Q8:インターネット放送とデジタル放送との違いは?
インターネット放送とデジタル放送は、似たもののように思えますが、どこが違うのでしょうか?また、デジタル放送とブロードバンド(高速大容量)・ネットワークとの関係はどのようなものですか?
≪1≫インターネット放送もデジタル放送の一部
結論から言うと、インターネット放送もデジタル放送の一部であると考えられます。つまり、インターネット放送とデジタル放送が異なるのは、単に伝送路が違うだけであるということです。IPネットワークを利用するデジタル放送はインターネット放送と呼ばれ、電波などを利用するデジタル放送はいわゆるデジタル放送と呼ばれるに過ぎないということです。
[1]家庭でも100Mbpsの回線容量が可能な時代へ
ブロードバンド(高速大容量)・インターネット時代を迎え、家庭にも高速のインターネット回線をかなり安い値段で、引くことができるようになりました。例えば、最も普及しているブロードバンド回線であるADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line、非対称デジタル加入者線)を利用すれば、下り47Mbpsの回線容量を得ることも可能になってきました。最近では、光ファイバを利用(FTTH:Fiber To The Home、家庭まで光ファイバーを引いてインターネット通信を行う方式)して、100Mbpsのブロードバンドが広く普及しはじめています。
つまり、SDTV(一般家庭のテレビ)をMPEG-2で伝送することを考えると、通常6Mbpsを必要としますので、伝送容量だけを考えればあまり問題はありません。言い換えると、現在のデジタル放送と同じ品質の動画像と音声を、インターネット経由で受けることも可能になってきていると言えるのです。
[2]サービス品質の問題
しかし、本当にそうでしょうか? 末端への回線速度が47Mbpsあるといっても、送信側から受信側まで、その回線品質が放送のように一定して保証されているわけではありません。また、それがインターネットの特徴でもあります。つまり、高品質なデジタル放送を受信するためには、リアルタイムで情報を受け取る必要があり、送信側から受信側までのすべての回線品質が保証されている必要があります。そうでないと、情報の受信が連続的でなく間欠的(映像がとぎれとぎれになる)になる可能性があり、これでは放送品質に及ぶことはできません。このような問題をQoS(Quality of Service、サービス品質)保証問題と呼んでおり、現在活発に研究されている分野の一つです。
とはいえ、数百kbps程度の動画像と音声情報であれば、これらのインターネット回線を使っても十分に送り届けることは可能です。実際、最近ではインターネットを利用して音声を送受信する、IP電話と呼ばれるサービスが、各社から活発に提供されています。もっとも、IP電話に必要な帯域幅は約10kbpsあるいはそれ以下ですから、動画像を送るよりは条件は楽になっています。しかし少し前までは、このようなIP電話も帯域やQoSの問題から、なかなか実現が難しい技術だったのです。
このようなことから考えてみますと、近い将来、インターネット放送とデジタル放送の区別はほとんどなくなるように思われます(図1-8)。つまり、インターネットを伝送媒体として利用する放送を単にインターネット放送と呼び、旧来のように電波などを伝送媒体として利用する放送がいわゆるデジタル放送と呼ばれるというぐらいの差しかないということになるでしょう。
アナログ放送の時代は、放送は特別なサービスでした。つまり、放送で送信されている情報量を伝送できる媒体は電波しかなく、放送を受信できる端末もテレビ受像機しかありませんでした。しかし、デジタル放送時代になって、ブロードバンド化が進むなど、伝送媒体も技術の進歩によって多様化し、テレビ受像機以外(パソコンや携帯端末など)に放送を受信できる機器も誕生しています。つまり、デジタル放送は、技術的には特別なサービスではないのです。本書を通して読んでいただくと、このことを理解していただけると思います。
※この「Q&Aで学ぶ基礎技術:デジタル放送編」は、著者の承諾を得て、好評発売中の「改訂版 デジタル放送教科書(上)」の第1章に最新情報を加えて一部修正し、転載したものです。ご了承ください。