[クローズアップ]

動き出した米国カリフォルニア州のエネルギー貯蔵システム

─エネルギー貯蔵国際会議2014レポート─
2014/12/01
(月)

アヒル曲線に見るエネルギー貯蔵システムの重要性

また、C.エジェット氏は、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの系統電力への影響について説明しながら、エネルギー貯蔵システムの重要性を図2に示す有名なDuck Curve(アヒル曲線)を用いて説明した。

図2 系統電力の負荷(電力需要)と再生可能エネルギーの普及による過発電の関係(アヒル曲線)

図2 系統電力の負荷(電力需要)と再生可能エネルギーの普及による過発電の関係(アヒル曲線)

〔出所 http://www.gtai.de/GTAI/Content/EN/Meta/Events/Invest/2014/Reviews/Powerhouse/Media/edgette-paloalto.pdf.pdf

〔1〕カリフォルニア州のCAISOの試算モデル

図2は、カリフォルニア州のCAISO(Cali-fornia Independent System Operator、独立系統運用機関)が、再生可能エネルギーの拡大に伴って、系統電力へどのような影響を与えるかを提起した試算の図である。絵柄がアヒルに似ているところから、「Duck Curve」(アヒル曲線)とも言われている。

このカーブは図2に示すように、縦軸は系統の電力量(MW)、横軸は時間目盛(24時間)となっている。縦軸の1目盛は2GW(2000MW)である。

図1は、「ある3月の晴れた日」を想定して作成されてグラフである。

晴れているので午前8時から午後6時の日中は、太陽光発電は順調に発電しているものの、暖かいので空調などは不要なため消費電力は少ない。すなわち、電力会社(グリッド)からの系統電力の消費も少ない。しかし夕刻になると、太陽光発電はゼロに近づく一方で、家族が帰宅し照明を付けたり、テレビを見たり、料理をはじめたりするため、急激に電力消費が増大する。

この結果、昼間に比べ急激に消費電力量が大きくなるため、電力会社の発電量を急速に上げていくことになる。これは、現在の状況でも同じ現象である。

〔2〕2015年頃から重要な変化が始まる

しかし図2に示すように、今後、従来は少量であった再生可能エネルギーの導入拡大に伴って、発電所への発電(従来の系統電力)への要求(依存度)が低くなっていく。とくに昼間(午前8時から午後6時頃)の発電量について、2013年や2014年に比べて2015年頃から再生可能エネルギーが増大していくことで重要な変化が始まり、従来の系統からの供給電力が過剰になる。

図2の曲線が中間で垂れ下がった部分(午前8時から午後6時)は、再生可能エネルギーの増大に伴って、系統電力への需要(依存度)が2015年から2020年まで低下し続け、過発電になっていくことを予測している。図からもわかるように、2020年にはその「過発電の量」は、8GWにも達するとカリフォルニア州のCAISOは予測している。

このような過発電の電力を充電して有効利用するうえで、エネルギー貯蔵システムの役割が注目されているのである。

さらに、C.エジェット氏は、米国におけるハワイやニューヨーク、アリゾナ、PJMなどのユースケースを紹介しながら、「今後、エネルギー貯蔵システム(ESS)は、AB-2514に示した計画よりも大きな導入が予想されるため、イノベイティブなビジネスモデルが求められる」と語った。

 参考までに、2014年7月に開催された“California Energy Storage Pro-curement in Action”(カリフォルニアのエネルギー調達の実際)で紹介された、科学的貯蔵から、機械式貯蔵、温度貯蔵などに至るまで、多様なエネルギー貯蔵システム(ESS)のイメージ例を図3に示す。

図3 多様なエネルギー貯蔵(ESS)技術の例

図3 多様なエネルギー貯蔵(ESS)技術の例

〔出所 CESA、GESA、STRATEGEN“California Energy Storage Procurement in Action”、2014年7月16日、http://www.gtai.de/GTAI/Content/EN/Meta/Events/Invest/2014/Reviews/Powerhouse/Media/edgette-paloalto.pdf.pdf

日本からも先進的なエネルギー貯蔵システムをアピール

今回のエネルギー貯蔵サミットは、朝9時から午後17時30分の長時間にわたって開催され、国際的にも、北米、ドイツ、インドなどから多くの講演者が講演した。

日本からは、「経済産業省の再生可能エネルギーをめぐる現状と課題」や「NEDOにおけるエネルギー貯蔵の最新技術」をはじめ、「東京電力の日本におけるエネルギー貯蔵のサービスモデル」「NECエネルギーソリューションズのリチウムイオン蓄電池が電力網にもたらす具体的なメリット」「住友電気工業のレドックスフロー電池」「日本ガイシのNAS電池の適用例と開発動向」「横浜市の日本におけるスマートシティの実例(横浜スマートシティプロジェクト)」「対馬市のエネルギー自立に向けた国境離島対馬プロジェクト紹介」など、日本の先進的なエネルギー貯蔵システムの最新技術が発表され、各国の参加者から注目を集めた。

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