2015年7月24日、国立研究開発法人科学技術振興機構(以下:JST、東京都千代田区、理事長:中村道治)と慶應義塾大学(以下:慶應義塾大、東京都港区、塾長:清家篤)の滑川徹教授らは、電力自由化※1後の電力市場で、市場参加者の利益(個人合理性※2)を保証する分散型電力価格決定メカニズムを考案したことを発表した。
電力系統では、電力需給の不均衡が周波数変動などの電力品質の低下を引き起こすため、電力の需要量と供給量は厳密に一致させる必要がある。さらに、2016年に予定されている家庭向け電力小売自由化や2018~2020年に予定されている発送電分離後には、自身の利益のみを追求し、電力需要量や発電量を決めること(利己的な振る舞い)ができるようになる。そのため、利己的な振る舞いを電力需給のバランスを考慮した振る舞いへと誘導する方法をゲーム理論※3に基づいて考案された。
考案したメカニズムは、電力価格を変化させるプライシング(価格設定)によって、社会全体の公共利益が達成できることを示した。さらに、提案手法を電力網に適用した実験を行い、当初の目的である各需要家と供給者の利己的な振る舞いを公共利益へと誘導できることが証明された。この結果から、考案したメカニズムは、電力自由化に対応した安定な電力ネットワークの経済・制御モデルの構築に役立つことが期待される。今後は独立系統運用機関(ISO※4)が市場参加者へ支払うインセンティブのコストを考慮したアルゴリズムの検討を実施し、実用化に向けたさらなる研究を予定する。
同本研究は、NASAジェット推進研究所の小野 雅裕 研究員と共同で行ったものである。
※1 電力自由化:
電気事業において市場参入規制を緩和し、市場競争を導入すること。日本では2016年に家庭向け電力小売自由化が予定されており、さらに2018~2020年に発電部門と送電部門を独立の組織とすることが予定されている。
※2 個人合理性:
経済学の一分野であるメカニズムデザインで扱われる財の配分制度(メカニズム)の特性の一種。他のエージェント(市場参加者)が最適反応を用いた場合、メカニズムに参加したことにより利益が減少しないことを表す。
※3 ゲーム理論:
複数の意思決定主体が存在する状況で、他の主体の意思決定による自身の利害関係への影響を考慮しつつ、自身がどのように行動すべきかを理論化した学問。同研究では、各主体が独自に意思決定を行う純粋戦略非協力ゲーム問題を扱う。
※4 ISO:
独立系統運用機関(Independent System Operator)の略称。電力系統と電力市場の管理を行う非営利組織であり、本研究ではISOが各電力ネットワーク内の電力需給偏差情報に基づいて電力価格とインセンティブの更新を行う役割を担う。