≪1≫中国のインターネット利用の特徴
中国でのインターネット利用の特徴は、以下の3つにまとめられます。
(1)音楽や動画の利用がダントツである点
(2)インスタントメッセンジャーを非常によく利用するという点
(3)オンラインゲームの利用者が多い点
なお、(2)のインスタントメッセンジャー用のソフトウェアは、中国で開発された騰訊(テンセント)社のQQが主に使われています。おもしろいことに、メールの利用率よりもインスタントメッセンジャーの利用率のほうが高いのです。この特徴については後ほど詳しく取り上げることにし、まずは、インターネット利用者の何パーセントがそれぞれのアプリケーションを使っているのかという概要を説明しておきましょう。
表1に、中国での調査結果を示します。また、比較のために、表2に日本のアプリケーションの利用率を示します。
アプリケーション | 利用率 |
---|---|
ネット音楽 | 85.5% |
ニュース | 78.7% |
インスタントメッセンジャー | 72.2% |
検索エンジン | 69.4% |
ネット動画 | 65.8% |
オンラインゲーム | 64.2% |
メール | 55.4% |
ブログ | 53.8% |
掲示板 | 30.4% |
ネットショッピング | 26.0% |
ネットバンキング | 22.4% |
株 | 10.4% |
旅行予約 | 4.1% |
アプリケーション | 利用率 |
---|---|
Webやブログの閲覧 | 56.8% |
電子メール | 49.1% |
ネットショッピング | 45.5% |
地図情報 | 36.8% |
ネット音楽や動画 | 19.4% |
オークション | 18.1% |
掲示板 | 13.0% |
ネットバンキング、ネット株 | 12.6% |
P2P | 9.0% |
オンラインゲーム | 8.2% |
SNS | 5.1% |
≪2≫ネット音楽とネット動画の利用率は85.5%と65.8%
表1と表2とでは調査の項目が異なり、直接比較できないのですが、中国ではネット音楽とネット動画がそれぞれ85.5%と65.8%の人が利用して順位も1位と4位であるのに対し、日本のネット音楽と動画の項目では利用率が19.4%程度で順位も後のほうであることがわかります。これには、利用者側の要因と配信をする側の要因とがあると考えられます。
利用者側の要因は、インターネット利用者の年齢の偏りです。前回(第5回)の図3に示したように、インターネットの利用者の年齢は20歳以下や20歳から30歳以下までが圧倒的に多いのです。つまり、インターネットの利用を始めたのが2000年ころの学生時代であった人から、現在学生であるという人までの間の若年層です。パソコンや携帯に音楽をダウンロードし、歩きながら、あるいは通勤途中で楽しむのが、中国に限らず世界の若者の特徴です。ですから、この世代の利用者が多い中国のインターネットでは、ネット音楽の利用が非常に多いということになります。北京や上海のような大都市では通勤時間が長いので、ダウンロードした音楽をiPodや携帯電話、その他の携帯音楽プレーヤーで聞きながら通勤する姿が多く見られます。
配信をする側の要因は、検索エンジンが独自の音楽専用の検索機能を提供していることや、多くの音楽配信サイトの存在です。例えば、図1は、中国No.1のシェアを誇る検索エンジン百度(バイドゥ)のトップページですが、そこにMP3という項目があることがわかります。これをクリックすると、図2に示す音楽専用ページへ移動し、音楽の検索やダウンロードができます。このサービスを2002年11月にスタートしてからあっという間に、百度はGoogleのシェアを追い抜きました。
≪3≫中国のサイトの特徴は「情報の豊富さ」重視
表3に主要な音楽配信サイトを示しておきます。これらはほんの一部で、ネット上には無数の音楽配信サイトがあるのが現状です。これらの音楽配信サイトでも、検索サイトと同じく、歌手や音楽のタイトルなどで検索し、簡単に聞きたい音楽が見つけることのできる検索機能が用意されています。
サイトの名前 | URL |
---|---|
qq163音楽網 | http://www.qq163.com/ |
YYMP3 | http://www.yymp3.com/ |
愛聴音楽 | http://www.aiting.com/ |
図3は、代表的な音楽配信サイトであるqq163音楽網のトップページです。小さな字で、たくさんの情報が詰め込んであるのがおわかりになると思います。これは、図2の百度の音楽検索ページも同じです。
このように、中国のWebページのデザインの特徴の1つは、1つのページ内に読みきれないほどの多くの情報を細かい字で詰め込む傾向があることです。音楽のページだけでなく、ニュースのページ(例えば、代表的な新浪新聞:http://news.sina.com.cn/)を見ても同様であることがわかります。スクロールしないとページ全体が見えないことも珍しくありません。これは、中国では読みやすさより、情報の豊富さが重視されているからです。細かい字で、行間は狭く、余白がなくなるほどにたくさんの情報を詰め込みます。また、画面をカテゴリー別に細分化されたブロックの集合として構成しておくことによって、カテゴリーをわかりやすくし、利用者が所望の情報を発見しやすいようにしておきます。利用者の多くの若年層にとってはこれでかまいませんが、年齢層が高くなるにつれて見るのが辛いものになります。
一方、日本では、1ページ当たりの情報量よりも読みやすさや探しやすさのほうが優先されています。比較的大きな字で書かれ、探しやすいように意図的に空白を入れたり、表示する情報を絞ったりしています。それは、年齢にかかわりなくインターネットの利用率が高いので、視力の落ちた人にも読めるようにするという配慮や、すぐに所望の項目を探せるわかりやすさが、デザインとして優先されているからではないでしょうか。いずれにしても、好みがずいぶん違うということがわかります。
≪4≫インターネット利用と著作権問題
[1]年々増える著作権保護に関する法規制
音楽を気軽にダウンロードできるシステムが提供されているという利便性の一方で、そのシステムが提供する著作物の権利の問題が発生しています。つまり、著作権者に許諾されていないコンテンツが公開されているという問題です。これは、知的財産権が無形の財産であると認められてまだ20年の歴史しかない[3]こと、可処分所得が低い学生などの若年層にインターネット利用者が多いことなどが原因として考えられます。これに対して、著作権保護のための法規が年々強化されています[4]。これを表4にまとめました。
実施年月 | イベント |
---|---|
1991年6月 | 中華人民共和国著作権法の施行 |
1992年10月 | ベルヌ条約に加盟 |
2001年10月 | 中華人民共和国著作権法の改正法を施行(第一回改正) |
2001年12月 | WTO加盟 |
2005年4月 | “互联网著作権行政保護弁法”(インターネット著作権行政保護弁法)の公布 |
2006年7月 | “信息网絡伝播権保護条例”(情報ネットワーク伝播権保護条例)の施行 |
2007年6月 | 著作権に新たな権利として公衆へのネットワークを通じた伝播権を与えるWIPO著作権条約、WIPO実演・レコード条約に調印 |
2009年9月 | “関于加強和改進網絡音楽内容審査工作的通知”(ネット音楽の内容審査作業の強化と改善に関する通知)の広告 |
2010年4月 | 中華人民共和国著作権法の改正法を施行(第二回改正) |
中国では1991年6月に“中華人民共和国著作権法”が施行されました。また、1992年10月には文学的および美術的著作物の保護に関するベルヌ条約に加盟しています。そして、2001年のWTO加盟を契機として、知的財産権保護が強化されてきました。例えば、加盟直前の2001年10月には、それまでの国内著作別と外国著作物の保護水準が違うという問題を解消するため、第一回の著作権法改正が行われました。この中では、有線または無線により作品を公衆に提供し、公衆が所望の時間や地点で作品を入手できるという排他的権利“情報ネットワーク伝播権”も規定されました。また、権利者の承諾なしにDRM(Digital Rights Management、デジタル著作権管理)のための保護機構を回避または破壊する行為が違法であることも規定されています。
その後、2006年7月1日より施行された“信息网絡伝播権保護条例”(情報ネットワーク伝播権保護条例)では、ネットへのアップロードやダウンロードには著作権者の承諾が必要となり、音楽検索サービス提供者は、音楽の権利者が侵害と認めたコンテンツへのリンクを削除しなければならなくなりました。これは、著作権法における公正利用の規定をネットワークまでカバーするようにしたものです。また、2009年9月3日には、中国政府文化部が“関于加強和改進網絡音楽内容審査工作的通知”(ネット音楽の内容審査作業の強化と改善に関する通知)という通知広告(http://www.ccnt.gov.cn/xxfb/xwzx/whxw/200909/t20090903_73041.html)を出し、ネット上の音楽コンテンツ審査の強化と改善を打ち出しました。
2010年4月には著作権法の第二次改正法が施行されました。これは、WTO(世界貿易機関)が中国に与えている著作権保護の移行期間が2008年に終了したこともあり、総仕上げともいえるものです。これまで海賊版のような違法な作品には著作権が認められてこなかったために、かえって取り締まりが行えなかった点を改善し、“著作権者が著作権を行使する場合、憲法と法律に違反してはならず、公共の利益を害してはならない。著作物の出版、頒布に対して、国は法に基づき監督管理を行う。”と改めました。また、“著作権に質権が設定された場合、質権設定者と質権者は国務院著作権行政管理部門で質権登記を行わなければならない。”ことが追加されました。
[2]増えるサイト提供者への訴訟
これらの保護強化がなされる一方で、著作権をめぐって百度(バイドゥ)や雅虎中国(Yahoo!中国)といった代表的な音楽検索サイトを対象とした訴訟が起こされてきています。その論点は、配信を行うシステムを提供する側がコンテンツにどこまで責任をもつかということです。
例えば、検索エンジンの場合、インターネットをクロールして音楽ファイルを見つけると、そのリンク(URL)を記録します。これが検索結果として表示されます。しかし、検索エンジンは、リンク先が著作権の許諾を得て公開しているものかどうか判別がつきません。そこで、2006年7月施行の信息网絡伝播権保護条例では、権利者の申し立てがあった場合にはリンクを削除しなければならないことが明記されました。一方、著作物のアップロードやダウンロードに対しても、この条例で著作権者の承認が必要となり音楽配信サイトへの規制が強化されています。今後もこのような著作権保護の強化は続くものと思われますが、その課題は立法化された法規を確実に執行(エンフォースメント)して取り締まりの強化をしていくことです。
表5に、ネット音楽をめぐる訴訟の例を挙げました。2006年7月の信息网絡伝播権保護条例の施行以降の雅虎中国を訴えた裁判では、それ以前と判決が変わっていることがわかります。
提訴の年月 | 被告対象 | 原告 | 起訴概要と結果 |
---|---|---|---|
2005年3月 | 百度(バイドゥ)の提供するmp3検索 | 中国のレコード会社である上海歩昇音楽文化伝播有限公司 | 46曲の音楽が百度のmp3検索サービスによって著作権の侵害を受けたとして北京海淀法院に提訴。著作権法などにより、被告に被害額と調査費用を合わせた6万8000万元(約93万7040円(注1))の支払いを命じる原告勝訴の判決。検索をせずとも、mp3検索ページの一覧表で歌手名をクリックしていけば、mp3ファイルをダウンロードできる点や、ダウンロード時に企業のポップアップ広告などを出して百度に広告収益が上がる点などが理由。 |
2005年7月 | 百度の提供するmp3検索 | 国際レコード連盟IFPI(注2)に加盟しているユニバーサルミュージック、ワーナーミュージック、Sony BMG、英EMI、ゴールドラベルとそれらの中国子会社の計7社 | 7社が版権をもつ曲計137曲をネットユーザーに無料で配信したとして北京市第一中級人民法院に提訴。賠償と調査費用を合わせた計167万元(約2300万円)を請求。マウスクリックだけで海賊版音楽がダウンロードでき、結果的に利用者を合法性があるかどうか不確定なコンテンツに誘導しているということで一審では原告が勝訴。しかし、百度は上訴。2006年11月、あくまで検索結果を表示しただけであると弁明して逆転勝訴。2007年には、原告の1つであるEMIが百度と広告付き音楽ストリーム配信ビジネスで提携することになり、控訴を取り下げるという以外な展開。最高裁に相当する中国最高人民法院が下した2008年1月の判決では、百度の音楽検索サービスは、ファイルへのリンクを提供しているだけなので無罪とした。 |
2006年7月 | 雅虎中国(Yahoo!中国)の音楽ダウンロードサービス“雅虎音楽捜索” | 同上 | 北京高級人民法院に、著作権侵害で告訴。雅虎音楽捜索は、提供するのはリンクであって、違法コンテンツ自身ではないから権利侵害ではないと主張。裁判の結果、雅虎中国に21万元(約289万3800円)の罰金を科す有罪判決。雅虎雅虎中国は上訴したが2007年12月に棄却された。 |
2008年2月 | 百度の提供する百度mp3捜索 | 中国音楽著作権協会 | 検索サービスでの歌詞の表示が著作権侵害にあたるとして告訴。2010年2月、著作権侵害を認め、50曲の歌詞情報の提供停止と5万元(約68万9000円)の損害賠償などを命ずる一審判決。百度は、上訴する方針。 |
2008年2月 | 百度の提供するmp3検索 | 国際レコード連盟IFPIに加盟しているユニバーサルミュージック、Sony BMG、ワーナーミュージック香港の3社 | 著作権を侵害する数十万の楽曲をホスティングする外部の配信サイトへのリンクを掲載しているとして提訴。3社は、自らが著作権をもつ楽曲を侵害するサイトへのリンクをすべて削除するよう要求。2009年の一審判決では、百度側に7万元(約96万4600円)の賠償支払い命令。2010年1月、北京高級人民法院は無罪の判決。 |
【参考文献】
[1] Statistical Survey Report on the Internet Development in China (July, 2009) 中国互聯網信息中心(CNNIC)
http://www.cnnic.net.cn/uploadfiles/pdf/2009/3/23/153540.pdf
[2] 平成20年通信利用動向調査の結果、総務省
(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/090407_1.pdf)
[3] 馬 治国(西安交通大学法学院 副院長)、中国知的財産権の司法保護が直面する問題及び分析、2009年11月26日
http://www.spc.jst.go.jp/hottopics/0912intellectual_property/r0912ma_zhiguo.html
[4] 何連明、劉国凡、“中国における著作権法制度,判例紹介”、パテント2008,Vol61, No.6, pp.57-pp.65
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