≪1≫H.264/SVC標準とは?
H.264/SVCは、正式には「H.264/AVC Annex G」と呼ばれる、2007年11月にITU-TとISO/IECによって標準化された最新の映像符号化標準規格です。これは「H.264/AVC」の名前があるとおり、2003年5月に初版が発行された画像圧縮の国際標準の「H.264/AVC」規格を拡張したものです。
H.264/AVCシリーズには、このほかにも2009年初めに標準化が予定されている「H.264/MVC (Multiview Video Coding、多視点映像符号化)」(正式名 H.264/AVC Annex H)がありますが、ここでは、SVC(Scalable Video Coding)を解説します。
SVCの「Scalable」と言う用語は日本語になじみにくい言葉ですが、あえていうと「それなりに」(つまり「受信機の解像度やネットワーク環境に応じて自在に適応できる」)というような感じの意味です。
このSVCによって、HD(ハイビジョン)のようなディスプレイをもつ大がかりな受信・再生装置から、携帯電話といった小型画面の端末までというように、受信側の端末の性能(ディスプレイの解像度等)や利用できる回線の帯域が多様であっても、送信側から提供される同一の映像ソース配信に対応できる(受信側で解像度に応じてそれなりに受信できる)ため、画期的な映像符号化規格と言うことができます。
その理由は、送信側で一度、動画の符号化を行って配信(例え高品質の映像符号化であっても)してしまえば、あとは受信側がSVCを用いて自分(端末)の再生能力に応じてさまざまな仕様(解像度)で動画を再生することが可能になるからです。
これまで、ITU-Tで標準化されてきたH.261~H.264/AVCまでの映像符号化(映像圧縮)規格や、ISO/IECで標準化されてきたMPEG-1~MPEG-4 Part 10(AVC)までの映像符号化規格には、次の2つの制約があります。
(1)<メリット>:映像のデータ・ストリームを受信側(受信機)が100%受取り、100%再生に利用することが前提になっていること。
<デメリット>:ネットワーク品質が不安定な場合、実質的に映像の不具合が生じやすくなる。
(2)<メリット>:配信側から受信側に流れる映像データの精細度やフレーム・レートなどの仕様は、接続直後から切断直前まで変わらないこと。
<デメリット>:同一の映像ソース配信を多様な受信機で行おうとすると、構成が複雑になる。
新しいH.264/SVC規格では、配信側から届けられる映像データ・ストリームの一部だけを受信側が取り出しても、「それなりに」動画の再生ができるように仕組みを変えました。
この結果、次のようなことが可能になりました。
(1)データの一部だけを取り出しても受信側が再生できるようになったため、必ずしも100%のデータを受信することが必須というわけではなくなりました。
(2)配信側は、受信者側の状態に関わらず映像ストリームを配信できるため、受信者側で受信可能なデータ仕様(ビットレートとそれに応じた画像サイズなど)の変更があっても通信セッション(接続関係)の張りなおしという手段は必要ではなく、受信側の独断で随時行うことができるようになりました。
このように、ネットワークを含む再生環境が多様(端末の性能やネットワークの伝送速度が多様であること)であっても、シンプルでその環境に適応した映像配信システムを構築しやすくなる、ということがH.264/SVCのメリットです。
次に、H.264/SVCのメリットを、具体例を挙げて詳しく説明しましょう。