の障害ともなっている。
このような課題解決を、最新テクノロジーによって目指したのが今回の電力需給計画立案システムだ。その1つであるデジタルツインは、現実世界から収集したデータをもとに、事業活動の状況をあたかも双子(ツイン)のようにコンピュータ上に再現する技術で、これによって精緻なシミュレーションが可能になる。今回のシステムでは、四国電力の週間計画の状況を再現している。
さらに、このシミュレーションではAI最適化技術を導入し、想定される電力需要や市場価格などをもとにした複数の需給シナリオを作成し、シナリオごとに発電計画や期待収益を算定。それらを四国電力が分析・評価し、最適なものを選択、実行する(図)。これによって、電力需要の変化に対応した経済的で効率的な発電計画の立案、実行が可能となり、その結果、収益改善が促進される。
図 電力需給計画立案システムの運用プロセスの概要出所 株式会社グリッド News 2022.06.23、「AIを活用した電力需給計画立案システムの運用開始について」
従来の経験に基づく発電計画立案から脱却
今回の電力需給計画立案システムによるメリットとして、グリッドは次の3点を挙げている。
(1)複雑な制約も踏まえた膨大な組み合わせの発電計画を立案し、期待収益の高い計画の選択が可能となった。これによって、年間10億円を超える収益効果があった。
(2)週間計画の作成時間を、収益検証の作業も含めても1/2 以下に短縮できた。
(3)発電計画立案は担当者の経験則に頼っていたが、データに基づく合理的な判断ができ、そのためのノウハウ蓄積も進んだ。
今後、エネルギー需給の多様化が進む中、同システムのようなAIなどの最新テクノロジーを活用した事業全体の効率化も、ますます必要となってくる。
注1:ReNom:リノーム。グリッドが開発した機械学習(特にニューラルネットワークを使用した分析モデル)を、理解しやすい簡単なプログラムで実装可能にする機械学習フレームワーク(Machine Learning Framework)のこと。ReNomとは、多層化したニューラルネットワーク(Neural Network)における「繰り込み理論」(Renormalization)に由来。ニューラルネットワークとは、AI(人工知能)を支える技術の1つで、人間の脳の神経細胞(Neuron:ニューロン)で行われている情報処理の仕組みを数学的にモデル化したもの。
注2:株式会社グリッド News 2023.11.20、「四国電力へ提供した電力需給計画立案システム「ReNom Power」の導入効果を公表」
参考サイト
株式会社グリッド News 2023.11.20、「四国電力へ提供した 電力需給計画立案システム「ReNom Power」の導入効果を公表」