[M2M/IoT向けサブGHz版Wi-Fi規格「IEEE 802.11ah」と市場展望]

M2M/IoT向けサブGHz版Wi-Fi規格「IEEE 802.11ah」と市場展望 ー 第3回 (最終回) 802.11ahとWi-SUNはどのように共存できるか ー

2015/06/01
(月)
大澤 智喜 株式会社ブリッド 代表取締役社長/インプレスSmartGridニューズレター コントリビューティングエディター

スマートグリッド、M2M/IoT 時代を迎え、米国電気電子学会(IEEE)において、900MHz(サブGHz)帯で運用できる新しい無線LANの国際規格「IEEE 802.11ah」(いわゆるWi-Fi グループ)の標準化が、2016 年3 月の完了を目指して、急ピッチで進められている(現在ドラフト4.0を審議)。これまで、既存のWi-SUN やZigBee IP、Z-Wave などのサブGHz 帯の無線規格(日本では920MHz帯)などと比較しながら、日本におけるサブGHz帯の割当状況や世界の半導体チップベンダの動向を含めて、IEEE 802.11ahの基本的な規格動向を解説した。
第3回(最終回)は、IEEE 802.11ah で想定されているアプリケーションの例を見ながら、競合するWi-SUNの広がりの現状を紹介した後、11ahとWi-SUNはどのように共存できるかを解説する。

IEEEで想定されているアプリケーションの例

〔1〕アプリケーションの分類

 前回の表2に示したセンサーネットワークの応用分野の分類のなかで、IEEE 802.11ah(以下、11ah)は、他の無線ネットワーク技術などと同じく、センサーで定量化される情報を、無線ネットワークによって運ぶ役割を担うことになる。これらを踏まえ、表1に示すIEEE 802.11ahで議論されているアプリケーションの想定を見てみよう。

表1  IEEE 802.11ahで議論されている想定されるアプリケーション

表1  IEEE 802.11ahで議論されている想定されるアプリケーション

〔出所 https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/11/11-11-0457-00-00ah-potential-compromise-of-802-11ah-use-case-document.pptxをもとに著者作成〕

〔2〕アプリケーションのイメージ例

 図1は、センサーやメーターアプリケーションのネットワークイメージ図である。ここでは、

図1 802.11ahで想定されるセンサー/メーターネットワーク向けアプリケーション

図1 802.11ahで想定されるセンサー/メーターネットワーク向けアプリケーション

〔出所 Potential Compromise for 802.11ah Use Case Document、https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/11/11-11-0457-00-00ah-potential-compromise-of-802-11ah-use-case-document.pptx

図2 802.11ahが想定するヘルスケア/フィットネス向けアプリケーション

図2 802.11ahが想定するヘルスケア/フィットネス向けアプリケーション

〔出所 Potential Compromise for 802.11ah Use Case Document、https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/11/11-11-0457-00-00ah-potential-compromise-of-802-11ah-use-case-document.pptx

  1. 近隣地区(地域通信網)に設置された11ahのAP(Access Point、無線アクセスポイント)とホームネットワークをつないだり、
  2. 広域通信網に設置される分散型オートメーション機器(分散化されたデバイス)とAPをつないだりする

無線通信手段として11ahが想定されている。

 図2は、ヘルスケアやフィットネスアプリケーションにおける、病院などでの使用例を想定したイメージ図である。

 図3は、802.15.4g(SUN:Smart Utility Networks、いわゆる「Wi-SUN」)を使用した端末ネットワークを集約化し、バックホールのネットワークへつなぐための11ah使用例のイメージ図である。

図3 産業用プロセスオートメーションに対するバックホールネットワーク

図3 産業用プロセスオートメーションに対するバックホールネットワーク

〔出所 Potential Compromise for 802.11ah Use Case Document、https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/11/11-11-0457-00-00ah-potential-compromise-of-802-11ah-use-case-document.pptx

 また、日本では電波法の準拠のほかに、上位のプロトコルとしてECHONET Lite注3に準拠する必要があるため、対象となる無線ソリューションは、おおむねプロトコルスタックまで無線ネットワークデバイスまたはモジュール側で処理しているようである。ちなみに、米国ではECHONET Liteと同様のプロトコルスタックとして、SEP 2(Smart Energy Profile 2.0注4)という規格が採用されている。


▼ 注1
バックホール:基幹網と基地局(AP:アクセスポイント)を結ぶための局所エリアネットワークを指す。背後(Back)で輸送(Haul)するという意味からこの造語が作られた。

▼ 注2
オフローディング:モバイル通信(携帯電話網)において、データ通信量(トラフィック)の増大によって、通信速度が低下したり、つながりにくくなったりした場合に、そのトラフィックの一部をWi-Fiなどを使用して携帯電話網以外へ逃がし、通信網の負荷を分散させること。

▼ 注3
ECHONET Lite:スマートメーターや家電機器などの制御を規定したIP対応のHEMS(家庭用エネルギー管理システム)構築のためのプロトコル(通信規格)。エコーネットコンソーシアムにおいて2011年6月に策定され、2012年2月、経済産業省傘下のスマートコミュニティ・アライアンス(JSCA)において標準インタフェースとして承認された。注4のSEP 2と類似した機能を備えている。

▼ 注4
SEP 2:Smart Energy Profile 2.0、米国のNIST(国立標準技術研究所)で採用されたホームネットワーク(HAN)におけるIP ベースの制御用の標準アプリケーションプロファイル。例えば、スマートハウスにおけるデマンドレスポンス(電力需給の制御)や負荷制御(家電やエアコン等の制御)、電力料金の課金、見える化、さらに電気自動車の充電管理などを行う機能を備えている。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...