注目される半導体チップベンダの動向
これまでに数多くの企業が、11ah規格の策定に向けて取り組んできた。TGahの議長は、米国ニューラコム(NEWRACOM。2014年設立されたW-Fi関連ビジネスのスタートアップ企業が務めている。このほかの主な参画企業としては、ブロードコム(Broadcom)やファーウェイ(Huawei)、インテル(Intel)、LG(LG Electronics)、マーベル(Marvell Tech-nology Group)、NEC、サムスン(Samsung Electronics)、ZTEなどがある。とりわけ、ブロードコムや クアルコムなどのWi-Fiコンシューマ市場のシェアを勝ち取っているWi-Fiチップベンダは、11ah対応チップを開発する可能性があるとみられ、今後の動向に注意する必要がある。
11ahは、従来の11a/n/acをクロックダウンする(動作周波数を低速化する)かたちで実現できるため、比較的短期間での製品開発が可能ではないかと期待されている。
これに加えて、すでにWi-SUN、ZigBee、Z-Waveなどの競合製品が市場投入されているなか、これら策定に関与してきた企業のうち、900MHz無線デバイスコア(900MHz無線チップの中核的な半導体技術)をもっているベンダの動向も併せて注視したい。
11ahのアプリケーション分野
〔1〕応用事例①:スマート社会の実現
ここでは、900MHz帯で運用される11ahの対象となるアプリケーション分野の視点から考えてみよう。11ahの対象とするアプリケーションとして、例えば、スマートグリッドやM2M/IoTなどの共通概念として、図2に示すスマートグリッド(次世代電力網)やスマートハウスなどで構成されるスマート社会に関する内容がある。情報通信網と電力網を融合させた次世代電力網(スマートグリッド)のみならず、図2に示す赤線のように、ガスや水道も含めてそれぞれ独立したユーティリティ網(ユーティリティ:電気・ガス・水道などのライフラインのこと)が構築されて行くことになる。
図2 スマート社会の概念図(ユーティリティ網とICT)
〔出所:http://www.hayashilab.sci.waseda.ac.jp/RIANT/kurasi.pdf〕
さらに、こられと並行して、図2に示す水色破線の情報通信網(ICT:Information and Communication Technology)も、現在以上に大規模で冗長性(二重構成などによるバックアップ通信網構成)を強化しながら拡張されていくと想定される。
〔2〕応用事例②:センサーネットワークの応用分野
次に、スマートメーターなどを含むセンサーネットワークからの情報の例や、応用分野の例を挙げる。センサーネットワークは、多くのセンサーをネットワークで接続することによって1つのシステムとして動作させるが、各センサーが感知する情報の例としては、表1に示すように、
- 気象や天候などの環境からの情報
- 位置や速度、振動などの状況の情報
- バーコードや指紋などの識別情報
- ガス漏れや放射線などの原因を特定する情報
などに分類される。
表1 センサーが感知する情報の例
〔出所 NICT:センサーネットワークの応用分野より、http://www.venture.nict.go.jp/trend/sensor/1_1.html〕
また、センサーネットワークの応用分野としては、表2に示すように、業務分野、施設管理分野、環境分野、保険・医療・福祉分野、交通分野、安全・防災分野など、非常に多岐にわたっていることがわかる。
表2 センサーネットワークの応用分野
〔出所 NICT:センサーネットワークの応用分野より、http://www.venture.nict.go.jp/trend/sensor/1_1.html〕
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以上のような、スマート社会やセンサーネットワークの応用分野などにおいて、11ahの活躍が期待されている。次回(第3回:最終回)では、これらの流れを受けて、IEEE 802.11ah(タスクグループ)で審議されている11ahの具体的なアプリケーション、用途や役割などを紹介する。
(第3回:最終回に続く)