[標準化動向]

IPTVの標準化動向(7):NGNリリース2に向けて、IPTVの勧告素案完成

=FG IPTV終了、ITU-Tにおいて勧告化へ=
2008/01/17
(木)
SmartGridニューズレター編集部

ITU-T内のIPTVを集中的に審議する特別グループ「FG IPTV」(Focus Group IPTV)では、2006年7月からNGNネットワークを前提としたIPTVの標準化の審議が進められてきたが、最終回の第7回会合は2007年12月11日から18日まで、地中海のマルタ共和国にて開催された。参加者は125名、うち日本からは22名が参加した。最終会合となった今回は、1年半の議論の集大成としてIPTVの勧告素案がまとまり、標準化へ向けて次のステップを踏み出すこととなった。

≪1≫合計20件の成果文書(勧告素案)を完成!

マルタの首都バレッタ
マルタの首都バレッタ

FG IPTVの第7回会合は、マルタ共和国で開催された。マルタ共和国は、イタリア半島の東南、シチリア島の南に位置する人口約40万人の島国である。総面積は316平方キロメートルで、淡路島の半分程度の広さしかない。

入力文書(提案文書)は、寄書約120件、リエゾン文書10件だが、最終会合ということもあり、成果文書を完成させるための議論が中心となり、成果文書の完成だけでなく、親SG(SG13)への申し送り事項のまとめ、リエゾンをやり取りした外部団体などがまとめられた(後出の表1参照)。

その結果、合計20件の成果文書が完成した。

今後、FG IPTVの成果を引き継ぎ、アーキテクチャ、プロトコル、マルチメディア端末等を専門に審議する各SGにおいて、標準化手続きが進められる。そのため、当面はFG IPTVの後継組織であるIPTV-GSI(Global Standard Initiative、NGNの課題をもつSGの合同会合)を構成し、ここでIPTVに関する集中的な議論を行うことになっている。最初のGSI会合は2008年1月にソウルで開催される。

今回完成した成果文書は、次の通りである(後出の表1参照)。
・アーキテクチャ(基本設計)関連4件
・QoS(サービス品質)関連4件
・セキュリティ関連1件
・ネットワーク制御関連3件
・端末(受像器)のインタフェース関連2件
・コンテンツプラットホーム関連5件
・用語集1件

≪2≫IPTV端末の機能
=透かし技術を利用しコンテンツのトレーサビリティを確保=

〔1〕コンテンツのトレーサビリティ

図1に示されるように、IPTVでは、送信されたコンテンツは、STB(セット・トップ・ボックス)などの受信機で受信されたあと、テレビに映したり、外部のハードディスク・レコーダやモバイルなどセカンダリ・デバイスに送信されたりして、管理が難しい面がある。そこで、受信したコンテンツのトレーサビリティ(追跡可能性)を導入し、コンテンツの配信経路を明確にすることは有効と考えられている。具体例としてコンテンツに透かしを入れることによって、受信された後のコンテンツの管理を可能にする技術である。透かしの導入については、オプション機能としてWG3で認められている。

また、コンテンツの流通や再生に制限を加えるDRM(デジタル著作権保護)技術を利用することも考えられるが、コンテンツを保護しているDRM技術が破られた場合に、どこから流出したのかわからなくなってしまう。特にマルチキャストでコンテンツを配信する場合には、受信機でコンテンツに透かしを入れないとわからない。

コンテンツを追跡できれば、セキュリティ上の抜け穴(例えば問題のあるデバイス)を発見し、必要に応じて改善指示などの事後策をとることができる。

透かしによるコンテンツの追跡機能は複数の受信機で同一のコンテンツを受信するマルチキャストでの同報配信で有効と考えられている。一方、VoDなどのユニキャスト系のサービスでは、送信元でトランザクションIDなどによる識別が可能なのでマルチキャストとは少々状況が違っている。このため受信機における透かしの導入はマルチキャストに限定された機能であることが確認された。

なお実際の運用にあたっては、サービス・プロバイダ側の判断にゆだねられることになった。


図1:IPエンドシステム用ホームネットワーク・アーキテクチャ(クリックで拡大)
〔出典:FG IPTV-DOC-0126:Working Document: Aspects of Home Network supporting IPTV services〕

〔2〕ソフトウェアの構造化

ソフトウェアの構造化に関してはミドルウェアを必須の機能とするか否かが議論された。この件は端末、ソフトウェア双方の専門家の関心事で端末を担当するFG IPTVのWG5とミドルウェアを担当するWG6との合同会合が開催された。議論の結果、ミドルウェア機能を含んで、OS上で直接動作するアプリケーション〔レジデント・アプリケーション〕も存在することから、ミドルウェアのオプション化が合意された。

≪3≫ホームネットワーク=課題を積み残したセキュリティ=

〔1〕ホームネットワークの構成

ホームネットワークの検討については、SG15/16とFG IPTVは整合性がとれた状態となっている。ただし、ホームネットワークについては、DVB(※)やATIS(※)をはじめ、HGI(※)、DSLフォーラム、DLNA(※)など、非常に多くの団体が検討しているため、こうした外部の団体によって定められた規格とどのようにして整合性を取るかは今後の課題となった。

※ 用語解説
DVB:Digital Video Broadcasting、デジタルテレビ放送関連の欧州の標準化組織およびその規格名
ATIS:Alliance for Telecommunications Industry Solutions、米国のIT関係の標準化組織
HGI:Home Gateway Initiative、欧州の通信事業者が中心となって組織されたホーム・ゲートウェイの標準化団体
DLNA:Digital Living Network Alliance、デジタル・リビング・ネットワーク・アライアンス

〔2〕QoS

QoSには大きく分けて、

1)クラスベースドQoS

2)パラメタライズドQoS

の2通りの実現方法がある。HGIではクラスベースQoSが、UPnPなどではパラメタライズドQoSが採用されている。

今回の成果文書では、クラスベースQoSが重点的に記述されているが、将来課題として、パラメタライズQoSの可能性にも触れることになった。

クラスベースQoSの特長は、まず、データにID(識別子)のような優先度を示したフラグを付与し、ルータやスイッチは、そのフラグをみて、優先度の高いものから処理をするという方法だ。DiffServ(※)が代表的な例である。単にマーキング(印をつける)を付与することとこれに基づく優先処理を行うだけなので、比較的単純な仕組みである。その反面、サービスのための帯域を確保することができず、相対的な優先度を設定するに過ぎない。レイヤの違いはあるが、イーサネット(Ethernet)のマーキングもこれに相当する(DiffServはレイヤ3、イーサネットはレイヤ2)。

一方、パラメタライズドQoSは、サービスを始める前に、サービスに必要な帯域を要求し、これが確保されたらサービスを開始し、帯域が確保できない場合はサービスしないという方式だ。これは所要帯域を確実に確保するという点では優れているが、言い換えれば帯域が確保できないときにはサービスを提供しない、という意味では一定のサービス品質を確保できる仕組みである。一方、帯域の管理や管理制御などに複雑な機構が必要となるため、実装が複雑になりがちだ。また、この方式でも帯域確保の信号を適切に処理できない装置(安価なスイッチなど)が導入されれば帯域確保の効果も限定的になるだろう。ホームネットワークの特徴として技術的知識を持たないエンドユーザーが構築するということを考えると、いたずらに機構を複雑にしてもそれに見合った効果が得られるとは思えない。引き続き検討が必要である。なお、この方式にはIntServ(※)やセッションベースQoSという呼び方もある。代表的な方式としてはRSVP(※)、UPnP(※)などがある。

※ 用語解説
DiffServ:ディフサーブ、Differentiated Services、ユーザーが送受信するトラフィック(サービス)の種類を識別し、種類に応じて優先度を制御する方式
IntServ:イントサーブ、Integrated Services、個別のアプリケーションのパケットの流れに対して、通信品質の保証を行う方式
RSVP:Resource Reservation Protocol、リソース(帯域)予約プロトコル、IntServのために使用されるプロトコル
UPnP:Universal Plug and Play、ネットワークで接続されたパソコンや情報家電機器がお互いに機能を提供し合うための仕様

〔3〕セキュリティ

セキュリティに関しては、DRM、NAT/FW(ファイアウォール)など重要な課題があるが、FG IPTVを通じてあまり議論が進まず、SCP(※)の機能の定義まではできたが、DRMの要件までは議論できなかった。本会合ではセキュリティについての勧告X.1111(※)を引用しつつ、セキュリティ機構の詳細は将来課題とした。

※ 用語解説
SCP:Service and Content Protection、サービスとコンテンツの保護
X.1111:Framework for security technologies for home network、ホームネットワークのためのセキュリティ技術のフレームワーク、2007年2月に勧告化
http://www.itu.int/rec/T-REC-X.1111/en

〔4〕ISO/IEC 15045-1との整合およびISO/IEC 15045-2へのフィードバック

ホーム・ゲートウェイの標準を開発しているISO/IEC JTC1/SC25(第1合同技術委員会の第25分科委員会、IT機器の相互接続について協議)から、ISO/IEC 15045-1を参照してほしいという要求と、FCD(Final Committee Draft、最終の委員会草案)ISO/IEC15045-2について意見を求めるリエゾン文書が送付された。

ISO/IEC 15045-1は、ホーム・ゲートウェイの構成フレームワークを記述したもので、IP/非IPにかかわらず、汎用的に適用できるものであるが、マルチキャストやQoSなどIPTV特有の考慮が必要な点について触れられていないため、本会合ではIPTVに関して特に配慮が必要な事項を提案し、これらを追記した上で引用した。

ISO/IEC15045-2は、ISO/IEC15045-1と並んで汎用性に配慮したフレームワークであるが、構成としてモジュール構造を用いることを提唱している。また、モジュール間の連結はアプリケーション・レベルで行い、IPレベルでのブリッジは考慮されていない。ISO/IEC15045-2の構成でもIPTVに適用することは不可能ではないが、ホーム・ゲートウェイをルータ的な装置としてとらえているHGIの構成とは大きく異なっている。

このため、FG IPTVとしては、ISO/IEC15045-2に対して本質的な問題はないものの、IPTV関連のプロトコルの円滑な運用について配慮を求める返答を作成した。

IPTVのプロトコルのリストへのリンク
AVD number「AVD-3168」
http://ftp3.itu.ch/av-arch/avc-site/2005-2008/0712_Mal/0712_Mal.html

≪4≫20個の成果文書の一覧

今回の会合はFG IPTVとしての最終会合であり、すべての作業文書をFG IPTVとして承認することと、親SGであるSG13へ送付すること、の承認が求められた。一部の文書についてアーキテクチャ文書との整合に関する懸念が表明されたものの、最終プレナリ会合(全体会合)ですべての文書が承認され、SG13に送付された。今後は、SG13より関連SGに文書が転送され、勧告化などにむけて作業が継続される。

本会合では、成果文書とともに、SG13への申し送り事項として文書の完成度、関連文書との関連について記述したStatus Report(状況報告)が各文書ごとに作成された。

FG IPTVの成果物はDeliverable(配布可能)と呼ばれ、勧告としての効力はないが、作業の区切りとしてこれらの文書を出版することが合意された。これまでの作業文書は会合毎に内容が変更さるものであったが、1年半の活動の結果として一定のコンセンサスが得られた安定した文書となった。このため、それ自身を文書として活用することもできるし、今後の各標準化団体の検討において外部文書として引用することもできる。


表1 FG IPTVで作成した20個の成果文書一覧(クリックで拡大)
http://ftp3.itu.ch/av-arch/avc-site/2005-2008/0712_Mal/0712_Mal.html

≪5≫今後の予定

今回の会合をもって、FG(フォーカス・グループ)としての活動は完了し、次は各SGでの作業に移行する。

FG IPTV終了後の活動の場について、Question(SGの下部組織で会議の最小単位)による集中的な議論の場としてIPTV-GSIが構成され、ここでIPTVに関する集中的な議論を行うことになっている。

GSIは2008年中は活動を継続することになっており、最初の会合は2008年1月15日~22日にソウルで開催される。

【IPTV-GSIの今後のスケジュール】
・第1回 IPTV-GSI(2008年1月、韓国、ソウル)
SG15会合(2008年2月、スイス、ジュネーブ)】
・第2回 IPTV-GSI(2008年4-5月、スイス、ジュネーブ、SG16と共同開催)
・第3回 IPTV-GSI(2008年6月、スイス、ジュネーブ)
・第4回 IPTV-GSI(2008年9月、スイス、ジュネーブ、NGN-GSIと共同開催)
・第5回 IPTV-GSI(20008年12月、スイス、ジュネーブ、SG15と共同開催)
※SG15:光やその他の送受信ネットワークインフラを担当
※SG16:マルチメディアの端末やシステム、アプリケーションを担当

≪6≫FG IPTVの感想

FG IPTVは、組織の形態としては、これまでのITUの枠組みとは違った新しい仕組みであった。

IPTVは、NGNなどと同様に、関連する分野が広く、一つのSGに納まりきれないため、FG IPTVには、複数のSGが横断的に参加している。また、ITU-TのSGだと通信業界以外の参加者が期待できなかったり、リエゾンの関係上重要なパートナーと組めないといった問題もあり、FG IPTVの役割は広く意見を求めることができる。

ITUのルールをフレキシブルにして、幅広い関係者を集めながら、短期間で新しい技術の標準化をすすめるための組織が、今回のFGの役割であったが、今回のFGは勧告を作る新しい仕組みという意識で作業が進められたことも大きな特長であった。

現在、ようやく、勧告素案がまとまったところだが、今後、FGからGSIへの移行にあたっては、これまでの審議経過を十分理解したマネージメントの継承性が重要となる。

また、IPTVが勧告化されたとしても、それで終わりということではない。あくまでも、IPTVの標準化に向けた最初のステップが勧告であり、議論が尽くされていないテーマについては、今後ともSGやQuestion(SGの下部組織で会議の最小単位)、FGなどで議論する必要がある。このとき、今回のFG IPTVでのフレームワーク(枠組み)や文書を最大限活用することで、さらに発展的に標準化を進めることができるだろう。今後、FG IPTVで審議されたIPTV勧告草案が早期に勧告化され、NGNリリース2へ反映されることを強く望みたい。

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