Q17:日本の携帯電話向け放送サービスはH.264/AVCに決まったのですか?
日本の携帯電話向け放送サービスはH.264/AVCに決まったのですか?
第3世代(3G)を基本とする携帯電話で受信する地上デジタル放送(1セグメント放送)の画像圧縮技術には、MPEG-4とH.264/AVCの両方が予定されていましたが、結果として、H.264/AVC規格が採用されたと聞きますが……。
≪1≫携帯受信端末向けデジタル放送サービス「ワンセグ」
日本のデジタル放送規格は、基本的な部分は総務省の情報通信審議会答申の形で出され、必要な事項は法、省令、告示の改正に反映されます。さらに細部は、前述した電波産業会(ARIB)の標準規格あるいは運用規定として標準化されます。
デジタル放送に用いる動画像圧縮符号化、音声圧縮符号化、多重化方式は、標準規格ARIB STD-B32「デジタル放送における映像符号化、音声符号化及び多重化方式(2001年5月31日制定。最新版は2007年3月14日付け改定の2.1版)」に定められています。ここには、MPEG-4 Part 2の他にH.264/AVCが、2004年2月の改版に加えられました。このSTD-B32は、日本の放送に使用可能な圧縮符号化ツールのセットを定めていて、そこに記された圧縮符号化方式のすべてを実装しなければならない、という性格のものではありません。
また、ARIB STD-B24「デジタル放送におけるデータ放送符号化方式と伝送方式(1999年10月26日制定。最新版は2007年3月14日改定の5.1版)」には、MPEG-4ビジュアルに加えて、地上デジタル放送による移動・携帯受信端末向けのサービス「ワンセグ」(2006年4月1日からサービス開始)に適した、高圧縮率の「H.264|MPEG-4 AVC(本稿では「H.264/AVC」と表現)」が追加されています。当初、「1セグメント放送」とも呼ばれていましたが、2005年9月27日に正式なサービス名が「ワンセグ」と発表されました。
地上デジタル放送の携帯形受信機向けの放送サービス(ワンセグ。コラム?参照、p.33)に、どの動画像圧縮符号化を用いるかは、放送事業者の合意による運用規定ARIB TR-B14「地上デジタルテレビジョン放送運用規定」で定められました。
≪2≫「ワンセグ」にH.264/AVCを採用
電波の帯域を有効に使うために、効率の高い動画像圧縮符号化が必要なのはもちろんのことですが、実際の運用に際しては、標準に係わるIPR(Intellectual Property Right、知的財産権)問題の処理が必要です。
標準は皆のためのものではありますが、最新の技術を採り入れているため、その技術は特許で保護されているのが普通です。標準化機関では、標準を実施するために必須な技術に関する特許(一例をあげると、双方向フレーム間動き補償予測)は、無料で使用許諾するか、あるいは妥当な条件と価格ではあるが無差別に(相手を選ぶことなく)使用許諾することを条件に、その技術を採用しています。しかし、具体的な使用許諾条件とその価格は利用者と権利者の交渉に委ねられています。この交渉状況が、「ワンセグ」に関する運用規定の制定に反映されます。
地上デジタル・テレビ放送については、日本では、すでに2003年12月1日から東京、大阪、名古屋を皮切りに順次本放送が開始されています(2010年末から全世帯で視聴可能)が、去る2004年3月24日、日本放送協会(NHK)と在京民放5社(日本テレビ、東京放送、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)は、「ワンセグ」サービス対応のPDA(小型携帯情報端末)や携帯電話などの携帯端末向け画像フォーマットを「AVC/H.264」にすることを決定したと発表しました。
この結果、2006年4月1日から、携帯端末向けの地上デジタル放送サービスが実現し、「AVC/H.264」は大きく前進しました。この背景には、携帯端末向けの画像圧縮符号化技術として検討してきた「AVC/H.264」の必須特許を管理するMPEG LA(MPEG Licensing Administrator、MPEG特許管理組織)」)との間で、放送で使用する場合の特許条件が解決し、基本合意に達したためです。
※この「Q&Aで学ぶ基礎技術:最新の情報圧縮技術〔H.264/AVC〕編」は、著者の承諾を得て、好評発売中の「改訂版 H.264/AVC教科書」の第1章に最新情報を加えて一部修正し、転載したものです。ご了承ください。