[標準化動向]

IPTVの標準化動向(6):IPTV標準化のカギとなる「サービス要求条件」を確定

=「アーキテクチャ」は継続審議=
2007/12/03
(月)
SmartGridニューズレター編集部

ITU-T内のIPTVを集中的に審議する特別グループ「FG IPTV」(Focus Group IPTV)では、2006年7月からNGNネットワークを前提としたIPTVの標準化の審議が進められているが、今回は2007年10月15日から19日まで、東京で開催された。
日本は、初めてFG IPTVの会合のホスト国となった。準備には半年ほどかかり、20数社の企業からの支援を得て、東京の京王プラザホテルで開催された。参加者は過去最大の約250名となった。内訳は、日本からが約130名、韓国約50名、中国約20名と、日本での開催とあって、日本と韓国からの参加者が特に多くなっている。提案(寄書)は183件あり、日本からは27件と、前回と同レベルで積極的に提案された。中国67件、韓国33件だった。リエゾン文書は16件となった。

≪1≫「サービス要求条件」は確定!「アーキテクチャ」は継続審議へ

[1]「サービス要求条件」が確定

今回の主な成果としては、2007年1月の米 カルフォルニア州マウンテンビューでの開催以来ほとんど全WGが作業を分担して作業を行って来た「サービス要求条件」が確定したことだ。サービス要求条件とは、「IPTVはどういうものであるべきなのか」という内容を定めたもので、ITUでは、「サービス要求条件」と「アーキテクチャ」があらゆる議論の土台となるので、標準化作業のもっとも基本となる要素である。

今回完成した「サービス要求条件」は、690件にのぼる項目が記述されている。

現在は、このサービス要求条件は、FG-IPTVの親SGであるSG13(Study Group)へ送付された状態で、FG IPTVの最終回となる12月の会議では議論されず、後はSGでの勧告としての承認手続きを待つことになる。

FG IPTVとしては、1年半の審議をへているため、そのまま勧告化できる状態として提出しているが、SGとしても更に完成度を高めたいという考えもあるかもしれない。この場合SG内でさらに議論される可能性もある。

[2]「アーキテクチャ」は継続審議

アーキテクチャについては、今回サービス要求条件とともに出力する予定だった。アーキテクチャが定まらないと、ほかの議論が進まないためだ。ところが文書の完成度が十分でないため、継続検討になった。FG IPTVとして次回の会合でも引き続き議論することとなる。

≪2≫IPTVターミナル・デバイス

[1]IPTV-TDの文書構造の再構築の提案

IPTVターミナル・デバイス(IPTV-TD)では、技術の中身の議論は、収束しつつあり、今回は、最終的な文書の出力や文書間の整合を意識した文書の再構成の提案があった。

FG IPTVで1年半話し合い、技術的な論点は出尽くしたが、コーデックやセキュリティなどほかのWGでも話し合われている内容が含まれている。そうしたほかのWGからの文書などを比較して、取り入れるべきところや直すべきところ、WG間で議論がずれているところのチェックなどの作業を行ってきた。いよいよ勧告を意識して、文書体系を整理する段階に入って来た。

[2]移動体端末の議論が始まる

さらに、移動体端末の検討が開始された。これまでIPTV-TDについては、TVやSTBといった固定受信機での議論が中心で、移動体端末についての議論は進んでいなかったが、いくつかの寄書による提案があり、審議されることになった。

3Gや3.5Gなどの通信事業者がやっている携帯電話における通信だけでなく、モバイルWiMAX系のものも含めている。無線LANについてもWi-Fiなどのインタフェース仕様についてはIPTVでも定義されている。

移動体端末は異なるネットワークをまたいだ場合のローミングや、携帯端末などの小さい画面向けに画像を交換処理するトランス・コーディング(符号変換)などのコンテンツの保護の問題など、テーマは深い。

[3]GEMとBMLの共通入力イベントの提案

リモコンに搭載されているデータ制御用のイベント(ボタン)について、日本から何度か提案している。

これは、現在のデジタル放送では、放送局から送信されるデータコンテンツをTVなどの受信機側でリモコン操作するために、リモコンのボタンとGEM(※)やBML(※)の対応が標準で決まっており、IPTVでも同様の共通のイベントを標準化しようというものだ。

今回は決まらなかったが、次回で決めるか、あるいは別途文書なり課題なり議論を開始する必要がある。

※ 用語解説
GEM:Global Executable MHP、欧州DVB-MHP、日本のARIB、米国ATSC/OCAPの3地域の標準化団体で組織されたMUG(MHP Umbrella Group)によって、世界標準を目指してDVB-MHPをベースに策定された規格

MHP:Multimedia Home Platform、欧州の標準化団体DVB(Digital Video Broadcasting)によって策定されたJavaをベースにしたデジタル放送のデータ放送規格。欧州で主流

BML:Broadcast Markup Language、XMLベースの放送用記述言語。日本で主流

[4]8、9割の完成度にあるIPTV-TD

IPTV-TDに関しては、8、9割の完成度の状況にあり、基本的な内容は固まった。あといくつかの論点をつめ、文章化して、さらに補助的な文書もいくつか必要かもしれない。ITU勧告は強い力を持つので、必要以上に細かすぎると開発者の意欲をそいだり、優れた製品を作れなくなったり、勧告通りに作るとかえって競争力のない物ができたりといった弊害も懸念される。そういう事を防ぐために、インプリメンターズガイド(実装する際のガイド)や、テクニカル・ペーパー(技術文書)といった、ITUのなかにある補助文書をうまく使い、IPTVの互換性に寄与する細かい運用条件などや、VoDの実装といった違う角度での視点を入れて、きちんと使われる標準にする必要がある。


図1:IPTV-TD(IPTV端末)の構成(クリックで拡大)
〔出典:T05-FG.IPTV-DOC-0159〕
≪T05-FG.IPTV-DOC-0159のURL≫ http://www.itu.int/md/T05-FG.IPTV-DOC-0159/en

≪3≫ホーム・ネットワーク

[1]他フォーラムとの整合性を確認

ホーム・ネットワークについては、中身の修正は、ほとんどなく、前回と同じ内容である。これはホーム・ネットワークがまったく何もない状態から作られたのではなく、すでにあるベースドキュメンから作られたので、技術的な論点はすでに議論されているからである。

ホーム・ネットワークは、HGI(※)、DLNA(※)など複数のフォーラムがあり、文書も多く、一部は実装されている。今後は、こうした乱立気味の規格をどう整合させるかが問題となる。

FG-IPTVでは活発なリエゾンが行われており、ほかのフォーラムや標準化団体との連携を重視している。

※ 用語解説
HGIHome Gateway Initiative
:ホームゲートウェイの共通の技術仕様を策定するための標準化団体

DLNADigital Living Network Alliance
ホームネットワークを用いてAV機器やパソコン、情報家電を相互に接続し、連携して利用するための技術仕様を策定するための業界団体

TR69:ACS(Auto Configuration Server:自動構成サーバー)から設定情報をダウンロードしたり、家の中のデバイスを監視したりする規格

[2]CMPとTR69

このCMP(※)は、RG(住宅用ゲートウェイ)を介してホーム・ネットワークのデバイスを制御するプロトコルでありISO/IEC JTC1/SC25(※)で検討が進んでいるものである。ISO/IEC JTC1/SC25は、ホーム・ネットワークについても熱心に議論しており、ITUにもFG IPTVや各SGにリエゾンが送られてきた。一方、遠隔操作・管理に関するプロトコルとしてDSL-F TR69(※)という技術も広く知られており、技術分野的にはややオーバーラップしている。

CMPとTR69の話はSG4からのリエゾンを通じてFG IPTVにも情報がもたらされた。内容は、CMPは技術的にもTR69と近いので、新しくCMPという規格を作るのではなく、すでに確立されたTR69を使うべき、というものだ。

IPTVにおける遠隔管理は便利な機能であるが、利用者のプライバシー保護の問題もある。これまでもFG IPTVで盛んに議論されてきたテーマの一つである。具体的なプロトコルを特定する前にまずは要求条件など全体像を議論することが必要だろう。引き続き検討が進むことを期待している。

※ 用語解説
CMP:Central Management Protocol、RGを介してHNのデバイスを制御

ISO/IEC JTC1/SC25:DSLに関するフォーラム
 

[3]IEC15045の検討

ISO/IEC JTC1/SC25からIEC15045という、住宅用ゲートウェイ(RG)RGに関する規格を考慮して欲しいという提案があった。

現在は、HGIの規格をもとに作っているが、IPTVを想定したものではないので、修正を加えている。これに対して、それとは別なゲートウェイの規格であるIEC15045も検討してほしいという提案である。

IPTVなので、QoSやマルチキャストの扱いなどが必要だが、基本的にはいろいろなホーム・ゲートウェイがIPTVをサーポートしてくれればよいと考えている。

今回は紹介程度であったが、次回の会議では、IEC15045の使い方についての提案をする予定となっている。汎用性の高い規格なので、ある種の条件を入れることでIPTVに対応できることになろう。

[4]セキュリティ・モデルについてX.1111との整合を検討

セキュリティをテーマにしているSG17からの提案で、ホーム・ネットワークのセキュリティ・アーキテクチャ、セキュリティ・フレームワークを勧告化したX.1111(※)を考慮して欲しいという要望があった。

ホーム・ネットワークのセキュリティについては、FGで話し合われたモデルのプライマリー/セカンダリーという考え方(前回のレポート参照)と、X.1111の2つのモデル整合性をとりたいということである。今回は、この2つのモデルが見え方が違うだけで技術的にも同じものなのか、それとも技術的には差分の問題なのかを検討している。

図2はX.1111のホーム・ネットワーク・アーキテクチャである。ホーム・デバイス「タイプA」はタイプB/Cを制御するコントローラである。ホーム・デバイス「タイプB」は「タイプCへの接続を提供する。ホーム・デバイス「タイプC」は他の装置へのサービスを提供する。タイプA/B/Cは1つの装置に実装してもよい。結論として、IPTV-TDは「タイプB」と解釈できる。ただしタイプA/Cと一体の実装としてもよいだろう。

なお、次回は、2007年12月11日から18日までマルタで開催される予定で、このマルタでの会合がFG IPTVとしては最後の会議となる。

※ 用語解説
X.1111:ホーム・ネットワークのセキュリティ技術に関するフレームワーク。2007年2日に勧告化


図2:ITU-T勧告X.1111のホーム・ネットワーク・アーキテクチャ(クリックで拡大)
〔出典:T-REC-X.1111-200702-I〕
≪X.1111のURL≫ http://www.itu.int/rec/T-REC-X.1111-200702-I
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