≪1≫中国における動画配信に関連する行政機関と法規制
中国におけるインターネットによる動画(コンテンツ)配信には、主に、工業和信息化部(工業・情報化部)、文化部、国家広播電影電視総局(広電総局)の3つの行政機関が関係します。これらの政府組織の関係を図1に示します。部というのは日本の省に相当します。広電総局は部ではありませんが、国務院の直属機関です。関連する監督官庁が複数にわたる理由は、インターネットが、「放送であるのか、通信であるのか」を明確に分類することができないからです。このため、インターネットで動画を配信する場合には、通信、放送、メディアの3つの従来からの行政部門、それぞれから許可が必要となっています。
〔1〕工業和信息化部(工業・情報化部)
中国語で“和”は“and”という意味です。工業・情報化部は、日本で言えば経済産業省や総務省の通信行政部門を足したような役割を担い、通信ネットワーク、情報通信サービスを管理します。
インターネットサービスを提供する場合、個人、企業、国籍にかかわらず、「増値電信業務経営許可証」〔インターネット情報サービスについての付加価値電信業務経営許可証 = 通称はインターネット・コンテンツ・プロバイダーICP(Internet Contents Provides)免許〕を工業・情報化部から取得しなければなりません(香港にサーバを設置する場合には必要ありません)。このICP免許がなければサイトは遮断されることになります。
これは、次の法令に基づくものです。
(1)互联网信息服务管理弁法(2000年9月25日公布)ICP免許の義務化
(2)非経営性互联网信息服务备案管理弁法(2005年3月20日公布)非営利性ICPの登録を義務化。登録されてないサイトは6月から遮断。
(3)電信業務経営許可管理弁法(2002年1月1日施行、2009年4月10日改正)電信業務経営許可証の管理方法と罰則
ICPには、①営利性ICP免許と②非営利性ICPとの2種類があります。販売、ネット広告、ポータル、ニュース、ゲーム、検索エンジンの提供などを行う場合には、営利目的となります。動画配信も営利に分類されます。この許可は、内資比率が51%を越えている企業に制限されています。非営利とは企業のホームページなどのように単純に情報を提供するもので、免許ではなく届出となります。これはオンラインでも申請できます。交付される「ICP登録番号」は、サイトのトップページ底部分に記載しなければなりません。図2に百度(baidu、バイドゥ)の例を示します。この番号にはhttp://www.miibeian.gov.cn/へのリンクを張らなければなりません。
ICPには、工業・情報化部に申請する省をまたがる多地域ICPと、地域の電信管理機関へ申請する省内だけのICPがあります。いずれにせよ、中国国内に連絡先がない場合には、登録を行えません。また、最低の資本金についても規定されています。
〔2〕文化部
文化部は、芸術文化施策の推進および関係法規の制定並びに監督執行に当たっています。インターネットで音楽配信や動画配信ビジネスを行う場合には、文化部に申請を行い、網絡文化経営許可証を取得しなければなりません。
〔3〕国家広播電影電視総局(広電総局、SARFT = State Administration of Radio、Film and Television)
広電総局は、テレビ放送、ラジオ放送、映画などのメディアを統括し、日本で言えば総務省の放送行政部門や文化庁に相当する役割を担います。インターネットで動画配信サービスを行うには、広電総局から「信息網絡伝播視聴節目許可証」(情報ネットワークを通じて視聴番組を伝播する免許)を取得しなければなりません。これは、2004年10月11日に施行された互聯網等信息網絡伝播視聴節目管理弁法(インターネット等情報ネットワークによる視聴コンテンツ配信の管理規定)に基づくものです。なお、外資はこの許可証を取得できません。
これらの他に、広告を出すには、商務部/工商行政管理局の「広告経営許可証」も必要となってきます。同様に、ニュース、教育、薬品など、配信できるコンテンツによって監督官庁からの許可証が必要となります。
≪2≫中国における動画サイトの健全化
〔1〕動画配信に対する法規制
YouTubeなどと同様、中国のサイトでも違法なコンテンツ(暴力、歩類の、著作権をクリアしていない動画)が問題となり、政府機関による取り締まり強化や当事者間の裁判などによって解決の方向に動いています。例えば、広電総局や工業・情報化部(旧 信息産業部 = 情報産業部の意味)は2007年末から、動画配信に対して様々な法規制を発布しています。これを表1に示します。
(互聯網視聴節目服務管理規定に関連する規定)
発布/ 施行日 |
規定等 | 担 当 | 内 容 |
---|---|---|---|
2007年12月20日発布、 2008年1月31日施行(規制) |
互聯網視聴節目服務管理規定(インターネット視聴番組サービス管理規定) | 広電総局と信息産業部 | ネットでドラマ(映画を含む)を配信する場合は、広電総局が発布する“関于加強互聯網伝播影視劇管理的通知”(この表の次の行を参照)で規定する許可証が必要。 ネットで番組の視聴サービスに従事するためには、広電総局が発行する信息網絡伝播視聴節目許可証の取得が必要。 視聴サービスを行う企業は法人の資格を持ち、国有企業(独資)または国有持ち株会社に限定。 申請にあたり、3年以内に違法行為の記録がないこと。 |
2007年12月29日に発布(規制) | 関于加強互聯網伝播影視劇管理的通知(インターネットにおけるドラマ放送の管理強化に関する通知) | 広電総局 | ネットで配信する映画・ドラマ・アニメは、広電総局が発行する『電影片公映許可証』(映画上映許可証)、または、『電視劇発行許可証』(ドラマ発行許可証)または『電視動画片発行許可証』(アニメ配給許可証)を取得し、著作権者からネット配信の権利を獲得すること。 |
2008年2月22日に発布(規制) | 中国互聯網視節目服務自律公約(中国インターネット視聴番組サービス自律公約) | 広電総局 | ネット視聴サービスの契約書、申請方法、メンバー登記表を規定。 |
2008年6月11日に発布(申請方向) | 信息網絡伝播視聴節目許可証 申報程序 | 広電総局 | ネット映像配信(視聴)サービスに必要な許可証の申請に必要な基本条件。 |
2008年1月になって、広電総局は、2007年12月20日に発布した互聯網視聴節目服務管理規定に基づき、動画サイトのサンプル調査を数回行い、基準に合わないサイト(規定第16条の性的、暴力的、国家安全に危害を与える内容、規定第7条の『信息網絡伝播視聴節目許可証』を取得してない会社が運営)に対して、運用停止命令や警告処罰を実行しました。その一方で、問題のないサイトには許可証を与えました。
〔2〕問題のないサイトへの許可証:4つのリストを発表
広電総局が、2008年3月20に発表した第一回目の調査結果「インターネット視聴番組サイトサンプル調査状況公告第1号」では、次の4つのリストを発表しました。
一つ目は、管理規定に合格した問題がない動画サイト10社ほどに、有効期限3年の許可証を与えました。この中には、中視国際(CCTV)、新華網、人民網、中国広播網、国際在線、中国網、中青網、中国経済網などのニュース機関のサイトの他、激動網(www.joy.cn)のようなニュースや映画配信サイトも含まれています。
二つ目は、コンテンツが違反だが、違反内容が軽微だった土豆網(Tudou)、迅雷電影などのサイト32社で、警告処分を受けました。
三つ目は、コンテンツが違反で違反の程度が甚だしい猫撲視頻、迅雷中国、BT大全などのサイトで、25社がサービス停止命令を受けました。
四つ目は、ISPやICP免許をもたない中国影視庫、春秋文化社区など5社で、許可をもたない5社をブラックリストで公開し、処分は、工業和信息化部(工業・情報化部)に委ねられました。
2008年5月19日の「状況公告第2号」では、停止命令を受けたサイトは8サイト、警告処罰を受けたサイトは20サイトになり、2008年10月27の「状況公告第3号」では、停止命令を受けたサイトは10サイト、警告処罰は17サイトになりました。結局、適正なサイトとして発表されたのは332サイト、停止命令を受けたのは43サイト、警告を受けたのは、69サイトとなりました。
これら3回に渡る取り締まりの結果、多くのP2Pポータルサイトが閉鎖されました。例えば、代表的なP2PサイトであったBTchina(図3)は2009年12月に閉鎖され、米国ドラマに強かった悠悠鳥UUniaoは、問題のリンクを削除すると表明しました。BTchinaを始め、30のP2Pサイトが700サイトあまりのポータルサイトとともに閉鎖されています。
≪3≫中国における著作権をめぐる訴訟
中国当局による継続的な取り締まりと平行し、著作権所有者が配信サイトを訴えるという動きも加速しています。
例えば、2006年1月には、北京の映画配給会社である北京慈文影視制作有限公司と中国文聯音像出版社は、中国電信などが運営する上海の”互換星空上海”、雲南省の“昆明熱線”など18サイトに対して、映像を無許可で配信したと訴えました。また、2008年2月には、米国の映画業界団体Motion Picture Association(MPA= MPAAの海外を管轄する団体)メンバー企業6社が、映画コンテンツを不正に流通させたとして、中国のShenzhen Xunlei Networking Technology(迅雷)を、著作権侵害で上海の地方裁判所に提訴し、損害賠償の支払いと著作権侵害の停止を求めています。
迅雷は、P2Pファイル共有ネットワークの運営企業で、迅雷ではP2Pによるダウンロードソフト迅雷看看(英語名はThunderbolt)を使ってダウンロードする仕組みを提供しており、メンバー企業32社の映画タイトル数百本がXunleiネットワークで流通しているとMPAは主張しています。その中には、「スパイダーマン3」や「宇宙戦争」などが含まれ、訴訟前に78件もの警告を送っています。なお、MPAは、2006年以来、積極的に訴訟を起こしており、中国だけでも42件の訴訟を決着させています。なお、迅雷には、Googleも2006年に資本参加していると言われている点が目を引きます。
図4に、迅雷看看の画面を示します。これは、BitTorrentネットワークを使ったP2Pによるダウンロードだけでなく、サーバクライアント方式のダウンロードもサポートしており、統合ダウンロードソフトとなっています。
著作権者と配信サイトの間だけではなく、配信サイト同士の訴訟も起きています。
例えば、2009年9月には、捜狐(SOHU)が中心になって設立した中国網絡視頻反盗版聯盟(中国インターネット動画海賊版対策連盟)は、動画投稿共有サイトの優酷網を、海賊版コンテンツを配信したとして訴えました。また、土豆網(TUDOU)、P2Pサイトの迅雷などに対してもの賠償を求めており、その額は合計1億元(約14億円)にもなります。これに対し、優酷網は、そもそも告訴自体が事実と異なっており、権利侵害と名誉侵害に当たるとして逆提訴しました。優酷網側は、コンテンツの通報制度と削除を日常的に行っており、コンテンツについても8000万元の版権を持っていると述べています。
このような相次ぐ訴訟によって、P2Pや動画投稿共有サイトでは、中国国外のコンテンツ保護に問題が残っているものの、問題のあるコンテンツの削除が行われるようになってきました。また、ライセンスを受けた正式なコンテンツが普通となっています。ただし、中国では、コンテンツを有料とすることは難しく、コンテンツのライセンスにかかった費用は、「広告収入でまかなう」というビジネスモデルを取るサイトが多くなっています。
≪4≫中国における人気のコンテンツ
中国の若い人たちには、海外のドラマやアニメに関心が高いという傾向があります。特に、「80後」といわれる80年代以降に生まれた世代は、子供の頃からこれらのコンテンツを見ながら育ってきています。例えば、日本のアニメ・漫画(中国語では動漫)、また、ドラマは非常に親しまれています。表2に、中国で人気のある番組の例を示します。
中国での番組タイトル | 日本の番組タイトル |
---|---|
鉄臂阿童木 | 鉄腕アトム |
美少女戦士 | セーラームーン |
蝋筆小新 | クレヨンしんちゃん |
机器猫 | ドラえもん |
灌籠高手 | スラムダンク |
火影忍者 | NARUTO |
櫻桃的小丸子 | ちびまる子ちゃん |
花様少男少女 | 花ざかりの君たちへ |
日本のコンテンツだけではなく、韓国のドラマやハリウッドの映画、全米プロバスケットボール(NBA)の試合も高い人気を誇っています。NBAの人気は、日本の少年漫画“スラムダンク”の影響が大きいのかもしれません。表3に、コンテンツ別の代表的配信サイトを示します。
種別 | サイト |
---|---|
アニメ | 動漫無限:http://www.comicer.com/ |
QQ動漫:http://comic.qq.com/ | |
Sina動漫:http://comic.book.sina.com.cn/ | |
映画・ドラマ | 21CN 映視下載:http://v.21cn.com/index_bb.htm |
天天在線:http://www.116.com.cn/116/home_2006/index.shtml | |
鳳凰寛屏:http://v.ifeng.com/ | |
表3以外にも、動画配信サイト、動画投稿共有サイト、P2Pを使った配信システムで、古い、新しい、公式、非公式の違いを別として多数の動画が公開されています。その様子は、著作権が問題になりがちなYouTubeのことを考えていただければ想像できると思います。YouTubeとの違いは、動画に時間制限がないという点です。このことも相まって、著作権について、今後も継続的な啓蒙活動と取り締まりが望まれています。著作権の保護は、コンテンツの育成にも重要な役目を負います。つまり、ビジネスモデルが成立し、さらにそれが優良なコンテンツを生むという循環を作る必要があります。
≪5≫中国におけるコンテンツ産業の育成
中国では、コンテンツ産業の育成を図るため、テレビでは、海外のコンテンツの放映時間を制限しています。広電総局は、“テレビアニメの放送管理強化に関する通知”を発表し、2008年5月1日から、それまで午後5時から8時までであった海外アニメとその紹介番組等の放送禁止時間を、午後5時から9時までに延長することを通達しました。また、海外の合作アニメをこの時間帯に放送する場合は、 広電総局の許可が必要としています。さらに、主に未成年を対象にしたチャンネルでは、この時間帯には国内もの、海外ものを問わず、ドラマの放送を禁止しました。
このような長年の努力が実り、2009年には、子供たちの間で国産のアニメ“喜羊羊与灰太狼(喜羊羊と灰太狼)の映画が大ヒットしました。これは、2005年から地道なテレビ放映の努力が行われ、CCTVをはじめとする多数のテレビ局で600話を越えるシリーズとなったものです。この漫画化も行われ、さらに、アパレル、各種キャラクターグッズなどの関連商品へのライセンス料で大きな利益を上げるというビジネスモデルも成功しつつあります。
アニメのストーリーは子供にとてもわかりやすく、ヒツジ「喜羊羊」と悪賢いオオカミ「灰太狼」の物語です。
〔例 http://www.bukade.com/cartoon/xiyangyangyuhuitailang/〕
「喜羊羊」は羊村で走るのが速く、知恵のある勇敢な男の子で、毎回羊達を守っています。一方、「灰太狼」には妻と子供がいて、妻に頭があがらないというところが中国らしい設定となっています。そして、「喜羊羊」とその友達が活躍し、いつも「灰太狼」が負けるストーリーになっています。
なお、喜羊羊と灰太狼のようなヒットはすでにいくつか生まれているものの、まだ多くはありません。時には、放映されたアニメの中に既存のアニメとシーンが似ているものがあるという指摘も掲示板などでなされている場合があります。このような状況の中で、今後のさらなる独自のコンテンツ育成が期待されています。
(終わり)
【参考文献】
第7、8、9,10回(その2〜その5)の参考文献
[1] Statistical Survey Report on the Internet Development in China , July, 2009, CNNIC, http://www.cnnic.net.cn/uploadfiles/pdf/2009/3/23/153540.pdf
[2] Statistical Report on Internet Development in China, July, 2010, CNNIC,
http://www.cnnic.cn/uploadfiles/pdf/2010/8/24/93145.pdf
[3] 2009年中国网民网络视频应用研究报、CCNIC, 2010年3月
http://www.cnnic.net.cn/uploadfiles/pdf/2010/4/7/94334.pdf
[4] JETRO 中国コンテンツビジネスレポート 2010年度(1), 2010年7月、日本貿易振興機構(JETRO, http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07000341/china_contentbiz.pdf
[5] 中国インターネット映像配信の現状報告、2007年3月、日本貿易振興機構(ジェトロ)、
http://www.jetro.go.jp/jfile/report/05001495/05001495_001_BUP_0.pdf
[6] BitTorrent Protocol Specification V 1.0, 2004
[7] Designs and Evaluation of a Tracker in P2P Networks, Adele Lu JIA and Dah Ming CHIU, 2008
http://www.p2p08.org/program/sessions/12-short-papers-2/1%20-%20P2P08JIA.pdf/at_download/file
[8] PPLive-A Practical P2P Live System with Huge Amount of Users, Gale Huang, 2007
http://www.sigcomm.org/sigcomm2007/p2p-tv/Keynote-P2PTV-GALE_PPLIVE.ppt
[9] Traffic analysis of P2P IPTV and comparision with BT-like application based on live measurement, Bing Li, Zhigang Jin, Maode Ma, WiCom '09. 5th International Conference onWireless Communications, Networking and Mobile Computing, 2009.
[10] Insights into PPLive: A Measurement Study of a LargeScale P2P IPTV System, Xiaojun Hei†, Chao Liang‡, Jian Liang†, Yong Liu‡ and Keith W. Ross, 2006
http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.78.7592&rep=rep1&type=pdf
[11] Survey and Problem Statement of P2P Streaming, Ning Zong, Huawei Technologies, 2008,
http://www.ietf.org/mail-archive/web/ppsp/current/pdfVFtKyRsjIt.pdf
[12] 中国コンテンツ市場調査(6分野)、2009年10月、日本本貿易振興機構(ジェトロ)、
http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07000133/china_contents.pdf
プロフィール
陶一智(とう・いちち)
7年前に来日し、2006年に法政大学ビジネススクールにおいてMBA(経営学修士号)を取得。
現在、株式会社TERMONYのインターネットビジネス事業部代表として、女性のためのウィッグ販売サイトhttp://www.igennki.comのオペレーションを行っている。