[特集]

中国の最新インターネット事情(7):インターネットのアプリケーション事情(その2)

2011/01/31
(月)
陶 一智

この連載では、中国のインターネットの歴史や特徴、社会に与える影響などを中心に最新の情報をお伝えしています。前回の第6回では、インターネットでどのようなサービスが利用されているのかというアプリケーション事情を説明し、特にネット音楽の状況について、著作権保護の動向をまじえて説明をしました。しばらく連載のお休みをいただいていましたが再開し、今回は、その続編として、ネット動画を取り上げ、そのサービス内容や利用状況、技術、そしてコンテンツをめぐる動向について説明します。

前回〔第6回の表1にも示した通り、日本と異なる傾向としてネット音楽やネット動画の利用率(それぞれ85.5%と65.8%)が著しく高いことがわかったと思います。このデータは、2009年6月中国互聯網信息中心CNNIC(中国インターネット情報センターChina Internet Network Information Center)のStatistical Survey Report on the Internet Development in China(July, 2009)[1]の数字ですが、同CNNICの2010年7月のThe 26th Survey Report [2]での調査結果もほとんど同じです。まず、後者のレポートの数字を追うことによって、その全体像をつかむことにしましょう。

≪1≫日本と中国の視聴スタイルの違い

日本では、興味のあるテレビ番組を見逃しそうな時には、HDDレコーダーに録画をしておく人が多いと思います。また、シリーズ物のドラマなどは毎週同じ時間に録画するように設定している人も多いでしょう。このため、家電量販店の店頭には多くの種類のレコーダーやレコーダー機能付きのテレビが並んでいます。

一方、中国では、録画をして見るという習慣はあまりありません。販売されているレコーダーも多くはありません。それでは、見逃したテレビ番組はどこで見るのでしょうか? それはインターネットで見るのです。さらに、テレビをまったく見ず、もっぱらインターネットだけで映像を楽しんでいる人が16%程度もいます。というのは、テレビ番組はインターネット上でも同時に放送されているからです。番組は、放送後は他の放送局で放送されたり、インターネット上に置かれたりします。このため、いつでも見られるようになります。

都会ではブロードバンドが当たり前になっていて、インターネットを通じてオンラインで長編映画を鑑賞したり、コンテンツをダウンロードして鑑賞するので、光ディスクプレーヤの出番が少なくなってきています。また、この連載の第4回“中国のインターネット利用の現状”の図2に、中国のインターネット利用者の傾向として、利用者は圧倒的に若年層が多いということを示しましたが、彼/彼女らはネットカフェで音楽やゲームだけでなく、テレビ番組も見ているということも、この数字に現れています。


【脚注】

ネットカフェでは、カフェ内からしかアクセスできないサーバが用意されていることもあります。これには膨大な数の音楽、動画などが入っていて、カフェ内のパソコンからアクセスすることができます。若い人はMP3の音楽をUSBケーブルでパソコンから携帯電話にダウンロードし、さらに、外ではBluetooth(ブルートゥース)を使って携帯電話間で音楽のやりとりをします。日本では、携帯電話間の通信は主に赤外線ですが、中国の携帯電話にはBluetoothがついているものが多いのです。赤外線では転送速度が遅すぎて音楽のやりとりは無理ですが、Bluetoothであれば問題ありません。


技術に詳しい読者の皆さんは、ここで、すぐに動画配信上の輻輳(混雑)問題を思い浮かべると思います。例えば、膨大な人数が同時に動画配信サーバをアクセスすると、サーバも回線もパンクしてしまうのではないかという心配です。これに対し、中国ではP2P(Peer to Peer、端末同士の対等通信)の動画配信技術が他の国には見られない発展を遂げてきました。このP2Pの動画配信技術は、もともと、ファイルダウンロードをP2Pで行うBitTorrent(ビットトレント)の技術をベースとして発展してきたものですが、詳しくは後ほど説明することにします。

ネット上にはありとあらゆるコンテンツがあり、無料で楽しむことができます。表1に、代表的なコンテンツ種別と、どのようなコンテンツが好まれて見られているのかを示します。


表1 観ているコンテンツの種類
コンテンツ種別 比率
映画 77.0%
テレビ番組 70.5%
笑い/アクション 39.8%
アニメ/漫画 35.0%
ニュース 29.2%
娯楽番組 24.0%
スポーツ 21.5%
個人制作番組(投稿) 14.6%
経済関連 16.1%
〔出所:中国互聯網信息中心の2009年12月データ[3]より作成〕


【コラム】

中国の都市では、通常50以上のテレビチャネルをみることができます。中央や31の省、自治区、直轄市の放送局が衛星でも全国放送(衛視=衛星放送のこと)をしており、これを各地の放送局が受信してケーブルテレビで再送信するので、中国各地のテレビが見えてしまうのです。

政府は、広い国土をカバーできる放送網を作るため、“星網一体”(衛星放送とケーブルテレビの融合)政策を進めてきました。CCTVなどは衛星ですべての省に配信されるのですが、これを省の放送局が衛星で再送信するので、重複している番組があったりします。

例えば、中央電視台CCTV の総合チャンネルであるCCTV-1の午後7時のニュースは、全国の放送局で中継されますので、重複することになります。また、面白いことにまったく離れた省の広告も見られることにもなります。どの放送局も、収入の多くを広告に依存しています。その結果、省外でも視聴率を上げて広告を獲得しようとし、いかに人気の高い番組を放送するかという省を超えたテレビ局同士の競争が激しくなっています。

受信料は払う必要がありませんが、ケーブルテレビに加入するので、月額十数元程度の利用料金を払わなければなりません。ケーブルテレビには独自のオプションの専門チャンネルもあり、その利用料金を払えば、更に多くのチャンネルを見ることができます。

チャネル数が多い理由には、一つのテレビ局が多数のチャネルで放送を行っていることも挙げられます。例えば、国レベルの中央電視台CCTVは、総合、経済、芸能音楽、海外の中国人向け、スポーツ、映画や文化、子供/軍事/農業、ドラマ、英語、ニュース、科学、京劇などを含む合計16チャンネルの放送を行っています。省レベルの放送局の一例である北京電視台は10チャンネルの放送を行っています。

テレビ局では、制播分離(制作と放送の分離)が進んでおり、番組制作は外部の制作プロダクションに外注したり、すでに出来上がった番組を国内や海外から購入します。局の仕事は、番組の編成を行ったり広告を取ることで、広告枠、イベント、セールスプロモーションなどの提案を広告主に対して行います。CCTVではゴールデンタイムの広告枠はオークションで販売します。ちなみに、2010年の落札額の大きい企業10社は以下の通りです。


順位 会社名 業種、製品
  1 蒙牛 牛乳、ヨーグルト
  2 飛鶴 粉ミルク
  3 格力(GREE) 白物家電
  4 匯源 飲料
  5 美的集団(MIDEA) 白物家電
  6 P&G 家庭用品、食品、化粧品など(アメリカ)
  7 波司登 ウール製品
  8 双匯 ハム、食品
  9 脳白金 健康食品
 10 ユニリーバ 食品、家庭用品、洗剤など(オランダ/イギリス)


≪2≫ネット動画の視聴方法とコンテンツ供給元によるサイトの分類

2.1 配信方法による分類

表2は、ネット動画をどのような方法で見るかをまとめたものです。最も多いのは、動画サイトを訪れて、ブラウザなどで動画を見る方法です。一旦ダウンロードしてからプレーヤーで見るという人も4から5割ほどいます。このダウンロードには、従来のファイル転送や、BitTorrentのようなP2Pの技術を使います。また、独自の鑑賞用プレーヤー(ネットテレビ専用ソフト)をダウンロードしてきてインストールし、それを通じて番組を見ている人も4割ほどいます。このプレーヤーは、P2Pでの番組の受信をリアルタイムに行うためのものです。このプレーヤーの画面は、番組メニュー、映像表示部、広告欄などから構成されています。詳しくは、後述します。


表2 ネット動画を見る方法
動画を見る方法 比率
動画サイトで見る 61.3%
ダンロードした後、再生ソフトで見る 46.9%
ダウンロードしながら見る 44.0%
ネットテレビ専用ソフトで見る 38.4%
ネットテレビで見る 16.3%
〔中国互聯網信息中心の2009年12月データ[3]より作成〕


2.2 コンテンツの供給元による分類

動画サイトは、コンテンツの供給方法でいくつかに分類することができます。これを表3に示します。

〔1〕放送局の自前のサイト

まず、放送局が自局の番組などを供給する自前のサイトです。これらのコンテンツは放送権を得る時に同時にVoD(Video On Demand、ビデオオンデマンド)の放送権も取ります。2010年(正確には、2009年12月28日)に入り、国レベルの中央電視台CCTV(日本でいえばNHKに相当)がネット向けに中国網絡電視台CNTVというサイトを新たに作り、ネットでの視聴者獲得に乗り出しています。CCTVでも以前からネットでリアルタイムに放送をしていたのですが、CNTVではネット向け番組やVoD(Video On Demand)のメニューを強化しました。また、上海の総合メディアグループである上海文化広播新聞伝媒集団SMG(Shanghai Media Group)や湖南広播影視集団(hunantv.com)も、コンテンツのネット配信に乗り出しています。

〔2〕動画投稿・共有サイト

次に、投稿された動画を視聴する動画投稿・共有サイトです。動画投稿・共有サイトとはYouTubeのように個人が投稿し、それを誰もが閲覧できるサイトのことです。動画配信サイト別の閲覧時間シェアを図1に示します。この図から、代表的な優酷網と土豆網で66%ものシェアがあり、ポータルサイトの捜狐やP2Pダウンロードの迅雷よりも人気が高いことがわかります。なお、YouTubeにはアップロードできる映像には時間の制限がありますが、優酷網などでは制限がありません。

〔3〕ポータルサイト

これら以外に、正規にライセンスを受けたコンテンツを配信するポータルサイトがあります。例えば、捜狐(SOHU)や激動網などです。


表3 コンテンツ供給元による分類
コンテンツ供給元 代表的なサイト
放送局のサイト 中央電視台CCTVグループの中国網絡電視台CNTV (www.cntv.cn
上海文化広播新聞伝媒集団SMG(Shanghai Media Group)(www.smg.cn
湖南広播影視集団(hunantv.com)の金鷹網
動画投稿共有サイト 優酷網(www.youku.com
土豆網(www.tudou.com
我楽網(www.56.com
迅雷看看(www.xunlei.com
酷6網(www.ku6.com
ライセンスを受けたコンテンツを供給するポータルサイト 捜狐SOHU(www.sohu.com
激動網(www.joy.cn


図1 閲覧時間シェア(クリックで拡大)

図1 閲覧時間シェア

〔出所:Jetro, ireaseach, 2010年5月 [4]より作成〕


(つづく)


【参考文献】

[1] Statistical Survey Report on the Internet Development in China , July, 2009, CNNIC,
http://www.cnnic.net.cn/uploadfiles/pdf/2009/3/23/153540.pdf

[2] Statistical Report on Internet Development in China, July, 2010, CNNIC,
http://www.cnnic.cn/uploadfiles/pdf/2010/8/24/93145.pdf

[3] 2009年、中国网民网络视频应用研究报、CCNIC, 2010年3月
http://www.cnnic.net.cn/uploadfiles/pdf/2010/4/7/94334.pdf

[4] JETRO 中国コンテンツビジネスレポート 2010年度(1), 2010年7月、日本貿易振興機構(JETRO, http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07000341/china_contentbiz.pdf


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