[スペシャルインタビュー]

動き出すスマートハウス!(第2回) =スタート直前の実証実験の内容を聞く=

第2回 スマートハウスの定義と3つの特徴
2010/09/21
(火)
SmartGridニューズレター編集部

国際的にスマートグリッドへの取り組みが活発化する中で、その具体的な適用例として、「スマートハウス」が登場し、新しい住環境として注目されている。ここでは、いよいよ2010年9月から開始されるユニークな「スマートハウスの実証実験」(主催:福岡スマートハウスコンソーシアム)を推進する、スマートエナジー研究所 CTOファウンダー 中村 良道(なかむらよしみち)氏とdSPACE Japan代表取締役社長 有馬仁志(ありまひとし)氏に、スマートハウスの定義からスマートハウスの特徴、スマートハウスにおけるエネルギー制御や新しいモデルベース開発の手法などをお聞きした。今回は(第2回)は、中村氏にスマートハウスの定義や3つの特徴・機能などについてお話いただいた(聞き手:WBB編集部)。

動き出すスマートハウス!(第2回) =スタート直前の実証実験の内容を聞く=

≪1≫スマートハウスの定義:「バッテリーをもった家のこと」

■ スマートハウスの実証実験も間もなくスタートするとのことですが、ここで「スマートハウス」とは何かをもう一度、整理していただけますか。

中村 はい。まず重要なことは、スマートハウスをどのように定義するかということです。一言でいいますと、前回(第1回)の図1に示したように、「スマートハウスというのは、バッテリー(蓄電池)をもちバッテリーを上手に活用できるシステムがある家」と考えています。

ここで、バッテリーをもった家(スマートハウス)が、どのような効果があるのかを、「家に住んでいる人のメリット」と「電力会社のメリット」の2つの視点から考えいきましょう。

まずは、家に自然エネルギーを取り付けた人ならば、当然のことですが、自然エネルギー(太陽光発電や風力発電が生み出すエネルギー)を無駄なく利用することを考えます。生み出した電気は、自分で使用したいし、また、電力会社にも買い取ってもらいたい。しかし、逆に、電力会社から見たら、たくさんの電力を逆潮流(一般家庭から電力会社に電力を流すこと)されると系統電圧が上昇してしまいますから、系統電圧が低いときだけ、逆潮流してほしいのです。もしも、このとき(逆潮流があるとき)、バッテリーがあれば電力の流れそのものをダイナミックに変化させることができます。

中村 良道氏(スマートエナジー研究所 CTO ファウンダー)
中村 良道氏
(スマートエナジー研究所 CTO ファウンダー)

スマートハウスは、自然エネルギーと系統のエネルギーを非常にうまくバランスさせるハイブリッド・システムの構築を可能にします。もしも、上手なシステムを作ることができれば、系統から供給されるエネルギーを平準化する制御(できるだけ電力を一定にする制御)を行うこともできますし、一時的な電力消費についてはバッテリー側からエネルギーを補充することも可能です。これによって、家の中では、急激な電力需要の変化について気を付ける必要はなくなります。

このため私たちは、最近、バッテリーの役割は系統側(電力会社側)にとってもメリットが非常に大きいのではないかと考えるようになりました。近い将来、電気自動車の普及で、多くの電力を消費することが考えられます。スマートハウスのバッテリーのエネルギーは、系統電力のエネルギーを支援し調整することが可能になります。このように、スマートハウスは、電気自動車の普及によって、需用家側で電力消費が急速に増大した場合でも、系統とバッテリーのハイブリッドな給電システムによって、系統のエネルギーの増加を抑えることが可能となるのです。


≪2≫スマートハウスにおける逆潮流の問題点

■ 一般家庭で、太陽光発電などの自然エネルギーによって発電した電力を、電力会社に売る場合も同じようにうまくいくのですね。

中村 そうですね。一般家庭から系統側に電気が流れることを「逆潮流」(Reverse Power Flow)と言います。現在、この一般家庭で発電した余剰の電力を系統側に売る「逆潮流」の問題が話題となっていますが、線路インピーダンス(線路の電気抵抗)の影響で系統側の電圧が上昇してしまうため、自然エネルギーを取り付けた家が周りにたくさんあると、電力を売ることが難しい場合がでてくることがあります。

■ なぜそうなってしまうのですか。家庭で発電した電力が売れるから太陽光発電システムを導入するユーザーもいると思うのですが、希望がもてないということですか?

中村 そうですね。少し原理的なお話をしますと、逆潮流すると、家庭側から系統側に電流が流れるときに、家庭側と系統側の間に線路インピーダンスという電気抵抗が存在します。電気が銅線を伝わって家までくるわけですから、抵抗が全くゼロというわけにはいきません。逆潮流というのは家庭側から系統電力線側に電流が流れる現象ですから、当然電圧が上昇してしまうのです。たとえば、太陽光発電によって発電される電力は直流ですが、インバータで交流に変換して、電力線(系統電力線側)に流します。その際、線路のインピーダンスは直流抵抗だけでも、0.3Ω前後と考えられます。仮に家庭側から20A(アンペア)の電流が系統側に流れるとすると、 

約0.3Ω×20A=約6V

と、系統側の商用電圧が200V系の場合で約6V程度上昇してしまう、つまり100Vの系統側の電圧(配電網の電圧)は103Vに上がってしまうことになります。このように、多くの世帯が系統連系を行うようになると、系統電圧が上がっていってしまうのです。これが最大の問題となってきているのです。したがって、太陽電池を各家庭が設置し、電気を売るような逆潮流が増えてくると、太陽電池による発電を止めざるを得なくなるのです。このようなことがあるため、バッテリーに電気を貯めることができるスマートハウスがこれから注目されるシステムになると思います。

■ なるほど。バッテリーの役割が重要なことがよくわかります。

中村 良道氏(スマートエナジー研究所 CTO ファウンダー)
中村 良道氏
(スマートエナジー研究所 CTO ファウンダー)

中村 いままでは、自然エネルギーを利用する際に、バッテリーがないシステムが一般的でした。その最大の理由はバッテリーのコストが非常に高価だったからだと考えられます。また、鉛バッテリーを使う場合は大きすぎたこと、さらにエネルギー効率も良くなかったことなども原因の一つですね。さらに、たとえバッテリーをもちえたとしても、系統連系とバッテリーを上手に共存させるシステムをつくることは容易なことではありません。このように、従来は技術的な問題が多かったのです。

このような理由から、これまでは、自然エネルギーをうまくエネルギー変換するバッテリーなどをもたないで、系統と結びつけるシステムが普及しました。数が少ないうちは、系統への逆潮流もそれほど多くないため、問題になりませんでした。しかし、実際に普及し始めるとそれは大きな問題となるのです。自然エネルギーを利用すること自体は、低炭素社会を目指す上からも歓迎されるはずだったのです。しかし、自然エネルギーの導入が増えすぎると、系統側への影響などが発生してしまい、問題を抱えることになってしまうのです

■ しかし、今後は、電気自動車などの普及によって、自然エネルギーへの依存はますます大きくなるのではないでしょうか。

中村 そうですね。先月(2010年8月)、中国政府が2020年までに1兆3000億円の投資を行い、500万台の電気自動車を普及させるという計画を発表しましたね。電気自動車は環境にやさしい乗り物として期待されていますが、その名の通り電気がなければ走りません。しかも国際的に電気自動車が、将来ということでなく本当に普及しそうになって、現実味をおびてきたのです。

このような背景の中で、太陽電池が普及し始めていますが、前述したように、あとから逆潮流の問題が起こってきてしまったのです。一方、ご承知の通り、電気自動車の普及によって現在の系統電力設備では間に合わないくらい、消費電力が増えてしまう可能性があるのです。この2つの問題が近未来の重要な課題としてクローズアップしてきたのです。すなわち、近い将来に、電気自動車に必要な電気が足りなくなってしまう可能性もあるのです。


≪3≫スマートハウスの研究の目的:その3つの特徴・機能

■ 一般の人たちにとって、太陽光発電はクリーンエネルギーというイメージのほうが強く、系統への逆潮流の問題のなどまったく知らないことです。今さらそんな問題があると言われても困ってしまいますよね。

中村 その通りです。どんな良いことでも、規模が大きく、ひとつのことだけを進めると、悲しいことにバランスが崩れてしまいます。そこで私たちは、新しいヒーローを登場させなければならないのです。そのヒーローこそ、まさに「スマートハウス」だと思います。

前述したように、スマートハウスはバッテリーをもち、エネルギー変換が自在なスマートエナジーシステムをもつ家と考えています。スマートハウスに、エネルギーシステムを上手につくると、系統からの電力も自然エネルギーからの電力も、瞬時にバッテリーに蓄積したり、放電することができます。

一方、最近の家庭の電気機器は省エネルギー化が急速に進んでいます。例えば、LED電球などは従来の白熱球の10分の1程度、すなわち、およそ90%も電力消費を削減できるほど省エネルギー化されています。近い将来、家電はあまり電気を消費しなくなるでしょう。昔の電力消費に比べてどんどん省エネされているからです。このような傾向を考慮しますと、家庭にもつバッテリーの容量は、思ったほど大きくなくてもよいかもしれません。一方、電気自動車(EV)用には、自宅で急速充電を行いたいというニーズは増えると思います。マン(満)充電でなくても、すこし、充電してコンビニに食料品を買いに行きたいと思う人もいると思います。

 

■ それは、自宅(スマートハウス)で実現する急速EV(電気自動車)充電システムということですね。それは便利になりそうですね。

中村 はい。スマートハウスの特徴をもう一度よく見つめてみるとわかります。すなわち、自然エネルギー、バッテリーエネルギー、系統エネルギーの3種類のエネルギーを合わせて、大量の電気を創る、使う、貯めることができるエネルギーシステムが自宅にあるということです。もちろん、バッテリーやチャージャ(充電器)の規模にもよりますが、電力会社が行っている規模から比べたら小規模なものです。小規模でも実用的な急速充電器をつくることは技術的に十分可能です。これは電気自動車の普及にとって非常に重要なことと考えています(図4)


図4 スマートハウス用のEV(電気自動車)急速充電のシステム構成(クリックで拡大)

図4 スマートハウス用のEV(電気自動車)急速充電のシステム構成


■ いろいろとお聞きすると、スマートハウスで中心なるのは、まさにバッテリーなのですね。

中村 その通りです。スマートハウスでなくてはならない理由が、すでにいくつか発見できたと思います。これまで話したことをまとめますと、スマートハウスは、

(1)系統電力の平準化やピーク電力のカットが可能なこと(電力会社のメリット)
(2)太陽光発電や風力発電など自然エネルギーの発電量を生かせること(自然エネルギーを無駄にしない家主のメリット)
(3)電気自動車用の自宅でのプチ急速チャージが可能なこと(電気自動車のオーナーのメリット)

などの3つの特徴・機能をもっている点が優れているのです。

ここで「プチ急速チャージ」とは、たとえば、走行距離40km程度が可能な充電を30分で行うというような、町の電気スタンドの急速充電器よりも遅いけれども、現在の家庭の充電よりも高速な充電システムが可能という意味で使ってみました。あるいは、今風に、スマートEVチャージでもよいですね。


≪4≫スマートハウスにおけるポイント:有機的なエネルギー制御の仕組み

■ 今のお話の内容をもう少し具体的にお話いただけますか。

中村 図4を見てください。この図4に示す5つのDC-DC/DC-ACコンバータがある部分ですが、この部分の直流部分は設計上、交流200Vから変換しやすい、直流400V系(360V~420V)の高圧バスで接続されています。

ここで、スマートハウスにおけるポイントは、エネルギーシステムを柔軟につくるために、個別(太陽光発電系統、風力発電系統など)に装置を構成するのではなく、要素技術別に、DC-DC/DC-ACコンバータを組み合わせして有機的に組み合わせシステムつくることだと思います。この回路は、2011年3月の実用化を目指して実証実験を重ねているところです。


用語解説

AC:Alternative Current、交流
DC:Direct Current、直流
DC-ACインバータ:直流を交流に変換する装置
DC-DCコンバータ:直流(例:低電圧)を直流(例:高電圧)に変換する装置
双方向DC-AC インバータ:直流と交流の瞬時双方向変換を行う装置。系統と家電にエネルギーを相互に供給する
双方向DC-DC コンバータ:バッテリーとHVDC(High Voltage Direct Current、直流高電圧)を相互エネルギー変換する装置。充電や放電を瞬時に行う


■ スマートエナジー研究所のこれからの活動について教えてください。

中村 私たちの研究所の役割は、スマートエネルギーに関する優れたシステムを考案し、実験し、試行錯誤しながら、「こうやったらうまく行きますよ」ということを企業やさまざまな地域の方々に提案することです。言い換えれば、「どうやったら、スマートエネルギーの製品開発が成功するか」というエンジニアや経営者の皆様の問いに答えることだと考えています。

スマートハウスの実証試験には、当初から、福岡市、崇城(そうじょう)大学エネルギーエレクトロニクス研究所、dSPACE Japan、アバール長崎、日本TI,ワイヤレスグルーネットワークス、ホンダソルティック、風車のゼファーをはじめ、たくさんの企業や大学からの協力をいただいております。福岡スマートハウスコンソーシアムへは、いまも参加を希望する企業の申し込みが絶えません。とてもうれしいことです。

スマートエナジー研究所は、スマートハウスで、さまざまな装置を動作させて、システム全体の性能を確認し、問題点を見つけて、一つひとつ解決して、新しい企画へとつなげたいと思います。そして、ハウスメーカー、スマートエネルギー関連のインテグレータ、電源メーカー、風車メーカー、太陽電池、メーカーなどに、スマートエネルギーに関する正確なアドバイスができるようになりたいと思っています。

スマートエナジー研究所は、個別の会社や組織から研究課題をもらって研究しているのではないというところが、とても面白いと思っております、私たちは、スマートエネルギーシステムの実用的な企画を思索し、モデルを作り、実証試験を行い、理論と実証に裏打ちされた情報発信を行う会社として、低炭素実現のための「スマートエナジーコンセプト」を創りたいと思います。

(第3回へつづく)


バックナンバー

<動き出すスマートハウス! =スタート直前の実証実験の内容を聞く=>

第1回 スマートハウスの3つのエネルギー要素 スマートエナジー研究所 CTO ファウンダー 中村 良道氏

第2回 スマートハウスの定義と3つの特徴 スマートエナジー研究所 CTO ファウンダー 中村 良道氏

第3回:最終回 スマートハウスの定義と3つの特徴 dSPACE Japan代表取締役社長 有馬 仁志氏


プロフィール

中村良道(なかむらよしみち)氏(スマートエナジー研究所 CTO ファウンダー)

中村良道(なかむらよしみち)氏

現職:
スマートエナジー研究所 CTO ファウンダー

【略歴】
分散電源(太陽光発電、燃料電池)など、インテリジェントな電源の設計開発におよそ20年携わる。その経験をもとに、持続可能な低炭素社会の実現へ向けて、エネルギー供給と消費における「自律したシステム」を目指し、「思想と技術」の両面から思索、スマートグリッド関連の企画立案や電源装置のためのコンサルティングを行っている。
現在、スマートエナジー研究所 CTO ファウンダー、芝浦工業大学電気工学科 非常勤講師、福岡スマートハウスコンソーシアム 代表。


有馬 仁志(ありまひとし)氏(dSPACE Japan 代表取締役社長)

有馬 仁志(ありまひとし)氏

現職:
dSPACE Japan 代表取締役社長

【略歴】
1982年、国内機器メーカーで産業用ロボットやiTRONの開発を担当。
1993年よりウィンドリバー社、Integrated Systems社、米国SDS社など外資系企業の日本法人の上級管理職を歴任。
2000年にMontaVista Software Japan社を設立して代表取締役社長へ就任。
2006年2月よりdSPACE Japan株式会社の代表取締役社長に就任。東海大学専門職大学院 組込み技術修士(専門職)修了。
2009年より九州工業大学情報工学部非常勤講師も兼任。


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