≪2≫「ベンダからの脱皮」をはかるシスコシステムズの挑戦
■インターネットは、先進国では広く普及しユーザー数も飽和状態にありますね。そうした中で、従来の電話網の交換機が製造中止となりつつあり市場から消えていくため、そっくりルータを基本とするNGNに代わっていくのは、御社にとっても大きなビジネス・チャンスなのではありませんか。
篠浦 これまでのベンダと通信事業者の関係というのは、例えば電話網のインフラを敷設する際に、どのような設備を提供するかということが中心でした。インターネットのインフラに関しても同様です。当社は、インターネットの最初の普及期こそ主導的な役割を果たせたものの、最終的には通信事業者が主導する形に落ち着いてしまいました。しかし、NGNというのは、従来のような単純な通信サービスとは違います。例えば、放送と通信の融合も含めて、いろいろなサービスが、NGNの中に統合されていきます。このようなダイナミックなイノベーション(革新)を背景に、当社がNGNでやろうとしているのは、通信機器ベンダからの脱皮なのです。
当社がもともと描いているカンパニーのビジョンは、インターネットによって、生活や仕事の仕方、学び方、遊び方を変えることなのです。NGNの場合も、単純にインフラの設備を提供することだけが当社のミッションではないと考えています。
図3に示すように、NGNでは、テレプレゼンス(テレビ会議)や新しいコラボレーションの仕組み、電話と連携したサービスなど、従来のネットワークではできなかった新しいサービスを提供することができます。
■「通信機器ベンダからの脱皮」というのはとても新鮮ですが、一部の通信事業者では「通信事業者からの脱皮」というようなことを言っていますね。
篠浦 そういういうことをよく聞きますし、そのような時代を迎えていると思います。通信事業者は当社の非常に大きなお客様ですが、同時に新しいビジネスをつくるパートナーでもあります。NGNでは、インフラをどう構成するかという面がある一方、そのインフラを新しいサービスやビジネス・モデルのプラットフォームとしてどうとらえるかという面があります。
例えば、ある通信事業者の場合、NGNのインフラ面はとても整備されている。しかし、新しいビジネスのプラットフォームとして見たときに、インフラの革新と同等レベルに進んでいるかというと必ずしもそうではありません。NGNによって提供される新しいビジネスは、当然従来型のインフラ主体のビジネス・モデルとは大きく変わるわけですから、CapEx(Capital Expenditure、資本コスト)とOpEx(Operation Expenditure、運用コスト)の考え方も、変えていかなければなりません。
NGNで何がしたいかという立ち位置は、通信事業者によってまったく違うと思いますが、進んだ考え方を持っているところは通信事業者から脱皮して、NGN上でサービス・プロバイダーやエクスペリエンス・プロバイダーにもなろうとしているのです。
■進んだ考えの通信事業者は、通信事業から、サービス・プロバイダーへとビジネス・モデルを変えようとしているわけですね。
篠浦 そうです。ですから、通信機器ベンダである当社も従来のビジネス・モデルから脱皮しようとしているのです。つまり、サービス・プロバイダーとパートナーシップがとれるような会社になるにはどうしたらいいのかということです。そのためには、単純に、ネットワークに使用する通信機器の性能を追求するだけでなく、NGNという新しいネットワークの上でできる新しいビジネス・モデルを提案していくことが重要なのです。それが「通信機器ベンダからの脱皮」ということなのです。
>>「第2回 NGNで変わるコミュニケーションのスタイル 」へつづく