[連載]

欧州の風力発電最前線

─第3回 風力発電の拡大と電力需給バランス:風力発電にできること─
2015/01/01
(木)

風需給バランスの制御方法

図3 電力需要の変動幅と変動周期

図3 電力需要の変動幅と変動周期

〔出所 各種資料より作成〕

〔1〕電力系統側の対策

 従来、電力系統側は火力発電や水力発電などの同期発電機群の出力を、電力需要の変動に追従させることによって、常時、需給バランスを維持している。現実には多少の制御の遅れが生じるため、周波数変動を完全に抑制することは困難であるが、事故などのない平常時の運用では、基準周波数(東日本および西日本で、それぞれ50Hzおよび60Hz)に対して±0.2Hz以内程度の変動に抑制されている。

 この基盤となる需給調整の技術は、よく需要の変動周期の観点から整理される。需要の変動幅は速い変動周期のものほど小さく、逆に日間(1日)の変動など、長周期のものほど大きいことが知られている(図3)。これに対応して、供給力の調整方法も変動周期の観点から、図3中に示すようにガバナフリー制御、負荷周波数制御、経済負荷配分制御、と大別されることが多い。

 次に、この中のある程度短周期の変動に着目して、ガバナフリー注2制御と負荷周波数制御の概要を示す。

図4 ガバナフリー制御

図4 ガバナフリー制御

(1)ガバナフリー制御(数分以内程度の変動周期)

 数分以内程度のごく短い周期の変動に対しては、同期発電機に備えられた“ガバナフリー制御”機能によって対応する。これは前述の通り“供給力が需要を上回ると周波数が上昇する(逆も同様)”ことに着目して、大まかに“周波数が上昇した場合は出力を下げる”という制御応答機能を発電機に付与している仕組みである。

 具体的には、図4のような垂下特性(ドループと呼ばれる)に沿って、発電機の出力が自動調整される。各発電機は自らの回転数に基づいてガバナフリー制御を実施できるため、通信や特別な制御量演算が不要であり、分散的かつ高速な制御が可能となる。ただし、発電機のタービンに送り込む蒸気量を弁開度の制御注3で一時的に調整するものであるため、制御容量はさほど大きくはない(定格容量の5%程度)。非常に単純な制御ではあるものの、短周期を中心とした周波数変動の抑制には一定の効果を示す方法である。

(2)負荷周波数制御(数分〜20分程度の変動周期)

 これは、一般にLFC制御(Load Freque-ncy Control)と呼ばれる。ガバナフリー制御よりも周期の長い負荷変動になると、その変動幅もより大きくなるため、ガバナフリー制御のように弁開度の調整だけでは変動補償が困難となる。そのため、燃料の燃焼量を変えることで、本質的に発電機の出力調整を行う。さらに、発電機間で適切に制御量を分担するため、各発電機の個別の制御量を中央給電指令所で演算し、通信によって発電所に指令を送出する形で実現される。

 この制御は需給バランス維持のための主体的な制御であるが、考慮すべき重要な問題としては、次の2つが挙げられる。

■変化率の制約

 発電機プラントの応答性の観点から、その変化率には制限がある(通常、火力発電機では1分間に定格容量の1〜数%程度の速度でしか出力を変化させることができない)。

■上下限の制約

 発電機の出力には上限があることは言うまでもないが、下限もある(定格出力の2〜3割程度のイメージ)。これ以下に出力を下げたい場合は停止するしかないが、一度停止すると、再度起動するためには一定の時間(完全に停止するための時間や、再起動のための準備時間)をおく必要がある。

 発電機出力の再上昇が必要となる可能性がある場合は、実際には、停止させずに一定の出力で待機させているのである。このように発電機プラントの物理面および運用面の両面から定まる下限値が存在するため、風力発電の出力上昇時に、既存の発電機(電源)群の出力を十分に下げられない問題が生じるが、これは、よく“下げ代不足”注4と呼ばれている。

 現在の経産省の「系統ワーキング」での議論にある通り、再エネ(風力発電および太陽光発電)の導入増加時には、その短周期における変動補償のためのLFC容量を確保しながら、火力発電機の出力を下げていくことが対応の初手となる。

 下げ代不足に直面した場合には、貯水池(あるいは調整池)に余裕があれば揚水発電機を負荷として起動し、余剰の電力で水をくみ上げる、いわばエネルギー貯蔵を行う。また、これでも余剰電力が余る場合は、連系する他地域に下げ代があれば、連系線を介した取引を行うことなどが考えられる。

〔2〕風力発電側の対策(出力抑制)

 前述したように、電力系統側の対策には複数の方法が考えられるが、同時に風力発電側に制御性をもたせることが効果的な対策となる。

 風力発電(および太陽光発電)は可制御性をもっており、一定の風況の条件下で出力を増加させる制御は極めて限定的であるが、出力を下げる(出力抑制)ことは自由度高く実現できる。したがって、下げ代不足問題は、風力発電の出力抑制を行うことによって、回避することが可能である。しかも、出力抑制制御そのものは、従来から風車に具備された基本的な制御機能によって実現できるため、追加的なコストを生じないで行うことができる。つまり、非常に安価な対策である。

 ただし、出力抑制の発生によって、風力発電の保有者は本来得られるはずの売電収入を失う(機会損失)ため、この制御に協力する誘因(インセンティブ)が存在しない。

(1)再エネ特措法の限界と検討

そこで日本の現状としては、再エネ特措法の中で出力抑制の方針が規定されている。

これを要約すると、余剰電力が問題になる場合には、500kW以上の太陽光発電および風力発電に対して、30日を上限として無補償での出力抑制の要請が可能とされている(ただし、電力系統側の対策を十分に実施したうえで、不足する制御量についてのみ要請可能となっている)。

この規定によって、下げ代不足の非常時の問題をある程度改善できることが期待されるが、本規定はあくまでも前日に通告することが規定されており、出力抑制も日数単位での管理であるため、いまだ柔軟性に富む効率的な出力抑制が実現できるような状況には至っていないように感じられる。

(2)海外事例の検討

前述した系統ワーキングにおいて同様に、この柔軟性を上げていくための方策が、海外事例との比較の中で検討されている。次に、その海外事例の一端を紹介する。

まず図5に、ドイツやアイルランドなどで実施されている、風力発電のガバナフリー制御の事例を示す。

既存電源では、前述の通り同期発電機群の一部がこの機能をもち、短周期を中心とした需要変動を打ち消す役割を担っているが、その一端に、風力発電所も貢献する方策である。

図5 風力発電のガバナフリー制御

図5 風力発電のガバナフリー制御

〔出所 新エネルギー小委員会 第2回系統ワーキンググループ、「風力発電の系統連系可能量拡大策」より〕

図5中の赤線は、周波数を維持すべき目標値であり、ここでは50Hzである。50.2Hzまでの周波数上昇は制御の対象外となり、発電機出力は一定である。しかし、これを超過する周波数変動が生じると、周波数上昇の場合は供給力過剰となっていることを示すため、図5の直線(青線)の傾きに沿って風力発電所出力を抑制することによって、周波数変動を正常(50Hz)に戻すことができるようになる。

この制御は、風力発電所内で適切に合計出力を管理するシステムが備わっていれば、各風力発電所で個別に観測した周波数情報に基づいて分散的に実施できるものである。そのため、(機会損失に対する金銭的な補填の考え方を除けば)実現に向けた技術的なハードルは、さほど高くないように感じられる。

(3)出力変化率の制御事例

また、風力発電の出力変動が系統側の制御性能(在来の火力発電機群全体での出力調整可能量、など)を超過する場合は、必然的に周波数変動が大きくなるため、初めから風力発電の出力変動を、系統側の制御性能に合わせて抑制する考え方も実施されている。

例えば図6は、風力発電所の出力変化率を4MW/min(1分当たり4MW)および1MW/min(1分当たり1MW))と制限した場合の制御実施例である(図6の中央部分で4MW/min区間と1MW/min区間を設定)。

図6 出力変化率の制御事例

図6 出力変化率の制御事例

〔出所 新エネルギー小委員会 第2回系統ワーキンググループ、「風力発電の系統連系可能量拡大策」より〕

この制御も各風力発電所で個別に実施できる制御手法ではあるが、どの程度の幅と変化率で制限をかけるべきか、その所望の値は系統状態に合わせて変化するため、電力系統側と風力発電側が協調的に機能する必要がある。


▼ 注2
ガバナフリー:ガバナ(タービン、水車等の回転速度を調整する装置)の働きによって、周波数が低下した場合は発電機の出力が増加し、周波数が上昇した場合は出力が減少するように自動制御される運転方法。

▼ 注3
弁開度の制御:バルブの弁を開いたり閉じたりする制御。

▼ 注4
下げ代不足:軽負荷時に計画的に供給力を絞る際の下げ方向の調整力が不足すること。これによって、発電量が需要を上回り、周波数変動量が拡大する原因になる。

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