Q7:放送と通信・コンピュータ用語の違いは?
放送用語と通信・コンピュータ用語で、例えば放送では「チャンネル」、通信・コンピュータでは「チャネル」というように、似たような用語、あるいは同じ用語でも意味が違うものがありますが、混乱しないようにそれらの違いについて整理して教えてください。
≪1≫放送と通信・コンピュータ用語の違い
基本的に、それほど違う用語はないはずですが、それでも、次に述べるような特有の用語の使い分けがありますので、それぞれについて説明します(表1-3)。
[1]チャンネルとチャネル
身近に使用されている「チャンネル」と「チャネル」は、放送と通信・コンピュータ分野で比較的よく区別して使われます。もともと両者は英語のChannelからきていますので、基本的には日本語による表記の違いがあるだけです。
Channelの語源は、ラテン語の「水道管」の意味からきています。すなわち、狭いところに何かを注ぎ込むというイメージです。この意味から、放送分野では、「ある定められた狭い電波帯域に放送信号を流す」ことから「チャンネル」という用語を使用するようになりました。
一方、通信・コンピュータ分野では、情報を流し込む回路や伝送路(ネットワーク)の一部を指して、「チャネル」という用語を使用しています。表記の違いはあれ、基本的には同じ機能をもったものを指して使用されています。
[2]プロトコル
プロトコル(Protocol)という用語は、少し前までは放送では使われることはありませんでした。デジタル放送時代になってから、次第に放送分野でも使用されるようになってきています。
プロトコルとは「伝送(通信)規約」の意味ですが、通信・コンピュータ分野では非常に重要な概念です。つまり、基本的に多種多様な端末(コンピュータといってもよい)が存在する通信・コンピュータの環境では、端末同士が何らかの意味のある情報を交換するために、お互いの情報の伝送規約、すなわちプロトコルを遵守することが必須です。
一方、放送ではアナログ放送の時代には、均一な機能をもった受信機(テレビ受信機)を仮定していましたので、多種多様な情報伝送規約を考慮する必要はありませんでした。これに対して、デジタル放送時代では、さまざまな動画像や音声のフォーマットの存在やマルチメディア情報の存在などが引金となり、機能の異なったテレビ受像機(ノート・パソコンやモバイル端末など)が登場してきています。このような環境では、先に述べたような通信・コンピュータ分野のような多様な環境を考える必要があり、そのために、プロトコルという用語が使われるようになってきていると解釈できます。
[3]プログラム
プログラム(Program)という用語は、放送分野と通信・コンピュータ分野では、まったく違った意味で使用されています。
放送分野においては、プログラムは、「(テレビ)番組」のことを指しますし、通信・コンピュータ分野においては、いわゆるコンピュータ言語(例えばC言語やJavaなど)で書かれた、「コンピュータへの命令の集合体のこと」を指します。もともとの語源は、ギリシャ語で「公に書かれたもの」の意味で、両者ともイメージは一緒と言えます。
[4]イベント
イベント(Event)も、放送分野と通信・コンピュータ分野では、まったく違った意味で使用されています。放送分野において、「イベント」はプログラムと同様に「番組」のことを指していますが(すなわち、「イベント」と「プログラム」との違いはない)、通信・コンピュータ分野においては、ハードウェアあるいはソフトウェアが自分自身の状態の変化を、他のハードウェアあるいはソフトウェアに通知することを指しています。
しかし、後者の意味のイベントは放送関係の技術書にもしばしば出現しますので、場合によってどちらの意味を指しているか見極めることが必要です。もともとは、ラテン語で「成り行き」という意味です。
※この「Q&Aで学ぶ基礎技術:デジタル放送編」は、著者の承諾を得て、好評発売中の「改訂版 デジタル放送教科書(上)」の第1章に最新情報を加えて一部修正し、転載したものです。ご了承ください。