日本と欧州の電力系統の決定的違い:原因者負担の原則とローカルミニマム
まず、「なぜ欧州で風力発電が成功しているのか」という疑問から出発する(これは本連載第1回目のタイトルにもなっている)。この素朴な質問に対しては、単純に一言でいうと「欧州の電力系統(電力システム)が頑張ったから」だと答えられる。
「風力発電が頑張ったからではないのか」という疑問も当然あるかもしれないが、主役がいくら1人で頑張っても、生き生きと活躍できる場を与えられなければ主役の良さは光らず、縁の下の力持ち的存在である電力系統が本気を出さないと何ともならない。実際に、欧州や北米では、電力系統側が再エネの受け入れ技術を磨いてきた。それに対して日本では、「なぜ風力や太陽光のような不安定な電源のために、系統側が苦労しなければならないのか」という他人事であるかのような発想がまだまだ色濃く残っているようである。
「日本は電力自由化が遅れているからだ」とか「発送電分離をしてしまえばそんなことにはならない」という意見もあるが、問題はそう単純ではない。なぜなら、形式的に発送電分離を行って送電会社が独立したとしても、「なぜ系統側が苦労しなければならないのか」という発想が相変わらず残ってしまう可能性もあるからである。
原因者負担の原則の落とし穴
この「なぜ系統側が…」という発想は、「原因者負担の原則」からきていると筆者は見ている。原因者負担の発想は、環境汚染などの分野で例を取るとわかりやすい。原因者負担の原則は、何か問題ある行為によって発生したコストはその発生原因者が負担すべきであるという規範原則で、英語でもPPP (Polluter Pays Principle) として知られている。日本では、電力系統利用協議会(ESCJ)ルール注2に工事負担の考え方として、この「原因者負担」という言葉がはっきりと明記されている注3。
電力系統から見て、風力や太陽光に限らず、新たに電源を接続する場合には、大抵、系統側にも何らかの対策が必要となり、それなりにコストが発生する。では、そのコストは誰が支払うべきなのかを考えた場合、単純に後から参入した電源(=原因者)がそのコストを負担すべきというのは、一見きわめて合理的で公平公正に見える。しかし、ここに落とし穴がある。
冒頭で「欧州の電力系統が頑張ったから」という抽象的な回答を提示したが、より具体的に言えば、「欧米は原因者負担の原則の落とし穴を乗り越えたから」だと言い換えることができる。裏を返せば、「なぜ日本で風力発電(をはじめとする再エネ)の導入がなかなか進まないか」という問いに対しては、「日本は原因者負担の原則の名のもとに“新規技術の参入障壁”を作っているから」だと答えられる。
再エネ電源をどれだけ大量に導入できるかは、実は、電力系統の受け入れ体制次第である。これは、欧州や北米での風力発電の導入の過程で多くの実証例から明らかになっている。日本では、多くの人が依然として、再エネの導入が進まないのは再エネ側の(特に変動性や不確実性の)問題で、再エネ側自身がなんとか解決しなければならないものと思っているが、日本以外でのほとんどの国は、このような考えはもはや過去のものと見なされている。
新規技術がこれから市場に参入しようとしているときに、問題をすべて新規参入者(再エネ側)に負わせることは、大きな参入障壁となりうる可能性がある。本来、受け入れ側(系統側)がもつべき責務の回避を許容してしまうことになり、あるべきイノベーションを減退させる可能性が高くなる。このことは、産業育成や市場の公平性の観点から十分に認識しなければならない。
▼ 注1
これまで3回にわたり連載している「欧州の風力発電最前線」は、リレー連載として今回から筆者が担当させて頂くことになりました。連載を通して共通のテーマはあるものの、他の執筆者と異なる見解もある可能性もあり、筆者担当分の文責は筆者自身にあることをあらかじめお断りしておきます。
▼ 注2
ESCJ:Electric Power System Council of Japan、一般社団法人 電力系統利用協議会。ESCJは平成27(2015)年3月31日をもって、解散した。これに代わって、平成27年(2015年)4月1日に、電力系統広域的運営推進機関(略称:広域機関)が設立された(http://www.occto.or.jp/)。
英語表記:Organization for Cross-regional Coordination or Transmission Operators, JAPAN〔略称:OCCTO(オクト)〕
▼ 注3
電力系統利用協議会ルール 第3章13節および第6章13節
http://www.escj.or.jp/obsolete/making_rule/guideline/data/rule_japan141216.pdf