[スペシャルインタビュー]

LTE/EPCやWiMAX、XGPで必須技術となった 最新のモバイルIPv4/IPv6を聞く!(2)

2009/06/05
(金)
SmartGridニューズレター編集部

LTE/EPCやWiMAX、XGPで必須技術となった 最新のモバイルIPv4/IPv6を聞く!(2)
3.9G(LTE/EPC)やモバイルWiMAX、次世代PHS「XGP」(eXtended Global Platform)など次世代のワイヤレス・ブロードバンドの登場とともに、端末(パソコン等)が高速に移動しながらも途切れることなく通信できるようにする「モバイルIP」技術が大きな注目を集めています(EPC:Evolved Packet Core、LTEを収容する発展型パケット・コア・ネットワーク)。
ここでは、この分野で10年余の長年にわたって地道な研究を重ねてきた、トヨタIT開発センター シニアリサーチャ、慶應義塾大学SFC研究所 上席研究員(訪問)である湧川 隆次(わきかわ りゅうじ)氏に、最新のモバイルIPについて、モバイルIPv4からモバイルIPv6、プロキシー・モバイルIPに至るまで、その全体像をお聞きしました。
湧川先生はすでに国際的なインターネット技術関連の標準化組織である「IETF」において、すでに2つのRFC(標準技術文書)を完成させ、2009年2月からはIETFにおける「autoconf(Ad-Hoc Network Autoconfiguration)」ワーキング・グループの議長としてご活躍中です。また、2009年3月には、最新の技術を集大成した『モバイルIP教科書』を出版され、その普及活動にも力を注いでいます。
今回(第2回)はオープンなネットワーク環境とクローズドなネットワーク環境の違いを中心にお聞きしました。
(聞き手:インプレスR&D インターネットメディア総合研究所)

LTE/EPCやWiMAX、XGPで必須技術となった 最新のモバイルIPv4/IPv6を聞く!

≪1≫オープンなネットワークとクローズドなネットワーク

■ この「モバイルIP」というのは、一番最初に、だれが言いだした用語なのでしょうか。

湧川 分かりません。前回ご紹介したチャーリー・パーキンス氏が、『モバイルIP教科書』のメッセージに、モバイルIPの始まりの頃を回想して書いていただいております。当時IBMで開発された「グローバル・ゲートウェイ」が、モバイルIPの本当の始まりかもしれません。

湧川 隆次〔トヨタIT開発センター シニアリサーチャ/慶應義塾大学SFC研究所 上席研究員(訪問)〕
湧川 隆次氏
〔トヨタIT開発センター
シニアリサーチャ
/慶應義塾大学SFC研究所
上席研究員(訪問)〕

■ なるほど。ところで、有線のネットワークでは、通常のIPによるインターネットの場合は「オープンなインターネット」という言葉が使われていて、同じIPを使うNGNの場合は「クローズドなネットワーク」と言われています。無線のモバイル・ネットワークの場合は、現在のNTTドコモとかKDDI(au)、ソフトバンクなどの3Gネットワークは、クローズドなモバイル・インターネットといわれています。一方、キャリアの独自プロトコルではない「モバイルIP」を使う場合は、オープンなモバイル・インターネットといわれたりしますが、この辺の現実はどうとらえておけばよいのでしょう。

湧川 確かに、NGNは「クローズドなネットワーク」とも呼ばれています。NGNは、技術的な側面というより運用的な問題かもしれません。一方で、現在の3G携帯電話事業者が運用しているモバイル・インターネットも、やはりエンド端末が通常のインターネットに接続されているIP端末と同じようにはオープンに動作できない状態となっています。つまり、端末と通信相手の間に独自規格なシステムが横たわるため(図2)、ユーザーが自由にアプリケーションを開発できる環境になっていないのです。インターネットのよいところは、通信仕様などがオープンになっているため、だれでも自由にアプリケーションを開発でき、インターネットの上でサービスが提供でき、さらにトラフィックも自由に流せるということだと思います。


図2 携帯電話システムと各世代のIPの関係(矢印の範囲がIP化されている部分)(クリックで拡大)


湧川 隆次〔トヨタIT開発センター シニアリサーチャ/慶應義塾大学SFC研究所 上席研究員(訪問)〕
湧川 隆次氏
〔トヨタIT開発センター
シニアリサーチャ
/慶應義塾大学SFC研究所
上席研究員(訪問)〕

NGNは、インターネットと同じようにIPネットワークですが、ネットワークの安全性や信頼性を上げるために、オープンというのを犠牲にして、サービス品質(QoS)とかポリシー(ネットワークの運用方針)などを保証しています。逆に、インターネットはベストエフォートですから、つまり、多分つながるのだけれど、つながらなくてもまあごめんねという面があります(注:これはあくまでも思想であって、今のインターネットは整備されているのでつながらないことはほとんどありません)。その代わり自由にだれでも使うことができます。

現在、3G(WCDMAやCDMA2000)や3.9G(LTE)などの携帯電話システム分野の標準化団体である3GPPや3GPP2ではオールIP化が進んでおり、将来のモバイル・インターネットがどういう方向に進むか注目されているところです。ただし、実際にネットワークがどのように運用されていくかというのはまだわからない部分が多くあります。

運用面では、IP化されたとしても、今と同じように端末が契約している移動通信事業者(オペレータ)のネットワークに利用が制限されるのかもしれません。NGNでわかる通り、IPを使ったとしても、運用面でオープンにもクローズドにもできるのです。本来であれば、モバイルIPのようなオープンなIP技術を使うことによって技術的には、どのオペレータのネットワークにも自由に接続することができるようになります。そうすると、利用者は移動先で使える無線ネットワークに自由にアクセスすることができるようになるのです。

■ そうなるといいですね。

≪2≫いろいろな人の知恵と創造が注ぎ込まれるオープンな世界

■ ところで、オープンなモバイル・ネットワークにどんなことを期待されていますか。

湧川 隆次〔トヨタIT開発センター シニアリサーチャ/慶應義塾大学SFC研究所 上席研究員(訪問)〕
湧川 隆次氏
〔トヨタIT開発センター
シニアリサーチャ
/慶應義塾大学SFC研究所
上席研究員(訪問)〕

湧川 なかなかむずかしいかもしれませんが、一つ言えることは、これからの携帯電話をはじめとしたモバイル・ネットワークは、IPを取り入れることによって新しいサービスがインターネットと同じように自由に出てくるといいなと期待しています。現在、その方向性が具体的に見えはじめてきていると思います。

例えば、iPhone(アップル)とかアンドロイド(グーグル)という、インターネット系の企業が新しいオープンな携帯電話プラットフォームを提供しはじめ、さまざまな端末に採用され普及し始めていることです。モバイル端末側にそういう、オープンなアプリケーションを自由に開発できる土台ができたということなのです。次は、ネットワークの出番なのです。

携帯電話に向けた自由なサービスができるオープンなネットワークの実現が待たれますが、昨年、米国のFCC(Federal Communications Commission、米国連邦通信委員会)で行われたテレビのデジタル化に伴って返還される700MHz帯のオークション(2008年3月終了)でも、グーグル社がオープン・ワイヤレス・ネットワーク(Open Wireless Network)というコンセプトを押し進めたように、着実に近づいていると思っています。

■ 普通のユーザーにとって、モバイル・ネットワークがオープンに「なっているか、いないか」というのは、なかなかわかりにくいですね。

湧川 そうでしょうね。ネットワークがオープンだからよくて、クローズドだからよくないということではありません。インターネットが発展した経緯を見ると、ネットワークをオープンにすることによって、ユーザー数もアプリケーション数も飛躍的に増大しました。ネットワークをオープンにするということは、ネットワークに経路制御などの必要最小限の機能のみをもたせて、コンピュータ側に制御や機能(インテリジェンス)を押し込むことでもあります。その結果、ユーザー側(コンピュータ)にインテリジェンスを追加したり、編集したりする自由な開発環境が生まれたのです。

一方、クローズドの場合は、ネットワーク側に機能が集約されており、接続されるコンピュータ側にはインテリジェンスは必要なく、ネットワーク側の機能を受けるだけのシンプルな構成になります。このことは、クローズドなネットワークが提供するサービスの範囲内でしか、ネットワークが利用できないことを意味します。ユーザー側のコンピュータにはインテリジェンスがありませんので、自由な開発とはほど遠くなってしまいます。

ネットワークをオープンにすることによって、いろいろな人の知恵と創造が注ぎ込まれ、結果としてネットワーク全体が成長したのがインターネットなのです。


図3 オープンなネットワーク(左)とクローズドなネットワークとの違い(クリックで拡大)


多くのユーザーを巻き込んで進化していくというのは、インターネットに限ったことではありません。この理念は、インターネット・サービスを代表するグーグルやアップルも、またインターネットとともに成長を続けているLinuxやBSDなどのオペレーティング・システムにも引き継がれており、APIやソースコードをオープンに提供して、いろいろな人が開発に参加することができるようになっています。

≪3≫iPhoneやアンドロイドなどのオープンなプラットフォームへの期待

湧川 隆次〔トヨタIT開発センター シニアリサーチャ/慶應義塾大学SFC研究所 上席研究員(訪問)〕
湧川 隆次氏
〔トヨタIT開発センター
シニアリサーチャ
/慶應義塾大学SFC研究所
上席研究員(訪問)〕

湧川 そういう意味ではインターネットは、自由にアプリケーションやシステムが開発されて、自由にサービスを始めることができ、そのサービスがよければそれは残っていくことになります。サービスがよくない場合はだれも使わなくなって消えていきます。それを繰り返すことにより、よいものあるいは必要なものだけが残り、これだけ世界中に普及するほどに成長したのだと思います。

■ おっしゃるとおりですね。

湧川 そういう意味で、携帯電話の世界も前述したiPhoneやアンドロイドなどのオープンなプラットフォームが登場し、世界中の一般ユーザーが例えばiPhone向けにどんどんアプリケーションを書いてアップルストア(Apple Store)で公開し配信しています。これは、すごく大きな一歩だと期待しています。

最近のプログラムAPIも、とてもよくできています。昔のように、ほんとうに専門家でないと書けないというのではなくて、それこそ書籍を買って読めば、簡単なものだったらすぐ書けてしまいます。ネットワークのオープン化が進むことによって、そういう新しい流れがさらに加速していくのではないかと思います。私たちが今想像もしていないような、もっとおもしろいことが出てくる可能性があるのです。

ところで、最近、携帯電話上のトラフィック(通信量)は音声・トラフィックよりもデータ・トラフィックのほうが主流になってきています。現在はパソコンでやっていたアプリケーション(Webやメール)と同じようなアプリケーションを、携帯電話で使っているという状況ですが、今後は、携帯電話でないとできないアプリケーションが出てくると思います。これによって、「移動しながらならでは」の使い方が登場し、モバイルのイメージがよい意味でどんどん変わってくると思うのです。

■ 具体的なアプリケーションのイメージは?

湧川 そうですね。私たちのようにモバイル系の研究をやっていますと、「モバイルでうれしいサービスは何だ」とよく聞かれるのですが、まあ15年も研究しているのに、新しいサービスについていくら頭をひねっても出てきません。携帯版VoIP(ボイップ。IP電話)のような、誰でも考えられるありきたりなものしか出てこないのです。やはり、クリエイティブな部分は、世界中のユーザーを巻き込んで、その結果新しいサービスが開拓されていくことと非常に期待しています。

--つづく--


プロフィール

湧川 隆次〔トヨタIT開発センター シニアリサーチャ/慶應義塾大学SFC研究所 上席研究員(訪問)〕

湧川 隆次(わきかわ りゅうじ)

現職:TOYOTA InfoTechnology Center, U.S.A., Inc. シニアリサーチャ
   慶應義塾大学SFC研究所上席研究員(訪問)
   政策メディア博士(慶應義塾大学・2004 年)

【略 歴】
東京都に生まれる
2004年 慶應義塾大学大学院政策メディア研究科後期博士課程修了
2004年 慶應義塾大学政策メディア研究科 特別研究助手
2005年 慶應義塾大学環境情報学部 有期専任講師
2005年 Asian Institute of Technology(AIT)Adjunct Assistant Professor
2008年より株式会社トヨタIT開発センター シニアリサーチャ
2009年3月よりIETF AUTOCONF作業部会チェア、現在に至る

【主な活動】
IETF(インターネット技術標準化委員会)で、デュアル・スタック・モバイルIPv6(デザインチームの一員)、NEMO基本仕様(RFC 3963)やNEMOホーム・ネットワーク・モデル(RFC 4887)、プロキシー・モバイルIPv6のIPv4サポート拡張、複数ケア・オブ・アドレス登録など、多くの移動支援プロトコルの標準化を手掛けている。

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