低温発電で高出力と信頼性を両立
株式会社日立製作所(以下、日立)は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を低温で高出力に発電するための技術を開発した。半導体製造で蓄積した技術を応用し、SOFCの動作温度を低下させながら、高出力と高信頼性を両立させたという。2025年7月10日に発表した。
図1 SOFCのプロトタイプの外観。複数の分割セルを内蔵したSOFCスタック(左)、内蔵SOFCセルの拡大図(右)
出所 PR TIMES 2025年7月11日、「低温で高出力発電を実現する次世代燃料電池技術を開発」
設置が難しかった場所への導入も容易に
SOFCは、水素やバイオ燃料など多様な燃料に対応でき、発電効率も高いことから、次世代の燃料電池の1つと考えられている。しかし、従来のSOFCは約700度という高温動作が必要であり、起動に時間がかかる点や分厚い断熱材が必要になる点から、設置場所や用途が限定されていた。SOFCの普及には、より低い温度で動作させる必要がある。低温化のためには発電に重要な電解質層を薄くしなければいけないが、それによって信頼性が低下する。
今回、開発した技術はSOFCを低温で高出力に発電するため、(1)セル分割および分割管理技術、(2)電解質層の均一化技術という2つの技術を活用する。
具体的には、半導体製造で培った技術を応用し、燃料電池のセルを細かく分割して管理し、セルごとの性能を評価することで、故障の可能性がある不良品を製造段階で除去する。これにより、電解質層を薄膜化しても故障リスクを抑制し、高い信頼性を維持する。さらに、製造プロセスにおける歩留まりも向上したという。
また、電解質層の厚みを均一に薄くすることで、膜厚が不均一な場合に発生しやすい電子の漏れ電流を抑制する。これにより、SOFCの動作温度を519℃まで低下させながら、1W/cm2を超える高い出力密度での発電を可能にした。
SOFCが低温で動作することで、高信頼化と長寿命化のほか、起動時間の短縮、断熱材使用量の削減やそれによるコスト低減が可能になるため、これまで設置が難しかった場所への導入も容易になるという。
日立は、同技術について、工場の自家発電や災害時の非常用電源、産業用分散電源や可搬型電源などへの適用を見込んでいる。今後は、SOFCの低温動作化や高出力化に向けた研究開発を続けながら、パートナー企業や補機メーカーと協業して商品化を進める。