[特集]

中国の最新インターネット事情(5):インターネットの環境と利用者像

2009/02/16
(月)
陶 一智

中国では、急速な経済成長を背景に、すでに携帯電話利用者は5億人を超え、さらにインターネット利用者数は、2008年6月末で2億5千300万人に達しています。これは、2億1千500万の米国を超えて、世界第1位の数字です。この連載では、中国のインターネットの歴史や特徴、社会に与える影響など、最新の情報に焦点を当てます。
これまでの連載では、中国のインターネットの歴史や構造、そして、その現状について、ネット側に焦点を当てて説明してきました。5回目の今回は、インターネットの利用場所や利用目的という利用者側の特徴について、説明していくことにしましょう。

北京オリンピック開催記念連載! 第5回

≪1≫どこで利用しているのか?

〔1〕中国ではネットカフェでの利用が多い

ここでは、定量的に、日本での利用と比較しておきましょう。図1は、中国互聯網信息中心CCNIC(the China Internet Network Information Center)の2008年7月のレポート[1]と日本のYahooが行った2008年4月の調査結果[2]を比較したものです。これらは、どこからインターネットを利用しているかについて調査したものです(複数回答が可能)。


図1 インターネットの利用場所(クリックで拡大)


別々に行われたアンケートを比較しているので、中国のインターネット利用者の半数が25歳以下という対象者のサンプルの違いを考慮しなければなりませんが(例えば、日本では職場が多く、中国では学校の割合が多い)、最も特徴的なのは、中国でネットカフェが非常に多く利用されているということです。日本ではわずか5%程度の人しか使っていませんが、中国では40%ほどの人が利用しています。

この連載の第2回(http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20080926/688)のコラムでも、インターネットカフェについて紹介しましたが、中国では、ネットカフェのことをワンバー(网吧)と呼びます。网は日本の漢字では“網”で、ネットを意味します。吧は、日本でも使う英語のバー(bar)の意味です。中国では、2008年11月には利用者数が前年の40%の割合で増加しているのですが、ネットカフェの利用者数も、ほぼ同じ4割程度の割合で増加しています。個人でパソコンを買えない人や旅行者にとっては、ネットカフェがメールやインターネットにアクセスする頼みの綱となります。しかし、利用者の多くは、ネットでゲームやチャットがしたい学生や社会人です。

〔2〕ネットカフェの利用料は716円/月

ネットカフェの利用者は、1ヵ月当たり平均44.8元(716.8円)を使っています。中国ではネットカフェに入る時に、前金(中国語では“押金”)として10元程度を払い、出る時に、利用時間に応じた利用料金を引いた残額を返す、あるいは、超過料金を払うというシステムになっています。1時間当たりの利用料金には、かなり幅がありますが、およそ2~3元程度です。ネットカフェは大学のまわりにたくさんあり、利用する人も学生が多いのですが、ここでワードやエクセルを使うわけではありません。目的は、ネットゲームやチャットで遊ぶことなのです。映画やテレビを見たり、音楽を聞く人もいます。つまり、学生にとってネットカフェは、娯楽を楽しむ場所となっています。

〔3〕ネットカフェ向きパソコンで楽しむ

日本では、ゲームというとゲームマシンやパソコンゲームを一人で遊ぶことが多いのですが、中国では、ネットゲーム(中国語では、“網絡遊戯”または“網遊”)で大勢と対戦して楽しむということが好まれています。設置されているパソコンは、ネットカフェ向きパソコンという、日本やアメリカにはないカテゴリーの製品で、3Dのオンラインゲームを大きな画面で快適に楽しめるハイスペックが売りになっています。これに、ビデオチャットのためのウェブカメラや、映画、音楽、チャット、騒々しいゲームなどを楽しむためのヘッドフォンが設置してあります。

〔4〕中国のネットカフェ数は12万店舗

新華社(中国の国営通信機関)によると、ネットカフェの数は2007年で12万店舗ほどであり、一方日本では日本複合カフェ協会(http://www.jcca.ne.jp/kameiten.php)の加盟店舗数が現在約1400店舗となっています。中国のインターネット利用者の総数も最近では2億を超えていますが、これを考慮したとしても中国のネットカフェの数の多さが想像できることと思います。

≪2≫インターネットの平均的な利用者像

〔1〕第1位は自宅での利用

先に、ネットカフェからの利用が中国のインターネットユーザーの特徴であると述べましたが、それでも、図1に示したように、全体の74.1%の人が自宅でインターネットを使っています。資料[1]によると、インターネットをアクセスできるデスクトップとノートパソコンの台数は合計で8470万台にまで増大しています。また、家庭からインターネットをアクセスするための通信料金には、平均で月額77元(1232円)を支払っています。使い放題のADSLサービスは1Mbpsで月額200元、512kbpsで月額120元、上限時間付きADSLの場合、1時間当たり約1元程度かかりますから、この通信料金は、ADSLのような常時接続だけでなく、電話とモデムによるダイヤルアップも含めた平均時間と考えたほうがよさそうです。また、近所まで引いた1本のADSLを、スイッチで分けて使うなどの節約方法を使用している人もいます。

〔2〕パソコンは家庭用、ビジネス用、ネットカフェ用の3つのカテゴリー

パソコンは日本と同じく、街の大手家電量販店などで買ってきます。以前は安価なショップブランドが幅をきかせていましたが、最近では、メーカーブランドのパソコンでも、家庭用に1500元から3000元程度の低価格のものが出現しています。大手メーカーとして、聯想(レノボ)、方正科技、清華同方、TCL電脳、神舟電脳、新藍科技、長城、ハイアール、アモイなどがあります。大手の数が多すぎるように思われるかもしれませんが、これでもパソコンの普及とともに、メーカーの数は以前よりも減ってきています。これらのメーカーは、家庭用、ビジネス用、そして、ネットカフェ用という3つのカテゴリーに分けて製品をそろえています。

写真1は、蘇寧電器(http://www.cnsuning.com/)の販売店で、浙江省方面で有数の家電量販店チェーンです。写真2は、そのパソコン売り場の様子で、日本の家電販売店とあまり変わりません。


写真1 大手家電量販店の蘇寧電器



写真2 パソコン売り場


〔3〕インターネットの平均的なネット利用時間は19時間/週

資料[1]によると、中国のインターネット利用者の平均的なネット利用時間は1週間当たり19時間となっています。この数字は、資料[3]による2007年11月付けの日本での調査が18時間30分ですので、他の国と同じ傾向であると言えるでしょう。利用時間ごとの利用者数分布を図2に示します。この図2では、40時間以上、すなわち、1日当たり5時間以上利用している人が16%もいることに驚かされます。最近、中国では、このように毎日長時間をオンラインゲームで過ごす人がネット依存症として問題となっています。特に、高校生などの若者への影響が心配されているところです。


図2 インターネットの利用時間の分布(クリックで拡大)


インターネットの利用者の年齢別構成を図3に示します。これは、中国の資料[4]と日本の資料[5]を比較したものです。日本と異なり、中国では若い世代の割合が圧倒的に高いことがわかります。このため、インターネットとパソコンの利用目的や価値にも違いが出てきます。ネットカフェの利用やオンラインゲームの利用が目立つというところも、このような年齢構成の差から生まれると考えられます。


図3 インターネット利用者の年齢構成(クリックで拡大)


そこで、次回は、インターネットとパソコンがどのような目的に利用されているのかを説明することにします。

【資料】

[1]Statistical Survey Report on the Internet Development in China (July 2008)
http://www.cnnic.net.cn/uploadfiles/pdf/2008/8/15/145744.pdf

[2]http://docs.yahoo.co.jp/info/research/wua/200804/page7.html

[3]Nielsen Online NetView 家庭からのアクセスデータ 2008年1月

[4]第23次中国互換網発展状況統計報(中文、PDF)
http://www.cnnic.net.cn/uploadfiles/pdf/2009/1/13/92458.pdf

[5]インターネット白書2007

プロフィール

陶一智(とう・いちち)

7年前に来日し、2006年に法政大学ビジネススクールにおいてMBA(経営学修士号)を取得。
現在、株式会社TERMONYのインターネットビジネス事業部代表として、女性のためのウィッグ販売サイトhttp://www.igennki.comのオペレーションを行っている。

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