≪2≫NHKオンデマンドと番組の著作権処理
〔1〕権利者団体との交渉
■ 番組に関する著作権などの権利関係のクリアも大変だったのではないでしょうか。

木田実氏
(NHKオンデマンド室 室長)
木田 たしかに、放送番組をネット(インターネット)配信するための著作権処理は大変でしたが、1年半以上も権利者団体と地道に交渉を続け、ある程度のルールを作ることができました(図3)。交渉した権利者団体は、日本音楽事業者協会や俳優協会をはじめ、JASRAC(社団法人日本音楽著作権協会)や日脚連(協同組合日本脚本家連盟)など多岐にわたります。権利者団体の方々も時代の変化は理解しておられて、「放送だけじゃなく、コンテンツとして販売し、過去の良い番組をいつでも視聴できるのは日本の文化にとってもいいことだろう」とご協力いただくことができました。
こうして「技術的な問題」「法律の問題」「権利の問題」をすべてクリアすることで「NHKオンデマンド」サービスを開始できたのです。サービス開始日の12月1日は、くしくも2003年に3大都市圏(東京・大阪・名古屋)で、2006年にその他の地域でデジタル放送がスタートした「デジタル放送の日」とでも言うべき記念の日です。日本のデジタル事業はすべて「12月1日」から、始まるということです。
〔2〕著作権クリアのための具体的作業
■ 著作権のクリアに際しては、具体的にどういった作業を行うのですか。
木田 今、NHKオンデマンドが提供しているサービスは大きく分けて、
(1)「見逃し番組」(随時更新)
(2)「特選ライブラリー」(週1回更新)
の2つがあります。これらは、それぞれ権利の処理の仕方が違います。
(1)見逃し番組の著作権処理の場合
見逃し番組とは、月額1470円を支払う(通常のカラーの地上波の受信料2ヵ月分2690円とは別)と、現在放映している番組を、放送のすぐ翌日から1週間(見逃し番組の提供開始から1週間)ネットで好きなだけ視聴できるという、見放題のサービスです。特選ライブラリーは過去のNHKの番組を1本105円~315円など単品で購入して見られるものです(図4)。
見逃し番組の場合、翌日すぐの配信のため、放送後に許諾を得るのでは間に合いません。そのため、番組を制作する際に、あらかじめネット配信の許諾も取っておく作業が必要となります。
(2)特選ライブラリーの著作権処理の場合
次に、特選ライブラリーです。これは過去のNHKの番組を視聴できるようにするものですが、この権利処理は非常に大変です。昔の番組ですから、まずはエンドテロップ(番組終了後に流れる文字タイトル)を見て、出演している役者さんや脚本家など関係者をすべてチェックします。それから1人ずつ順番にお電話をしてネット配信の許諾を取っていくのです。特選ライブラリーは関連会社のNHKエンタープライズで権利処理を行っているのですが、現在、朝から晩までフル稼働です。
すでに出演者が亡くなられている場合もあります。そういう場合、ドキュメンタリーものであればご遺族を探して許諾を得なければなりません。とにかく、日本の著作権法上では、1人でも反対があったら、もう配信できないのです。たとえば俳優さんに「私は若い頃は演技が下手だったから、そんなものを流されては困る」「せっかく私はイメージを変えたのに、昔のイメージの番組なんかやらないで」などと言われてしまったら、残念ながらお蔵入りになってしまうのです。