写真1 ハノーバーメッセ2025の外観
出所 著者撮影
欧州が提唱した産業データ連携とは
〔1〕 インダストリー4.0
欧州における産業データ連携の取り組みは、ドイツ政府が産業界や学術界と連携して2010年代前半に策定・発表した「インダストリー4.0(Industrie 4.0)」注1に端を発する。インダストリー4.0(写真2参照)は、情報通信技術を活用して、産業における機械やプロセスを知能的かつネットワーク化された形で連携させることを目的とし、国内外の企業・研究機関とのアライアンスの構築や国際標準化活動を含む大規模な取り組みである。その狙いは、ドイツの産業競争力をグローバル市場において強化することにある。
写真2 ハノーバーメッセ2025の展示会場内の様子(Industrie 4.0のブース)
出所 著者撮影
〔2〕インダストリー4.0構想の4つの重要な概念
このインダストリー4.0構想の中核をなす重要な概念として、以下が挙げられる。
(1)CPS(Cyber Physical System):物理的な要素(例えば機器やセンサー)と情報技術システム(例えばネットワークや制御システム)を統合し、リアルタイムで相互作用するシステム。
(2)RAMI 4.0(Reference Architectural Model for Industrie 4.0):インダストリー4.0のための参照アーキテクチャモデル。
(3)Gaia-X:欧州主導による産業データエコシステム(「X」は"exchange"の意、以下同様)。
(4)Factory-X、Catena-X、Aerospace-Xなど:Gaia-Xの原則に従う、業界に特化したエコシム。Factory-Xは製造設備業界、Catena-Xは自動車業界、Aerospace-Xは航空業界向け。いずれも業界主導のコンソーシアムとしても展開。
これらの枠組みによって、産業分野における相互運用性の高いデータ連携と利活用が可能となり、新たな価値創出や産業革新が期待されている。
〔3〕政策面からの具体化:DPP/ESPR
こうした産業データ連携の流れは、政策面でも具体化されている。例えば、デジタルプロダクトパスポート(DPP:Digital Product Passport、デジタル製品パスポート)注2やバッテリーパスポートといった仕組みが、それぞれEUのエコデザイン規則(ESPR:Ecodesign for Sustainable Product Regulation)注3や電池規則(Battery Regulation、電池のライフサイクルを規定する法規制)の中ですでに制度化されている。
これらの「パスポート」は、サプライチェーン上の複数のサプライヤーから集約された製品に関するデータを電子的に統一フォーマットで記録・共有するものであり、まさに産業データ連携を前提とする仕組みである。特にバッテリーパスポート(図1)は、DPPの先行事例の1つと位置づけられており、2027年2月からの適用開始が予定されている。
図1 バッテリーパスポートの概念
出典:Battery Pass, The Value of the EU Battery Passport, Version 0.9, April 2024 を参考にして作成
CFP:Carbon Footprint、カーボンフットプリント。製品の温室効果ガス(GHG)の排出量
出所 著者作成
注1:インダストリー4.0:ドイツ政府は2020年に向けて産業界のハイテク戦略を推進するため、2012年3月に「ハイテク戦略2020行動計画」を承認。これに基づいて、工場分野では「スマートファクトリー」として、「Industrie 4.0(インダストリー4.0)」という国家戦略プロジェクトを策定し、推進している。「Industrie 4.0」とは、第1次(蒸気機関)、第2次(電力活用)、第3次(エレクトロニクス+IT)に次ぐ、第4次の産業革命として位置づけられ、今日も引き続き展開されている。
注2:DPP:デジタル技術によって、個別の製品に関するライフサイクル情報(材料調達からリサイクルまでの情報)を電子的に記録したデータのこと。
注3:ESPR:持続可能な製品のためのエコデザイン規則。EUが策定し2024年7月18日に発効した、従来のエコデザイン指令2009/125/ECを廃止して抜本的に改善した新規則。従来の指令で対象となっていたエネルギー関連製品を超えてほぼすべての製品を対象とし、「指令」から「規則」へと、より強い法規制とした。