[特集]

スマートフォンの台頭とLTEへ向かう世界のモバイル・ブロードバンド(後編)

=マルチメディア振興センター特別講演より=
2009/06/30
(火)
SmartGridニューズレター編集部

アンドロイドOSなどのオープン・プラットフォームの登場によって、携帯端末を高機能化したスマートフォンが続々と発表されるなど、モバイル環境における端末のイノベーションが急速に進展しています。一方、移動通信網においては、日本でもWiMAXのサービスや次世代PHS「XGP」につづいて、2010年には3.9世代と言われるLTEのサービスが予定されるなど、モバイル・ネットワークのIP化/ブロードバンド化(高速・大容量化)が活発化してきています。ここでは、このような動きを国際的な視野から整理しながら、新しく登場し市場に普及し始めているスマートフォンの状況や、世界各国のモバイル・ブロードバンドへの取り組み、さらに周波数の割り当て状況などを中心にレポートします。
このレポートは、マルチメディア振興センター(理事長:有冨寛一郎)が主催した「平成21年度 情報通信月間参加行事」(2009年6月9日)の第20回特別講演会のうち、マルチメディア振興センター主席研究員 飯塚留美氏が行った「モバイル通信におけるオープン化とブロードバンド化の海外動向」の講演を、その後の動きを追加し、改題して掲載したものです。
後編は、「前編のスマートフォンの状況や立ち上がる市場、マーケットプレイスな どのレポート」に続いて、LTEに向かう世界のモバイル・ブロードバンドの進展や、 オークションなどによる新しい周波数割り当て状況などを中心にレポートします。

スマートフォンの台頭とLTEへ向かう世界のモバイル・ブロードバンド(後編)

≪1≫世界市場の90%のシェアをもつGSM

飯塚 留美氏〔マルチメディア振興センター主席研究員〕
飯塚 留美氏
〔マルチメディア振興センター 主席研究員〕

世界のモバイル(移動通信システム)の導入状況を見てみると、日本と韓国以外は世界のほとんどの国・地域でGSM(2G:第2世代)が導入されています。これまで219以上の国・地域で導入され、ネットワーク数で750以上(2009年4月現在)、加入者数は35億4000万(2008年末)となっています。ITU(国際電気通信連合)は、2008年末までに世界の携帯電話加入者数が40億人に到達することを発表(2008年9月:Worldwide mobile cellular subscribers to reach 4 billion mark late 2008)していますので、この数値で計算すると、GSMは実に全世界の88%と約9割近いシェアをもっていることになります。また、GSM(2G)の発展系であるW-CDMA(3G)は、導入国・地域数が120、事業者数287、W-CDMA(HSPA含む)加入者数は3億2930万(2009年第1四半期)となっています(出典:GSA surveys and reports - up to May 14, 2009)。

最近の各国のモバイルの導入傾向を見ると、アフリカなどの携帯電話が導入されていない国・地域ではGSMを最初に導入するのが一般的になっています。また、すでに第2世代としてCDMA方式を導入している国・地域(ベネズエラ、ブラジル、ベトナムなど)でさえも、CDMAを廃止して、GSMに置き換える状況も生まれてきています。

≪2≫LTEは、すでに世界の31事業者が採用を決定

また、世界的にみると、GSMから完全にW-CDMAに置き換わるケースは少なく、基本的に「音声はGSMで、データはW-CDMAもしくはHSPA」という形でネットワークを棲み分けて、導入される傾向になっています。さらに、GSMしか導入されていない国・地域では、今後、「音声はGSM、データはLTE」というデュアル方式になる可能性も否定できません。

現在注目されている次世代モバイル(第3.9世代)のLTEの採用を決定している世界の通信事業者は、2009年4月現在、31事業者となっており、2010年にLTEの商用サービスを提供する事業者は、ベライゾン・ワイヤレス、テリアソネラ(スウェーデン)、NTTドコモなど11社となっています。また既に、LTEの採用を決定している事業者は欧州が10社(オレンジ、T-Mobile、ボーダフォンなど)、アジア・太平洋が12社(NTTドコモ、KDDI、中国移動、中国電信、KTFなど)、米国が6社(ベライゾン・ワイヤレス、AT&Tモビィリティ)、カナダが3社(ベル・カナダ)など)となっています〔出典:Global mobile Suppliers Association(GSA http://www.gsacom.com)の調査。編注:詳細は、「インターネット白書2009」(インプレスR&D刊、2009年6月)に飯塚留美氏が執筆した記事「メディアコングロマリット化する海外の通信事業者」を参照〕。

飯塚 留美氏〔マルチメディア振興センター主席研究員〕
飯塚 留美氏
〔マルチメディア振興センター 主席研究員〕

LTEへの移行・導入のきっかけをつくったのは米国のベライゾン・ワイヤレスが2007年11月にLTEの導入を発表したことによります。これによって、第2世代としてCDMAを採用した陣営によるGSM、W-CDMA、LTEへの置き換えが加速し、これを受けてGSM陣営によるLTEへの移行に拍車がかっているといえます。とくにオーストラリアではCDMAを完全に廃止し、2009年2月には世界初のHSPA+(下り最大21Mbps)のサービスを開始、またニュージーランドでもCDMAを廃止し、GSM/EDGEやW-CDMA/HSPAへの置き換えを進めています(注:EDGE:Enhanced Data rate for GSM Evolution、GSMを拡張し最大384kbpsのデータ通信を可能にした方式)。

ベライゾン・ワイヤレスは、音声としてのCDMA2000 1xは2018年~2020年頃までサービスを維持しますが、LTEの導入に伴って、データ通信としてのCDMA2000 EV-DOはそれよりも前に廃止するとみられています。そのため、CDMA(音声)とLTE(データ)のデュアル・モード端末が必要になります。

また、W-CDMAを導入した一部の事業者では、いきなりLTEに移行するのではなく、LTEの手前のサービスであるHSPAあるいはHAPA+への移行を計画している事業者も登場しています(後述するように、日本もこのような動きがある)。

≪3≫モバイル・ブロードバンドにおける周波数の使われ方

次に、世界各国でモバイル・ブロードバンドの整備をするうえで、周波数がどのような方針で割り当てられているかを、いくつかの例を挙げながら概観してみましょう。

〔1〕欧州・北欧の例

欧州諸国では、一般に、

(1) W-CDMA/HSPAサービスの場合は、都市部では2100MHz帯の高い帯域を、地方・農村部には900MHz帯(2G:GSM)の低い帯域を割り当てる
(2) LTEサービスの場合は、都市部では2600MHz帯高い帯域を、地方・農村部には800MHz帯(地上アナログテレビ放送跡地)の低い帯域を割り当てる

というように、都市部に高い帯域を、地方・農村部には低い帯域を割り当てることが提案されています。

(1)イギリス/フランス/ドイツの例

これらを具体的に見てみますと、イギリスでモバイル・サービスを提供している、ボーダフォンやO2UK、T-Mobile、オレンジ、H3G(ハチソン)では、現在、2G(GSM)の場合は900MHz帯や1800MHz帯を中心に、3G(W-CDMA)の場合は2100MHz帯を中心に周波数が割り当てられています。現在、イギリスでは無線周波数近代化計画に基づいて、2G(GSM)帯域での3G(W-CDMA-HSPA)の使用を認め、また2.6GHz帯や地上アナログテレビ放送跡地(800MHz帯)などの周波数再編により3.9Gや4Gへの利用を可能とする方針が示されていますが、すでにボーダフォンやオレンジがLTEの採用を発表しています。また、フランスでも2.6GHz帯と地上アナログテレビ放送跡地(800MHz帯)をLTEなどに割り当てる方針であり、ドイツでは1.8GHz/2.0GHz/2.6GHz帯の270MHz幅が2009年にオークションにかけられる予定です。

(2)フィンランド/ノルウェー/スウェーデンの例

北欧のフィンランドは、2009年4月に1800MHz帯(GSMと3Gに分配された帯域)をLTE用として既存の携帯キャリア3社(テリアソネラ、エリサ、DNA)に免許を割り当てたほか、2009年11月には2.6GHz帯が割り当てられる予定で、フィンランド初のオークションが実施される予定です。また、ノルウェーとスウェーデンでは、すでに2.6GHz帯の周波数オークションが実施され、技術中立(その周波数帯域において無線方式などを限定しないで使用できること)で周波数の割り当てが行われました。(図1

ノルウェーでは、2007年11月に2.6GHz帯オークションが終了し、2500MHz~2690MHzの190MHz幅に、(1)FDD(計80MHz幅)としてテレノール、ネットコムが、(2)TDD(計110MHz幅)としてクレイグ・ワイヤレス、アークティック・ワイヤレス、ハフスルンド、そしてテレノールが落札しました。テレノールは、FDD帯域に加えて、TDD帯域も2ブロック(計40MHz幅)落札したことから、合計80MHz幅をLTEや4Gに使うことが可能となっています。

スウェーデンでは、2008年5月に2.6GHz帯オークションが終了し、同じく2500MHz~2690MHzの190MHz幅に、(1)FDD(計140MHz幅)としてテリアソネラ、Tele2スウェーデン、テレノール・スウェーデン、HI3Gが、(2)TDD(計50MHz幅)としてインテル・キャピタルが落札しました。

このオークションの特徴的なことは、従来オークションに参加するのは通信事業者がメインでしたが、インテルのようなベンダーが特定の技術規格の導入を目的に参加してきていることです。


図1 スウェーデンとノルウェー等における2.6GHz帯の周波数割当て状況(クリックで拡大)

図1 スウェーデンとノルウェー等における2.6GHz帯の周波数割当て状況


〔2〕アジアの例

(1)巨大な中国市場とTDD-LTEへの展開

まず、アジア地域の台湾の場合は、2007年7月にWiMAXに関する2.6GHz帯の周波数オークションが行われ(URL:http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20081107/698)ましたが、このうち、台湾南部の免許を獲得した大同電信(Tatung InfoComm)は、2009年4月27日から台湾初の商用WiMAXサービスを開始しています。

また、今後、国際的なモバイル・ブロードバンドの普及と展開を見るときに、巨大なマーケットをもつ中国が牽引役となると注目されています。中国の通信事業者は、2009年1月、中国移動(チャイナ・モバイル:TD-SCDMA)、中国電信(チャイナ・テレコム:CDMA2000)、中国聯通(チャイナ・ユニコム:W-CDMA)の3社体制に再編され、それぞれの通信事業者に( )内に示した3Gライセンスが交付されました。

中国では、中国が提案し3Gの国際標準となったTDD(時分割複信)方式である「TD-SCDMA」を推進しサービスも開始されていますが、3Gの次の高度化システムとして、現在のTD-SCDMA方式と相性のよい「TDD方式のLTEの仕様策定」を3GPPにおいて積極的に推進し、その導入に向けて技術的な検討が進められています(図2)(注:TD-SCDMA:Time Division - Synchronous Code Division Multiple Access、時分割‐同期符号分割多元接続方式)。


図2 中国におけるモバイル・ブロードバンドの本格的な普及に向けた動き(クリックで拡大)

図2 中国におけるモバイル・ブロードバンドの本格的な普及に向けた動き


(2)日本:4社にLTE用の周波数を割り当てへ

日本では、2.5GHz帯を使用して、2009年2月にUQコミュニケーションズがWiMAXの、2009年4月にウィルコムが次世代PHS「WILLCOM CORE XGP」の、限定的なサービスを開始していますが、UQコミュニケーションズは、2009年7月からいよいよ本格的なWiMAXの商用サービスを開始します。

また、この講演(6月9日)の直後の2009年6月10日、総務省は、申請のあったソフトバンクモバイル、KDDI/沖縄セルラー電話、NTTドコモ、イー・モバイルの4社が3.9世代移動通信システム(LTE)の導入(開設計画)を実現するため、表1に示す周波数を割り当てました。

(URL:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/14457.html


表1 3.9世代移動通信システム(LTE)への周波数割り当てとサービス開始予定時期
  ソフトバンク
モバイル
KDDI/沖縄セルラー電話 NTTドコモ イー・モバイル
割り当てられた周波数帯 1.5GHz帯
(10MHz幅)
1.5GHz帯
(10MHz幅)
1.5GHz帯
(15MHz幅)
1.7GHz帯
(10MHz幅)
周波数範囲 1475.9MHz~1485.9MHz 1485.9MHz~1495.9MHz 1495.9MHz~1510.9MHz 1844.9MHz~1854.9MHz
採用技術 DC-HSDPA/LTE LTE LTE DC-HSDPA/LTE
運用開始 2011年1月 2011年11月 2010年7月 2010年9月
サービス開始 2011年7月 2012年12月 2010年12月 2010年9月
備考 DC-HSDPAは1.5GHz帯で、LTEは既存の2GHz帯で提供予定 既存の800MHzでも提供予定 既存の2GHz帯でも提供予定 1.7GHz帯でDC-HSDPA/LTEを提供予定


ここで、表1の中のソフトバンクとイー・モバイルのDC-HSDPA〔Dual Cell HSDPA(High Speed Downlink Packet Access、二重セル高速下りパケット・アクセス方式〕とは、HSPA(下り最大14Mbps、上り最大5.7Mbps)を高速化する仕組みの1つで、3GPPリリース 8という規格の一部としてすでに標準化されています〔注:HSPA=HSDPA(下り)+HSUPA(上り)という意味〕。

このDC-HSDPAは、既存のHSPAで利用している帯域を「二重化する」(2本束ねる:<例>5MHz×2)ことによって高速化(最大下り42Mbps)を実現する技術です。一方、変調方式(「多値変調」を用いる)やアンテナ(MIMO等)技術を工夫することによってHSPAを高速化するHSPA+(eHSPA=enhanced HSPAともいわれる)という技術も標準化されています。このHSPA+では、最大下り21/28Mbpsの仕様と、さらに高速化した最大下り42Mbpsの仕様が標準化されています。

前出の表1に示したように、日本では、イー・モバイルとソフトバンクモバイルが、DC-HSDPAをLTEサービスの前段階に位置づけて提供するサービスとして計画されています。なお、このDC-HSDPA/HSPA+までは、既存のW-CDMA(シングルキャリア)のアクセス技術をベースに展開できますが、LTE方式では新しいOFDM(マルチキャリア)ベースのアクセス技術の導入が必要となるところが、両者の技術的にも経済的にも大きな相違点となっています。

これまで見てきましたように、今後モバイルの世界は、スマートフォンの普及とLTEに代表されるモバイル・ブロードバンドの進展によって、新しい市場が形成されていくと期待されています。それに伴って、3.9Gや4Gの本格的な普及や、4G以降を見据えて、新たな無線周波数を確保する動きも活発化してきており、なかでも公共セクターの周波数の開放(特にイギリスでは、軍事用周波数の再編が進展し2011年までには相当量の周波数が民間に開放あるいは民間との共用となる見通し)が進展していくとみられています。

--終わり--


プロフィール

飯塚 留美氏〔マルチメディア振興センター主席研究員〕

飯塚 留美(いいづか るみ)氏

現職:財団法人 マルチメディア振興センター 電波利用調査部 主席研究員

【略歴】
1996年 日本女子大学大学院 人間社会研究科 現代社会論専攻 修士課程修了
1996年 財団法人 国際通信経済研究所〔現(財)マルチメディア振興センター〕入所
1999年 日本貿易振興会 日韓フェスティバル基本構想委員会委員(~2000年1月)
2003年 九州大学大学院 比較社会文化学府 客員助教授(~2006年3月)
2006年 総務省 ICT国際競争力懇談会 ワイヤレスWG 構成員(~2007年3月)
2008年 駿河台大学 文化情報学部(現 メディア情報学部)非常勤講師
2009年 総務省 情報通信審議会 専門委員

【主な調査研究活動】
海外のICT分野における制度・政策に係る調査研究に従事。最近のテーマは、諸外国の放送用周波数や公共業務用周波数の再編動向、モバイルテレビの海外動向など。主な調査レポートに、「欧州のモバイルによる動画配信の現状と課題-モバイルテレビを中心に-」(『ICT World Review』マルチメディア振興センター(FMMC)、August/September 2008)、「アナログ跡地の周波数再編をめぐる欧米の現状と課題」(『ITUジャーナル』日本ITU協会、2008年10月号・11月号)、「欧州の電波制度改革の動向」(『ICT World Review』FMMC、December/January 2009、共著)などがある。


 

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