「日本の企業ではパナソニックに注目している」と語るカイカイ・ヤン(KaiKai Yang)氏。同氏は、初期のビットコイン投資家であり、ジャズドラマーでもある。
Energo Labsとは?
Energo Labs(エネルゴー ラボ)は、中国・上海を拠点とするベンチャー企業である。2016年10月に、最高経営責任者(CEO)であるチュー・レイ(Qu Lei Ray)氏と、最高執行責任者(COO)であるカイカイ・ヤン(KaiKai Yang)氏の、2人の共同創業者によって設立された(表1)。
表1 Energo Labs(エネルゴー ラボ)のプロフィール
DAE:Decentralized Autonomous Energy、自律分散型エネルギー
出所 各種資料により編集部作成
同社は、ブロックチェーンをエネルギー分野に応用した独自技術によって、エネルギーをデジタル資産(アセット)化したうえで、電力の自由取引を可能とするプラットフォームを開発した。
Energo Labsでは、ICO(Initial Coin Offering、ブロックチェーンを用いた資金調達法)を、2017年7月25日から8月1日まで開催し終了している注3。同社は合計5.1億TSL(Energo Labsのトークンの名称)を調達し、571BTC(ビットコイン)と108万9,516Qtum(クオンタム)注4を受領している。
次に、Energo Labsの再生可能エネルギー(以下、再エネ)による電力取引システムについて見ていこう。
電力を資産としたEnergo Labsの自律分散型エネルギー(DAE)コミュニティ
Energoは、ブロックチェーンをエネルギー分野に応用した自律分散型エネルギー(Decentralized Autonomous Energy:DAE)コミュニティのコンセプトを現実化するプロジェクトとして始まり、すでに東南アジアを中心に実用化が進んでいる。
DAEコミュニティでは、再エネ由来の電力をデジタル資産としてP2P(Peer to Peer)での取引が可能で、マイクログリッド(小規模電力網)や共有EV充電ステーションや共有蓄電池などに、複数のアプリケーションからアクセスができる(図1)。
図1 Energo Labsによるマイクログリッドの電力取引プラットフォームのイメージ
スマートハウスやEV、スマートメーター、ブロックチェーンソフトウェアを組み合わせた、P2P電力取引を実現。各住宅に設置されたスマートメーターを介して、エネルギー生産量と消費量を、Energo Labsのアプリを使って取引をする。これらは仮想通貨TSLを使って蓄電池に電力を貯蓄したり、蓄積されている電力の購入をしたりすることができる。
出所 Energo Labs提供資料より
Energoでは、Qtumのブロックチェーンを基礎としたEnergoネットワークによって、マイクログリッド内で生産された再エネ由来の電力量の計算、登録、管理、取引、そして支払いがすべて行えるようになっている。
そのほか、M2M(Machine to Machine)のエネルギー需給ソリューションも提供している。EV(電気自動車)充電の際には、専用IDとブロックチェーン上のデジタルウォレットにある仮想通貨だけで、DAEコミュニティ内のどこの充電スタンドでも気軽に充電できる。
Energoは、電力の生産者と消費者を必要なニーズに応じてつなぐ、次世代型の電力生産・消費エコシステムであり、これによって、
(1)DAEコミュニティ内でのクリーンエネルギーの消費 ⇒(2)マイクログリッド内で生産された再エネへの依存度が増加 ⇒(3)エネルギー取引のための仲介(業者)がなくなる ⇒(4)エネルギー生産者と小売(事業)者の利益が増加 ⇒(5)消費者(ユーザー)の電気料金の削減
という流れが生まれてくるとしている。
Energo Labsはこれらを具体化し、真の自律分散型のエネルギーコミュニティを構築していくことを目指している。
▼ 注1
P2P:Peer to Peer、ピア・ツー・ピア。対等通信。家庭と家庭間で(第三者を介さずに)電力の売買などの取引を可能にする通信方式。
▼ 注2
暗号化通貨を許可していない国では、TSLウォレットを無効にし、法定通貨を主な通貨として残すことができる。
▼ 注3
2017年9月に発表された中国の仮想通貨取引所閉鎖とICO全面禁止に伴い、国の要請に応えてTSL返却希望者への対応を自主的に行っている。総払戻額は1億3,825万6,692(138,256,692))TSL。
▼ 注4
Qtum:パトリック・ダイ(Patrick Dai)氏が開発した、ビジネス志向型のブロックチェーンプラットフォームとして考案された仮想通貨。中国を代表するコインとして知られている。