脱炭素に向かう次世代電力供給システム
─編集部 このたびは「IEC TC 8 SC 8C」初代議長就任おめでとうございます。
石井 ありがとうございます。
─編集部 IECについて伺う前に、電力供給システムの変化について教えてください。
2050年に向けて、世界ではカーボンニュートラル(CO2排出ネット・ゼロ)が国家戦略となってきています。特に、クリーンでCO2排出のない再生可能エネルギー(以下、再エネ)の大量普及を背景に、電力供給システムはどのように変化してきているのでしょうか。
石井 図1をご覧ください。
図1 従来の電力供給システムと新しい分散型エネルギーの台頭
グリッド・エッジ:電力系統(グリッド)の末端(エッジ)に設置され、需要家側で稼働する再エネやEV、蓄電池などの分散型エネルギー設備
ACTAD:Advisory Committee on Electricity Transmission and Distribution、IEC SMB傘下の送電・配電諮問委員会
出所 石井英雄「TC 8 SC 8A/8B/8C Future Activity」、ACTAD Workshop、2020年5月26日
図1は、従来の電力供給システムに太陽光や風力発電などの再エネや蓄電池などの「需要家側エネルギー」(DSR:Demand Side Resources。図中の○部分)が多数導入される、新しい電力供給システムの概念図です。
従来の電力システムに比べて新しい電力供給システムは、次のように大きく変化してきています。
- 従来の電力系統側の大規模発電所として、今後は、大型の太陽光発電(メガソーラー)や風力発電が主に導入・設置される。
- 発電した電気は、電力網を経由して順次電圧を下げながら需要地に電気を送る注2が、途中で工場やオフィスビル、病院などに設置された太陽光発電などの再エネからの電力も合わさるため、電気の流れは双方向にもなる。
- 電力網の末端に位置する需要家側(一般家庭や商店など)には、小規模太陽光発電や固定蓄電池、電気自動車(EV)などの需要家側エネルギーリソース(DSR)が導入・設置されるため、やはり電気の流れの双方向化を促進する。
- 一般家庭や商店などは、電力を売買する「プロシューマー」(買電もするが売電もする需要家)になり、新しいビジネス環境を形成し始めている。
─編集部 日本政府は2020年10月に、「2050年カーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ)」を宣言し、これを受けて、自動車・蓄電池産業を含む14分野の重点産業を特定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」注3を発表したこともあり、脱炭素社会に向けた新しい大きな流れが加速していますね。
石井 そうです。この流れは日本だけでなく世界的な傾向です。
図1に示したように、電力供給システムは分散化の方向に向かっています。また、電力の流れも、従来の「電力供給者⇒需要家」の片方向から「電力供給者⇔需要家」の双方向になってきています。
これは、太陽光発電や蓄電池などの需要家側エネルギーリソース(DSR)が送配電網(グリッド)の末端(エッジ)に多数入ってくる結果であり、電力供給システムのオペレーション(運用)が複雑になります。このように、DSRは電力システムに大きなパラダイムシフトを起こしており、創造的破壊技術(Disruptive Technology)の1つといえるでしょう。
このようにDSRが、送配電網の末端に多数入ってくる複雑な電力供給システムとなるため、そのオペレーションも複雑になってきます。
▼ 注1
世界の主要88カ国が加盟する、電気や電子技術分野の国際規格の作成を行う国際標準化機関、1906年に設立。後述の表1参照。
▼ 注2
日本の場合は、500kV ⇒ 275kV ⇒ 154kV ⇒ 110kV ⇒ 66kV ⇒ 200V/100V、のように電圧を下げながら送電する。
▼ 注3
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012.html