日本における燃料電池自動車(FCV)の開発の経緯
次に、燃料電池自動車の開発の経緯を歴史的に見てみよう。
日本における燃料電池自動車の実用化は、今から12年余前の2002年12月、トヨタとホンダ(本田技研工業)が、燃料電池自動車を、内閣官房、経済産業省、国土交通省、環境省などの省庁に、世界で初めてリース方式で販売したことがスタートとなっている。当時のリース料金は、トヨタが120万円/月、ホンダが80万円/月であった。
その後、図3に示すように、経済産業省が実施する「燃料電池システム等実証試験研究補助事業」のもとに、水素・燃料電池実証(JHFC:Japan Hydrogen & Fuel Cell Demonstration Project、2002〜2013年度)による本格的な水素ステーション実証や、水素ステーションの先行整備を経て、2014年12月に市販車として「MIRAI」(トヨタ)の一般販売が開始された。メーカー希望小売価格は723.6万円(消費税込)で、これに国からの補助金202万円、さらに県によっては100万円程度の補助金が上乗せされ、実質400万円台前半での購入が可能となっている。
図3 燃料電池自動車(FCV)の市場投入までの経緯
〔出所 経済産業省 資源エネルギー庁、「燃料電池自動車及び水素ステーションについて」、平成27(2015)年1月26日、 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg3/toushi/150126/item4.pdf〕
トヨタは、2015年に約700台、2016年には2,000台程度に増産すると発表、さらに2015年秋には、欧米にも輸出される予定となっている。なお、トヨタに続いて、ホンダや日産自動車からも燃料電池自動車が発売される予定となっている(前出の表1参照)。
ハイブリッド車は累計700万台を突破、販売台数は50%へ
〔1〕求められる官民一体の体制とグローバルな業界の連携
トヨタは、17年前の1997年12月に、世界初の量産ハイブリッド専用車「プリウス」(PRIUS)の製造・発売を開始した。図4に示すように、それから17年たった2014年9月末時点で、トヨタのハイブリッド車は約30モデル(プリウス、アクア、カムリ、クラウン、カローラほか)に達し、全世界90以上の国・地域で累計700万台を突破したところである注4。
図4 トヨタのハイブリッド車の世界累計の販売台数(2014年12月時点)
〔出所 トヨタ自動車「燃料電池自動車の開発」より〕
このように、この10数年間で、ハイブリッド車はかなり浸透してきたが、国内市場を見てみると、最近ようやく年間販売台数の50%程度の台数が売れているといった状況である。
しかし、ハイブリッド車は新技術の自動車ではあるが、エンジンはそのままであり、このエンジンとモーターをうまく組み合わせてハイブリッド車にしているため、燃料供給(ガソリンスタンド)のインフラはこれまで通り利用できる点が大きな特徴である。
これに対して燃料電池自動車は、水素ステーションがなければ走行できない。すなわち、燃料電池自動車はハイブリッド車に比べて、普及に向けたインフラ整備の壁ははるかに厚いのである。このため、いくら燃料電池自動車が究極のエコカーだといっても、インフラも含め、最初から民間企業だけで普及させていくには大変な困難を伴う。したがって、開発やインフラも含めて官民一体の体制と、国や自治体の予算や政策的なバックアップが求められ、さらにグローバルな業界の連携や協調も重要となってくる。
〔2〕燃料電池自動車は3台/日のペースで製造
トヨタの燃料電池自動車の製造は、現状ではまだ量産体制ではないので、手づくりに近い状態である。そのため、現在は1日当たり3台程度のペースで製造されているのが現実である。
これは、とくにこれまでのエンジン自動車に代わってまったく新しい心臓部である「FCスタック」(発電部。最高出力114kWを発電)と、高圧の「水素タンク」(約700気圧)を搭載するだけに、1台1台丁寧につくり込み、基礎を固めて、知見なり組み立てのノウハウを蓄積し、信頼性を確立することが第一に求められているからだ。このことは、将来、燃料電池自動車を量販するためには避けて通れない最初のハードルともなっている。
MIRAIの納期は現在3年待ちの状態で、顧客からの評判もよいが、今後は水素ステーションなどのインフラも、販売店やサービス、検査も含めて体制を整備・強化していくという段階でもある。