≪1≫OKIの企業ビジョンとNGN事業の目指す姿
■OKIではNGNへのアプローチの前から「e社会」というキーワードを発信されていますが、この「e社会」とNGNの関連について教えてください。
来住 OKIが目指してる「e社会」は、「個」を重視するユビキタス社会であり、ユビキタス・ネットワークとユビキタス・サービスにより実現するものだと考えています。そのためには、誰もが安心して、安定したネットワーク・サービスを受けられる必要があります。このようなインフラを実現するキーの一つがNGNです。
■そこで、事業の統合という具体的な動きをされたんですね。
来住 その通りです。OKIはこのNGNに対応して、図1に示すように、キャリア向けと企業向けのネットワークを統合したサービス・インフラを提供しようと考えています。そこで、キャリア事業と、企業ネットワーク事業を通信ビジネス・グループに統合しました。NGN領域で、2008年度の売上高1,000億円というのが目標です。
■NGNへの利用者の関心として「結局、何ができるのか」という質問があると思いますが、OKIではどう答えていますか。
来住 OKIの強みである3つのユビキタス・サービスを具体的に説明しています。情報システム向け、金融機関向け、そして、企業向けです。さらに、「金融」「公共」「トラベル」「交通」「製造」「ホーム&パーソナル」という具体的な利用シーンを提示して、それぞれのメリットを提示しています。
≪2≫NGNで活きるOKIの強み
■それではNGNの利用シーンごとにどういうサービスを提供し、あるいは実現しようとしているのでしょうか。
来住 まず、OKIの強みの一つである、金融ユビキタス・サービスから説明しましょう。従来の金融サービスは店舗が中心でした。これがユーザーを中心としたものに変わり始めています。つまり、お客様の都合の良い場所で都合の良いときにサービスを提供するだけではなくて、対面、遠隔操作、セルフ操作というように、お客様の都合の良い形でサービスを受けられるようになってきています。金融機関が「お客様の望む商品とサービス」を、営業店、代理店、コンビニ、駅、オフィスや自宅、モバイルといった多種多様なデリバリ・チャンネルから顧客に提供するには、NGNの安心・安全なネットワークが必要です。
そして、OKIでは金融ユビキタス・サービスを説明するときに、図2のような「リアル店舗の将来像」を提示しています。NGNとFMC(固定サービスとモバイルサービスの融合)などを活用した「未来の金融ショップ」がお客様の望む金融サービスをリアルに提示できるのも、OKIがネットワーク利用者に直結したサービスの提供を長年続けてきたからです。
■金融以外では、どのようなサービスイメージを提示されていますか?
来住 トラベル・ユビキタス・サービス、交通ユビキタス・サービス、ホーム&パーソナルユビキタス・サービスというように、具体性があるサービスイメージを出しています。
トラベルユビキタス・サービスでは、従来、空港や駅を中心に展開してきた」サービスが、消費者を主役とする「計画から旅行中、帰国後までをワンストップでサポート」するものに変わる姿を描きました。旅のストーリー作りを実現するトラベルウェブサイトとヘルプ・デスクによるきめ細やかなサポートをネットワークが支えます。
交通ユビキタス・サービスにおいては、従来、道路や交通機関がサービスの中心でしたが、これが車などの移動体中心へシフトしています。OKIではここに、ネットワークの力を活用した駐車場管理システム、工場や物流のゲート・システムなどを提案しています。身障者専用駐車エリアやセルフ・ガソリン・スタンドの管理のような、今まさに求められているるシステムを提供していきます。
そして、ホーム&パーソナルユビキタス・サービスでは、「人中心」へのサービスのシフトが大きなテーマです。テレワークのようなホーム・ビジネスに加えて、どこでも映像コンテンツが楽しめたり、番組予約ができたりといった生活の利便性においても、NGNが効果を発揮すると考えています。
≪3≫OKIが考えるNGNへのアプローチ
■ビジネス・ユーザーからホーム・ユーザーまで幅広いサービ・スイメージになっていますが、OKIにとってのビジネスチャンスを生み出すポイントはどこだと考えていますか。
来住 OKIでは、NGNのサービス構成を、図3に示すように、ユビキタス・サービス層、ユビキタス・サービス・プラットフォーム層、ユビキタス・ネットワーク層の3つの層で考えています。従来は図3の真ん中のユビキタス・サービス・プラットフォーム層に、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)が提供するサービス、キャリアが提供するサービス、企業設備が混在している状態です。
この構成がNGNのSDP(Service Delivery Platform:サービス提供基盤)によって、従来の法人顧客向けによるサービスから、キャリアによるサービスにシフトすると考えています。ここに、企業向けサービスとしての、キャリア連携による新たなビジネス・チャンスが生まれると考えています。
■企業の社内システムがキャリアの提供するサービスにシフトすることは、OKIにとって脅威にはならないのですか?
来住 そうですね。例えば、OKIの金融カンパニーとキャリアの考える金融サービスが競合することがないとは言えません。しかし、OKIの側からキャリアに対してビジネスの提案を行うことで、コラボレーションを進めることも期待できます。常にお客様と良くコミュニケーションをとって営業活動をしていきたいと思います。
お客様にご理解いただけるSDPビジネスの成功のためには、具体的なソリューション・コンセプトが必要です。そこで、ユビキタス・サービス・プラットフォーム層において、OKI サービス・コンヴァージェンス・プラットフォーム(OKI Service Convergence Platform:OSCP)を開発しました。
■そのOSCPとはどのようなプラットフォームでしょうか?
来住 OSCPは、NGNの新しいサービスを、迅速、柔軟、高信頼性にて実現するためのソリューション・コンセプトです。新技術とビジネス・モデルをキャリアSDPサービスに取り入れて、新たなサービスを創出・提供しようと考えています。しかし、OKIだけですべてできるとは考えていません。OSCP-SDPについては、SDPで豊富な実績のあるBEAシステムズ社と共同開発したSIPアプリケーションサーバを中心に据えています。OSCP-SDPはNGN機能を公開してサービスを構築・提供するコンピューティング基盤です。また、クライアント側であるIP-PBX(IPに対応したPBX)、ホーム・ゲートウェイ、モバイル・プラットフォームには、NGN機能とWeb機能を統合したアプリケーションの利用基盤として、OSCP-クライアントを提供します。
OSCPは、ベースとなる通信連携機能の開発を完了しており、顧客によるトライアルが始まっています。
■BEAシステムズ社との共同開発の他に、提携されている企業はありますか。
来住 まず、NTTコミュニケーションズ殿と共同でのNGNトライアルへの参加があります。このトライアル・サービスは、アプリケーションの画面から、NGNが提供するプレゼンス情報の確認をするとともに、SDPを通してNGNのコミュニケーション機能の利用を容易に実現するものです。NTTコミュニケーションズ殿によるサービス基盤(SDP)と連携するコミュニケーション・サービスである、Web2.0メール「Zebra」をユーザー向けにカスタマイズしました。企業ユーザーをターゲットとし、利用頻度の高いメール画面から電話発信や映像会議を実現します。
この「Zebra」はフィードパス社によって開発されましたが、フィードパス社とは、Web2.0-キャリアビジネスの面で戦略的な提携を行っています。SDPと連携してサービスを行うWebシステムを提供するのが目的です。
そして、このコミュニケーション・サービスのモバイル対応(開発中)において、重要なパートナーがACCESS社です。ACCESS社との提携により設立した株式会社OKI ACCESSテクノロジーズにおいて、携帯電話・PDA・情報家電向けクライアント製品の開発を行っています。
(つづく)
プロフィール
来住 晶介(きし まさすけ)
現職:沖電気工業株式会社 執行役員 ネットワークシステムカンパニーEVP ネットワークシステム本部長
1980年3月 東京大学大学院工学系研究科(電気工学専攻)卒業 同年沖電気工業株式会社入社
1995年10月 情報通信システム事業本部マルチメディアシステム
開発センタ・マルチメディアシステム開発部長
1996年3月 情報通信システム事業本部ルチメディアシステム 開発センタ・パーソナルシステム開発部長
1998年4月 デバイスビジネスグループLSI事業部 方式開発部長
1999年4月 デバイスビジネスグループLSI事業部 プラットフォーム開発部長
2000年6月 シリコンソリューションカンパニーLSI事業部 プラットフォーム開発部長
2001年4月 シリコンソリューションカンパニーLSI事業部 ワイヤレスLSI商品開発第二部長
2004年4月 シリコンソリューションカンパニーVP兼デザイン本部長
2005年4月 半導体ビジネスグループ・シリコンソリューションカンパニー EVP兼デザイン本部長
2006年4月 同執行役員(現) 情報通信事業グループSOO兼ネットワークシステム カンパニーEVP兼ネットワークシステム本部長
2007年4月 情報通信グループSOO兼ネットワークシステムカンパニー EVP兼ネットワークシステム本部長(現)