国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2018年3月30日、風力発電施設や地熱発電施設の建設前に必要な「環境アセスメント」の期間を短縮する手法をまとめたガイドブックを公開した。NEDOが2014年度から取り組んできた「環境アセスメント調査早期実証事業」を通して得られた知見をまとめたものだ。NEDOは、今後風力発電施設や地熱発電施設の建設を検討している事業者が、このガイドブックを活用し、風力発電や地熱発電の導入が加速することを期待しているという。
これまで、風力発電施設や地熱発電施設の建設前に実施する環境アセスメントは、「配慮書手続」「方法書手続」「環境影響評価」「準備書手続」「評価書手続」の各手順を順番に実施していた。NEDOが今回公開したガイドブックでは、「配慮書手続」「方法書手続」に先立って「環境影響評価」を開始し、書類手続きを並行して進めるというものだ。NEDOは、従来の手順で環境アセスメントを進めると、完了までに3~4年かかるが、今回提案する手法を利用すれば、その期間をだいたい半分まで短縮できるとしている。
図 従来の環境アセスメントの手順(上)と、NEDOが今回提案した環境アセスメントの手順(下)
出所 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
書類手続きと環境影響評価を並行して進めることに法的な問題はないのかという疑問もあるかもしれない。この点についてNEDOは問題ないとしている。環境アセスメントの実施を定めている「環境影響評価法」によると、「方法書手続」で住民や知事の意見を集め、大臣の勧告を受けてから、環境影響評価の各種手法を選定して実施しなければならないとあるが、NEDOは「方法書手続の終了前から必要な調査を実施することや、既存の情報を活用して環境影響評価を進めることを制限しているわけではない」とし、「前倒しで実施した環境調査で得られた調査データが、方法書手続で選定した項目や手法と同等のものならば、これを利用して環境影響評価を進めることに法的な問題はない」としており、前倒しで環境影響評価を開始し、並行して書類手続きを進める手法には問題無いという解釈を示している。
ただし、NEDOが新たに提案した手法を活用すると問題が発生することがあるとも警告している。「方法書手続」で住民や知事の意見を集め、大臣の勧告を受ける段階で、追加調査が必要になると、前倒しで進めていた環境影響評価に「手戻り」が発生して、環境アセスメント完了までの期間が長くなってしまう恐れがあるのだ。NEDOが提案する新しい手法を利用する時はこの点に留意して、手戻りの可能性が大きい場合は従来の手法を利用するなど、柔軟な使い分けが必要だろう。
また、書類手続きに先立って環境影響調査を開始することで、地域住民に「事業ありき」「アセス軽視」「地元軽視」という悪いイメージを与えてしまう可能性もあるとしている。この点は、環境影響調査を開始する前に、地域住民に十分説明し、理解を得る必要があると言えるだろう。
一方で、環境影響調査を前倒しで進めるメリットをさらに挙げてもいる。前倒しで進めている環境影響調査の過程で判明してくることを、配慮書や方法書の作成に盛り込むことで、早い段階から環境を配慮したより良い事業計画を立てることができるというわけだ。
NEDOが今回公開したガイドブックは、風力編と地熱編の2編に分かれている。これは「風力発電と地熱発電では、事業特性や地域特性、事業の進め方や地域コミュニケーションのあり方が異なる」ためだという。これまで日本では、太陽光発電ばかりが普及して、風力発電や地熱発電の開発は遅々として進まなかった。今回NEDOが提案した環境アセスメントの新手法によって、風力発電と地熱発電の開発が本格化することを願いたい。