[標準化動向]

IPTVの標準化動向(5):IPTV環境のホーム・ネットワークの「参照インタフェース」を定義

=重要なQoS(サービス品質)の集中審議も=
2007/09/25
(火)
SmartGridニューズレター編集部

ITU-T内のIPTVを集中的に審議する特別グループ「FG IPTV」(Focus Group IPTV)では、2006年7月からNGNネットワークを前提としたIPTVの標準化の審議が進められているが、1年目を今回はスイス・ジュネーブITUの本部に戻り、2007年7月23日から31日まで開催された。参加者数は前回とほぼ同じ200名くらいであり、相変わらず中国、韓国そして日本などのアジア勢が多く、日本からは30名程度が参加した。今回は、IPTVに関する要求条件とアーキテクチャーの最終締め切り(新規提案は打ち切り)ということもあって、200件以上もの大量の寄書があった。ここでは、今回定義されたホーム・ネットワークの参照インタフェースや、QoSの考え方などを中心にレポートする。

≪1≫定義されたホーム・ネットワークの参照インタフェース

今回は、IPTVの端末と並んでエンドシステムとして重要な役割を担う図1に示す新しいホーム・ネットワークのアーキテクチャーが審議された。

これまで審議してきた内容と異なる点は、これまでFG-IPTVで、ホーム・ネットワークの議論はいろいろしてきたが、ホーム・ネットワークに関する「参照インタフェース」が決められていなかった。具体的には、例えば、図1に示すように、IPI-4、IPI-3、IPI-1などのIPI(IP Infrastructure)インタフェースの定義がなかった。


図1:IPエンドシステム用ホームネットワーク・アーキテクチャ(クリックで拡大)
〔出典:FG IPTV-DOC-0126:Working Document: Aspects of Home Network supporting IPTV services〕

IPIについては、すでにDVB-IPI(DVB:Digital Video Broadcasting 、欧州のデジタル・テレビ放送規格)として規格化されているインタフェースや、ATIS(Alliance for Telecommunications Industry Solutions、米国のIT関係の標準化組織)における定義づけなどを参考にして、図1に示すように、IPI-0、IPI-1、IPI-3、IPI-4などのインタフェースを作成した。

DVBの定義には表1に示されていないIPI-2も含まれている。そのIPI-2はDVBでの定義によると、IPベースの複数のホーム・ネットワークのセグメントのインタフェースとして定義されている。しかし、ATISなどではIPベースのホーム・ネットワークを複数のセグメントに分割する意義が乏しいと考えているようで、このインタフェースは定義されていない。今回は、このようにホーム・ネットワークのインタフェースを作成したため、今後、標準を作成するうえで見通しがよくなったことがあげられる。

図1は、前回(第4回)の図1と大きくは変わっていないが、一つ違っているところは、U-インタフェース(UNI:User to Network Interfaceのイメージ)や前述したIPI-0、IPI-1、IPI-3、IPI-4などのインタフェースが定義されたことである。

IPI-4というのは、図1に示すように、アクセス・ゲートウェイとネットワーク・ターミナル(NT)間のインタフェースであり、これはATISの定義に合わせものである。 IPI-3は、アクセス・ゲートウェイの下流側とのインタフェースである。IPI-1は、IPTV端末(TD:Terminal Device)の上流側、IPI-0(/IPI-1)が、IPTV端末の下流側にあるホーム・ネットワーク端末とのインタフェースである。

IPI-0は、特に非IP(Non-IP)の独自プロトコル(メーカー独自の規格)で接続する場合のインタフェースであり、IPで接続する場合のインタフェースは、IPI-1を使用する。また、各インタフェースで用いられる媒体の種類に従ってIPI-1a(電力線用インタフェース)、IPI-1b(イーサネット用インタフェース)、IPI-1c(Home PNAインタフェース)・・・など細かな種別も規定される。表1に、これらのインタフェースを整理して紹介する。

インタフェース名 内 容
IPI-0 IPTV端末とホーム・ネットワーク端末間のインタフェース(アクセス・ゲートウェイと直接接続されない)
IPI-1 IPTV端末またはホーム・ネットワーク端末の上り側のインタフェース。なお、ホーム・ネットワーク端末は、ホーム・ゲートウェイと、直接、IP接続することもできる。
  IPI-1a IPI-1 電力線用インタフェース
IPI-1b IPI-1 イーサネット(10/100 BASE-T)用インタフェース
IPI-1c IPI-1 Home PNA用インタフェース
IPI-1d IPI-1 同軸用インタフェース
IPI-1e IPI-1 ワイヤレス用インタフェース
IPI-3 アクセス・ゲートウェイの下り側インタフェース
  IPI-3a IPI-3 電力線用インタフェース
IPI-3b IPI-3 イーサネット(10/100 BASE-T)用インタフェース
IPI-3c IPI-3 Home PNA用インタフェース
IPI-3d IPI-3 同軸用インタフェース
IPI-3e IPI-3 ワイヤレス用インタフェース
IPI-4 アクセス・ゲートウェイの上り側インタフェース
  IPI-4a IPI-4 銅線アクセス網との接続インタフェース
IPI-4b IPI-4 イーサネットによる光アクセス網との接続インタフェース
IPI-4c IPI-4 同軸インタフェースによる光アクセス網との接続インタフェース
IPI-4d IPI-4 ワイヤレス・アクセス網との接続インタフェース
U-インタフェース
  • IPTV端末とホーム・ネットワーク間のインタフェース
  • U-インタフェースとNTはホーム・ネットワークの外側に位置する
表1 ホーム・ネットワーク内の各インタフェース(クリックで拡大)
〔出典:FG IPTV-DOC-0126:Working Document: Aspects of Home Network supporting IPTV services〕

このようなインタフェースが定義されたため、各部の境界の意味合いが明確になり、今後の議論がしやすくなった。例えば、IPI-1c(Home PNA用インタフェース)では帯域の制約からハイビジョン(HDTV)何チャネルまで伝送できるインタフェースである、というような議論がしやすくなったということである。

≪2≫2つのホーム・ネットワークの形態

これに関連して、この図2に示す、IP対応のホーム・ネットワークをつくった場合に、考慮すべき点も整理しやすくなった。上側の図2(1)は、物理的に分離されたIPホーム・ネットワークの構成例であり、下側の図2(2)は、IPベースのホーム・ネットワークの構成例である。


図2: IPベースのホーム・ネットワークの構成例(クリックで拡大)
〔出典:FG IPTV-DOC-0126:Working Document: Aspects of Home Network supporting IPTV services〕

〔1〕物理的に分離されたIPホーム・ネットワーク

図2(1)は、まずアクセス・ゲートウェイがあって、

(1)IPホーム・ネットワーク・プライマリー(IP-HN-P)経由で直接IPTV端末と接続される場合と、
(2)IPTV端末の後のホーム・ネットワーク・セカンダリー(IP-HN-S)経由でホーム・ネットワーク端末(要するに、IPTV端末でないDVDレコーダや、ディスプレーなど)接続される場合

を示している。全部IPで接続されているが、前段のIPホーム・ネットワーク(プライマリー)と後段のIPホーム・ネットワーク(セカンダリー)というように、別々の島の構成になっている。両者の連携はなく、いずれかのネットワークがもう一方に影響することもない。まったく独立に運用されているといえる。

〔2〕IPベースのホーム・ネットワーク

これに対して図2(2)は、別々に配線するのではなく、例えば、スイッチで接続して、これを2つの領域が共有して使う構成である。この場合には、プライマリーの情報とセカンダリーの情報が同じネットワークの上を流れてしまうので、ネットワークの資源(帯域など)の利用で競合する場面が出てくる。このことは、例えばトラフィック優先度の管理に影響を与える可能性がある。

図2(2)の下の部分の例では同一の物理ネットワークをアクセス・ネットワークからIPTV端末までのパケット(青い矢印)とIPTV端末からホーム・ネットワーク端末へのパケット(赤い矢印)の2種類のパケットが伝送される。この両者の間のプライオリティ(優先順位)のあり方などのような議論もしやすくなってきた。すなわち、標準化すべきポイントがかなり明確になってきたということである。

標準化の作業方法として、既存の文書をベースに作業することは作業の効率化や無駄な重複作業を省く点で有効である。ホーム・ネットワーク全体については、QoSなど必要な機能が一通り備わっていて比較的多くの人が支持していることもあるため、HGI(※1)の構成をベースに審議を行っているところである。

※1 用語解説
HGI:Home Gateway Initiative、欧州の通信事業者が中心となって組織されたホーム・ゲートウェイの標準化団体

≪3≫重要なQoS(サービス品質)を集中的に審議

また、ホーム・ネットワークにおいても、QoS(サービス品質)は、非常に重要なテーマなであるので、かなり集中的に審議している。QoSというのは、ネットワーク上に流れるトラフィックの品質を確保したり、評価したりする技術のことである。具体的には、音声や映像などを含んだパケットの損失や、ジッター(遅延揺らぎ)などに関することである。

詳しい説明は省略するが、図3に、具体的に審議されている「LANイングレスからのQoS機能を、図4にWANイングレスからのQoSの機能を示す。これらの図には表現されていないが、一般的なネットワークの構成上から、ホーム・ゲートウェイのような装置を境に、ホーム・ゲートウェイの内側(家庭内のほう)はLAN側と呼ばれ。外側(アクセス・ネットワークのほう)はWAN側と呼ばれている。


図3: LANイングレスからのQoS機能(クリックで拡大)
〔出典:FG IPTV-DOC-0126:Working Document: Aspects of Home Network supporting IPTV services〕

図4: WANイングレスからのQoS機能(クリックで拡大)
〔出典:FG IPTV-DOC-0126:Working Document: Aspects of Home Network supporting IPTV services〕

図3図4に示す「イングレス」というのは入り口(入力)という意味で、「エグレス」というのは、外への出口(出力)意味を意味する。例えば、図3では、左側にLANイングレスがあり、家庭内のIPパケット(コンテンツ)は家の中(LANイングレス)から、右側に示す家の外のWANエグレスに向かって外へ流れていく、すなわち「上りのトラフィック」のことを意味している。また、図3は家庭内のトラフィックがLANイーグレスからWANエグレスに向かう場合の、LANイングレスのQoS機能の仕組みも示している。逆に、図4はWANイングレスからLANエグレスに向かう場合(すなわち「下りのトラフィック」)の、QoSの機能の仕組みを示している。

このQoSの議論はもちろん、ごく一般的な内容なので一般論として議論したが、逆にこの議論をしっかりと確認・整理しておかないと、今後の展開に影響する大事なことであるため、FG IPTV-DOC-0126の文書でも詳しく解説されている。

≪FGIPTV-DOC-0126のURL≫
http://ties.itu.ch/ftp/public/itu-t/fgiptv/readonly/20070723_Geneva/Documents/FG%20IPTV-DOC-0126e.doc

なお、次回は、2007年10月15日から19日まで東京で開催される予定である。

(つづく)

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