[特集]

スマートフォンの台頭とLTEへ向かう世界のモバイル・ブロードバンド(前編)

=マルチメディア振興センター特別講演より=
2009/06/24
(水)
SmartGridニューズレター編集部

アンドロイドOSなどのオープン・プラットフォームの登場によって、携帯端末を高機能化したスマートフォンが続々と発表されるなど、モバイル環境における端末のイノベーションが急速に進展しています。一方、移動通信網においては、日本でもWiMAXのサービスや次世代PHS「XGP」につづいて、2010年には3.9世代と言われるLTEのサービスが予定されるなど、モバイル・ネットワークのIP化/ブロードバンド化(高速・大容量化)が活発化してきています。ここでは、このような動きを国際的な視野から整理しながら、新しく登場し市場に普及し始めているスマートフォンの状況や、世界各国のモバイル・ブロードバンドへの取り組み、さらに周波数の割り当て状況などを中心にレポートします。
このレポートは、マルチメディア振興センター(理事長:有冨寛一郎)が主催した「平成21年度 情報通信月間参加行事」(2009年6月9日)の第20回特別講演会のうち、マルチメディア振興センター主席研究員 飯塚留美氏が行った「モバイル通信におけるオープン化とブロードバンド化の海外動向」の講演を、その後の動きを追加し、改題して掲載したものです。
前編は、スマートフォンの状況や立ち上がる市場、マーケットプレイスなどを中心にレポートします。

スマートフォンの台頭とLTEへ向かう世界のモバイル・ブロードバンド(前編)

≪1≫コンピュータのオープン化の流れ:クラウド・コンピューティングの時代へ

オープン化というのは、コンピュータの世界から発展してきたと位置づけることができますが、その発展の経緯を大まかにまとめますと図1のようになります。図1の左側に示すように、1950年代のコンピュータの黎明期は、アプリケーション・ソフトやOSなどのシステム・ソフト、ハードウェアは、すべてある特定のコンピュータ・ベンダー(例:IBMなど)から提供される垂直統合型のビジネス・モデルでした。


図1 インターネットがOSからアプリケーションを開放(クリックで拡大)

図1 インターネットがOSからアプリケーションを開放


その後、1970年代以降になって、マイクロソフトのWindowsやアップルのMac OS、フリー・ソフトウェアのLinuxのようなOSを搭載したパソコンが登場すると、OSが同じであれば異なるメーカーのパソコンであっても相互にアプリケーションが利用できるようになりました。すなわち、OS(ソフト)とハードウェア(端末)が分離されるようになったのです。これによって、OS依存型のパッケージ・ソフトが隆盛を迎え、同時にコンピュータ(パソコン)の大衆化が進みました。

飯塚 留美氏〔マルチメディア振興センター主席研究員〕
飯塚 留美氏
〔マルチメディア振興センター 主席研究員〕

さらに1990年代の初頭になって、インターネットの商用サービスが開始されると、インターネットの閲覧ソフトであるNetscapeやInternet ExplorerなどのWebブラウザが登場し、その普及によって、ネットワーク依存型のアプリケーションが登場し、脱パッケージ化が進みました。これによって、ある1つのアプリケーションは、パソコンのOSが異なっていても利用できる「ワンアプリ・マルチOS」の時代を迎えました。

このように、コンピュータの世界はOS依存型からネットワーク依存型のアプリケーションへと移行・発展しています。この結果、現在は有線(ADSL/FTTH)や、無線(Wi-Fi、WiMAX、HSDPAさらに今後のLTE)を問わず、いろいろなブロードバンド・アクセス手段を使って、ネットワークを介してアプリケーションを利用する「クラウド・コンピューティング」の世界が実現されようとしています。

このように、コンピュータのオープン化の流れを見ると、コンピュータの世界は垂直統合型から水平分離型に移行してきていることがわかります。これと同じような現象(垂直統合型から水平分離型への移行)が、今、携帯電話の世界でも起こり始めています。

≪2≫モバイルにおけるオープン化の契機となったアンドロイド

表1に、携帯電話(携帯端末)において最近話題となっているグーグル(Google)、アップル(Apple)、ノキア(Nokia)などの主要なプラットフォーム間のオープン化の競争の経緯を時系列的に示します。

表1 主要なプラットフォーム間のオープン化競争の経緯(クリックで拡大)

表1 主要なプラットフォーム間のオープン化競争の経緯

表1に示すように、グーグルは、2005年に、携帯電話用ソフトウェアのプラットフォーム(OSのカーネルにオープンソースのLinuxを使用)である「Android(アンドロイド)」を開発したアンドロイド社(2003年設立)を買収しました。これは長年続いてきた携帯電話の世界に、オープン化という大きな変革をもたらす契機になったといえます。

このようなグーグルの携帯電話市場への参入に危機感をもったアップルは、2007年6月に、初代の「iPhone」(スマートフォン)を発売し注目されました(注:初代の「iPhoneは3G対応ではなくGSM対応だったため日本では発売されていない)。

その直後の2007年11月に、グーグルの呼びかけで携帯電話における共通のソフト基盤の開発などを行う業界団体「OHA(Open Handset Alliance)が設立されましたが、このOHAから、今日大きな注目を集めている「アンドロイド・プラットフォーム」が発表されました。同時に、アンドロイド向けのソフトウェア開発キット(SDK:Software Development Kit)を一般公開するという画期的な発表を行いました。これに続いて、2008年3月にはアップルがSDKを公開し、さらにノキアも2009年4月に2009年内にはSDKを一般公開すると発表しました。

飯塚 留美氏〔マルチメディア振興センター主席研究員〕
飯塚 留美氏
〔マルチメディア振興センター 主席研究員〕

≪3≫オープン化に対応したマーケットプレイスの登場

その後、アップルは2008年7月に3G対応の「iPhone 3G」を全世界で同時発売しましたが、その際にインターネット上の携帯向けアプリケーション・ソフトを気軽にダウンロードでき、また開発したアプリケーション・ソフトを個人でも販売できる「マーケットプレイス(Marketplace)」(販売チャネル)である「App Store」(2008年7月)を他社に先駆けて開設しました。これに続いて、

(1)グーグルは2008年10月に「Android Store」
(2)RIM(リサーチ・イン・モーション)は2009年4月に「BlackBerry App World」
(3)ノキアは2009年5月に「Ovi Store」
(4)マイクロソフトは2009年秋に「Windows Marketplace for Mobile」

を開設または開設予定となっており、携帯向けアプリケーションのマーケットプレイスが次々に立ちあげられてきています。さらに、サムスン電子やソニー・エリクソンなども、相次いでマーケットプレイスへの参入を表明しています。

なお、アップルは、iPhone 3Gの後継機として、動画・音楽再生時間の延長をはじめ通信機能や動作速度を大幅に向上させ、iPhone OS 3.0を搭載した第3世代の「iPhone 3GS」(S:Speed)を開発、日本では2009年6月26日に、ソフトバンクから発売される予定となっています。

≪4≫周波数オークション:オープン化への道筋に一石を投じたグーグル

一方、こうした新しい移動端末(スマートフォン)ビジネスの台頭を背景に、米国では2009年6月12日の地上アナログテレビ放送の完全停波に伴って空く予定の周波数「700MHz帯」に対して、2008年1月~3月に周波数オークション(競売)が行われましたが、この際に、携帯市場のオープン化を目指して、グーグルは「4つのオープン化義務」を定義し、それをFCC(米国連邦通信委員会)に対して、要求しました(後述)。

この周波数オークションの結果、FCCによってオープン・プラットフォームの義務が課された図2に示すCブロックは、当初グーグルが落札しモバイル市場に参入するかが注目されていましたが、最終的にベライゾン・ワイヤレスが落札しました。ベライゾン・ワイヤレスが最低落札価格に達した時点で、グーグルがオークションから退いたことを鑑みれば、グーグルは携帯業界に牽制球を投げることで、オープン化への道筋をつけることが目的であったといえます。一方で、落札に成功したベライゾン・ワイヤレスの場合は、ライバル会社であるAT&Tが独占的にアップルの「iPhone」を提供している状況があるため、これと対抗し差別化したビジネスを展開するうえからも、「オープン・プラットフォーム」をベースにした携帯端末ビジネスを積極的に展開する方針で動いていることが注目されました。


図2 米国700MHz帯のオークション結果(クリックで拡大)

図2 米国700MHz帯のオークション結果


このCブロックに対して、グーグルから提案された4つのオープン化義務の内容は、次のようなものでした(図3)。

(1)オープン・アプリケーション:どんなアプリケーションも動くこと
(2)オープン・デバイス:どんなデバイス(端末)でも利用できること
(3)オープン・ホールセール・サービス:非差別的な卸売義務
(4)オープン・ネットワーク・アクセス:ISP(プロバイダ)などとの相互接続義務

最終的に、前述した周波数オークション(競売)の結果をみると、オープン・プラットフォームの義務が課されてはいるものの、米国全体をカバーする移動通信網を構築可能な700MHz高域帯のCブロック「図3に示す帯域幅22MHz:746~757MHz/776~787MHz」は、ベライゾン・ワイヤレスが47億ドル(約4700億円)で落札しました(参考URL http://www.computerworld.jp/news/mw/101511.html)。

ただし、FCCのオープン化の条件としては前述した(1)オープン・アプリケーション、(2)オープン・デバイスの2つが義務付けられましたが、FCC委員長がインフラ設備の投資インセンティブを優先したことから、(3)と(4)は除外されました。


図3 Cブロックに課されたオープン・プラットフォームの義務(クリックで拡大)

図3 Cブロックに課されたオープン・プラットフォームの義務


≪5≫立ち上がるスマートフォン市場:日本初のアンドロイド端末も登場

以上のような周波数オークションなどと同期して、携帯分野における新しいビジネス・モデルへの挑戦も活発化してきています。図4は、現在の携帯市場をメーカーの側(図4の上側)からと、キャリアの側(図4の下側)からみたものですが、基本的には現在の携帯電話会社のビジネス・モデルは、一般的に垂直統合型といわれています。その中で、図4に示すように、メーカー側は、端末からコンテンツ、アプリケーションさらにプラットフォーム(オープン化)へとビジネス領域を拡大してきています。とくに最近では、アプリケーション市場の活発化を目指して「オープン・プラットフォーム」の動きが活発化してきたことに伴って、新しいビジネス・モデルが誕生してきています。


図4 オープン・プラットフォームの意図はアプリ流通市場の活性化(クリックで拡大)

図4 オープン・プラットフォームの意図はアプリ流通市場の活性化


しかし、iPhoneのように流通コストを低減させる「App Store」によって、アプリケーションの流通がフラット化された一方で、iPhoneでは特定キャリアとの独占契約による「1国1キャリア」の囲い込み戦略が進められました。しかし、フランスでは、競争を阻害しているという理由から、特定キャリア(オレンジ)の独占販売権が差し止められた結果、他の事業者もiPhoneを提供できるようになり、特定キャリアによる独占販売というビジネス・モデルは破綻しつつあります。

また、アプリケーション収入は、利害関係者間でレベニュー・シェア(利益配分)されますが、アップルの場合、アプリケーション開発者には、収入のおよそ7割が配分される仕組みになっており、レベニュー・シェアをどのように配分するかが、アプリケーション市場の活性化にも影響するとみられます。

飯塚 留美氏〔マルチメディア振興センター主席研究員〕
飯塚 留美氏
〔マルチメディア振興センター 主席研究員〕

このようなアップルの動きに対抗して登場してきたのが“ネット携帯”とも言われる「スマートフォン」市場です。すでにiPhoneに対抗して、ノキアの「Nシリーズ」(Symbian OS)やRIMの「ブラックベリー」(BlackBerry OS)、サムスンの「OMNIA」(Windows Mobile)などが対抗しています〔注:OMNIAとは「あなたがモバイルに望むすべて」という意味。(OMNIAはラテン語で「Everything(すべて)」、アラビア語で「Wish(願い)」を意味する)〕。

また、アンドロイドOS搭載のスマートフォン(携帯端末)としては、2008年10月に最初に台湾のHTC社から「T-Mobile G1(HTC Dream)」が発売され、続いて2009年5月に同じHTC製の「HTC Magic」を、ボーダフォンが欧州で提供を開始しました。さらに、2009年5月、NTTドコモは、このHTC Magicをベースに開発した日本初のアンドロイド携帯「HT-03A」を発表(2009年6月~7月発売予定)、これらに続いてモトローラからもアンドロイド携帯が2009年下期から発売される予定となっています。

なお、NTTドコモは、アンドロイド携帯とは別にWindows Mobileを搭載した4.1インチワイドVGA液晶フルタッチパネルのインターネットケータイ(スマートフォン)「T-01A」を、2009年6月20日から発売すると発表しました。

最近の市場動向からみると、携帯電話市場/スマートフォン市場では、ノキアがシェアを落としながらも依然として両市場のトップですが、携帯電話市場では、サムスンやLGなどの韓国勢が2番手、3番手とシェアを拡大する一方、スマートフォン市場ではアップル(iPhone)とRIM(ブラックベリー)が2番手、3番手と台頭し、アップルが市場を牽引しています。

このようなスマートフォンなどの新しいネット携帯の台頭を背景にしながら、世界の各国ではモバイル・ブロードバンド・ネットワークの整備が、国策としても推進されています。

--後編へつづく--


プロフィール

飯塚 留美氏〔マルチメディア振興センター主席研究員〕

飯塚 留美(いいづか るみ)氏

現職:財団法人 マルチメディア振興センター 電波利用調査部 主席研究員

【略歴】
1996年 日本女子大学大学院 人間社会研究科 現代社会論専攻 修士課程修了
1996年 財団法人 国際通信経済研究所〔現(財)マルチメディア振興センター〕入所
1999年 日本貿易振興会 日韓フェスティバル基本構想委員会委員(~2000年1月)
2003年 九州大学大学院 比較社会文化学府 客員助教授(~2006年3月)
2006年 総務省 ICT国際競争力懇談会 ワイヤレスWG 構成員(~2007年3月)
2008年 駿河台大学 文化情報学部(現 メディア情報学部)非常勤講師
2009年 総務省 情報通信審議会 専門委員

【主な調査研究活動】
海外のICT分野における制度・政策に係る調査研究に従事。最近のテーマは、諸外国の放送用周波数や公共業務用周波数の再編動向、モバイルテレビの海外動向など。主な調査レポートに、「欧州のモバイルによる動画配信の現状と課題-モバイルテレビを中心に-」(『ICT World Review』マルチメディア振興センター(FMMC)、August/September 2008)、「アナログ跡地の周波数再編をめぐる欧米の現状と課題」(『ITUジャーナル』日本ITU協会、2008年10月号・11月号)、「欧州の電波制度改革の動向」(『ICT World Review』FMMC、December/January 2009、共著)などがある。


 

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