国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は5月23日、東京都墨田区を中心としたエリアに、Wi-SUNのメッシュネットワークを構築し、そのネットワークを利用したサービスの実証実験を実施すると発表した。実験開始は6月の予定。
メッシュネットワークの構築にはアサヒ飲料の協力を得る。同社が墨田区内に設置している飲料自動販売機のうち、100台程度にWi-SUNの通信機能を持つルーターを設置し、Wi-SUNの多段通信(マルチホップ通信)の機能を応用して、地域を網の目(メッシュ)のようにカバーするメッシュネットワークを構築する。
NICTが設置するルーターはWi-SUNだけでなく、Bluetooth Low Energy(BLE)や無線LANの通信機能も備える。ルーターを設置した飲料自動販売機は、簡易的な無線LANアクセスポイントとなり、一般人もスマートフォンの通信などに利用できる。また、BLEの通信機能によって、BLEビーコン端末が発信する信号も受信可能になっている。
図 アサヒ飲料の飲料自動販売機。NICTがルーターを設置してメッシュネットワークを構築する
出所 国立研究開発法人情報通信研究機構
自動販売機に設置したルーターは、Wi-SUNの多段通信の機能を利用して、隣接するルーターにデータを受け渡す。これを繰り返すことで、クラウドにデータが集まる。NICTによるとWi-SUNの通信可能な距離は数100m程度。しかし、住宅地やオフィス街にある自動販売機にルーターを設置すると、ビルなどの障害物の影響を受ける。その結果、仕様よりも短い距離でしか通信できない事態が想定できる。
そこでNICTは、墨田区周辺をカバーする1つの巨大なメッシュネットワークを構築するという方法を避けた。それぞれのルーターが確実に通信できる小規模なメッシュネットワークをいくつか構築し、それぞれのメッシュネットワークの「親」となるルーターが携帯電話回線でほかのメッシュネットワークや、NICTのクラウドと通信するという構成を採ったのだ。
図 小規模なメッシュネットワークをいくつか作り、それぞれを携帯電話回線で接続した
出所 国立研究開発法人情報通信研究機構
ルーターは自動販売機だけでなく、アサヒ飲料が運用する自動販売機への飲料補充車両と、墨田区を中心的な営業エリアとする本所タクシーのタクシー車両にも設置する。Wi-SUNの多段通信で情報を送信し合うメッシュネットワークに、自動車も参加させるということだ。
このネットワークを構築して、NICTが今回検証するサービスは「人の動きを伝える」サービスだ。そのためにNICTはBLEビーコンとWi-SUNビーコンの両方を発信できる「つぶやきセンサー」を開発した。このセンサーは人が持ち歩くことを想定したもので、人感センサー、温湿度センサーと押しボタンを備えている。センサー値の変化やボタン操作をきっかけにビーコンの発信と停止ができるようになっている。
例えば高齢者に携帯してもらえば、加速度センサーが高齢者の歩行などの動きを検知してビーコンを発信する。また、児童がランドセルなどに取り付けて携帯することで、児童が走り出したことを加速度センサーが検知して、走り回っている児童が周囲にいるという情報を発信できる。
図 NICTが開発した「つぶやきセンサー」(右)。左側は児童のランドセルに取り付けたところ
出所 国立研究開発法人情報通信研究機構
NICTはこうして作った環境で2つの項目を検証する。1つ目は、業務用車両まで組み込んだメッシュネットワークのサービスエリアがどれほど広がるのかということの検証。単一のルーターでカバーできるエリアの広さと、メッシュネットワーク全体がカバーする広さを検証する。
2つ目は、つぶやきセンサーを利用したサービスがどれほど実用的であるのかの検証。捜索中の高齢者や、走り回っていて道路に飛び出す恐れがある児童の情報を「つぶやきセンサー」が発信するビーコンを自動販売機がとらえる。自動販売機は近くを走行する業務用車両にWi-SUNでその情報を通知し、注意を促す。さらに、自動販売機が提供する無線LANアクセスポイントの機能を利用して、このサービスを利用した人数や利用した自動販売機の位置から、タクシー利用者が集まると考えられる地点を分析し、その情報をタクシーに伝達する。
図 NICTが今回検証するサービスの全体的なイメージ
出所 国立研究開発法人情報通信研究機構
NICTは今後、引き続きアサヒ飲料の協力を得て、自動販売機へのルーター設置を進めていくとしている。さらに、構築したメッシュメットワークを活用して、地域の問題を解決するサービスを考案、開発し、実証実験を実施するとしている。